えっ!? そっち!? いや、骨法はそういう意味じゃ……。◇兎オヤジの見聞録◇

たゆんたゆん

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第1章 深淵の湖

第14話 えっ!? これ骨なの!?

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 ぐ~~~~

 【骨法こっぽう】の詳細を見て呆然としていたら、腹が鳴った。

 確かに、何も食ってない。

 朝食を仕入れに行こうとしたら、襲われたんだから食ってる暇もなかったな。

 というか、何処かで解体しないことには肉にもあずかれん。

 けどこのナイフじゃ解体は心許無こころもとない、よな。



 「お!?」



 そこまで考えて思い当たった。

 【骨法】の骨形成を試せばいいんじゃないか?

 近くの枝に引っ掛けておいた頭蓋骨を1つ手に取る。

 「【骨形成】。おおっ!?」

 そう意識して、手に取った頭蓋骨を挟み潰すように力を加えると、折れずにぐにゃりと潰れた。

 えっ!? これ骨なの!?

 そう思いたくなるくらい柔らかく、粘土のように簡単に大人の頭くらいの大きさの骨粘土が出来た。

 「色々試してみるか。【骨錬成】。おおっ!?」

 密度を高めるやつだ。

 使ってみると、ソフトボール大の塊大まで縮んでしまった。

 密度が高まるってこういうことなんだろう。

 「【骨形成】」

 どれくらいの時間粘土のような柔らかさを保っているのか分からないが、これで短刀もどきを造ってみることにした。

 ベルトに差してるナイフより大きな形になりそうな気配だ。

 グリップは軽く握って手の形を馴染ませ、つばをナイフと似たような形に仕上げる。

 後は刀身だ。

 今考えてるのは解体でも使えて色々と使い勝手の良い短刀。

 当然、さやはない。

 刃渡り20cmくらいの短刀が出来た。

 刃の部分はナイフで何となく削って鋭くしてみる。

 10分も掛ってないと思うけど無骨だがそれなりの短刀が出来た気がするぞ。

 何せ初めての骨粘土細工だ。

 「結構良いんじゃないか? スピカどうだ?」

 ピルルルル ピルルルル

 両肩を行ったり来たり嬉しそうにさえずる姿に目尻が下がる。可愛いなぁ。

 ガサガサッ ピッ

 足元で落ち葉を踏みしめる音がした。スピカの警戒する声が俺の気を引き締める。

 腹は減ってるけど、のんびりしてる暇はない。

 ここは危険と隣り合わせの森だ。

 常在戦場、だな。

 「おいおいおい、何だよ、あのでけえザリガニは……」

 ◆深淵森躄蟹しんえんもりザリガニ
 【種族】フォレスクレイフィッシュ
 【性別】♀
 【レベル】150
 【状態】興奮
 【生命力】7227 / 7627
 【魔力】7873 / 7873
 【力】7570
 【体力】7619
 【敏捷】7799
 【器用】7620
 【知性】7846

 【ユニークスキル】
  ?

 【アクティブスキル】
  ?

 【パッシブスキル】
  ?

 【称号】
  ?

 思わず凝視したせいで【鑑定眼】が発動してしまったみたいだ。

 でも、それで良かった。

 全部じゃないまでも、相手の情報が手に入ったんだ。活かさなきゃ勿体無い。

 体の長さと同じ3mくらいの触覚が動いてる。

 あと、言わせてくれ。



 ーー蜘蛛か!!



 と思えるくらい足がなげえ。

 蜘蛛と同じ8本足に、プラス2本の巨大なはさみ。何だか鋏の縁が妙に光沢が良い。

 ん? 前足の4本には小さな鋏があるのか?

 何にしても重たい胴体を地表から1mくらいの高さで支えてるんだ、細いとは言え相当な筋肉だろうな。
 
 キチキチキチキチ

 変な音が聞こえる。何だ?

 「気付かれた!? 鳴き声か! おわっ!! ったのかよ!」

 森ザリガニの2本の鋏が霞んだかと思った次の瞬間、俺が居る木が大きく傾いたんだ。

 あの鋏は挟むだけじゃなく、外側にも刃物が付いてるってこった。

 「なんてこった」

 この森の生物は出鱈目でたらめ過ぎるだろうがよ。

 毒突きたくなるのをこらえて、枝から飛び降りる。

 真下に降りると、あの刃鋏はばさみに細切れになるのが目に見えてるからな。距離は取る。

 レベル差は50近くあるのは判った。

 でもステータスの数値が倍以上の開きがあるのはどう説明してくれるんだ。

 「ここの生物の成長率は桁が違うってことか? 足もはええっ!?」

 ザリガニの前進は遅い、という俺の常識がまたたく間に粉砕された。

 俺が着地した頃には10m近く距離を取ったはずなのに、今はもう3mくらいの間しか無い。



 ーー逃げられない。



 と言うか、逃げても次の問題にすぐぶち当たるに決まってる。

 「ザリガニもエビもカニも、骨はねえ。けど、外が骨なら問題ないはずだ、ろっ! 【骨抜き】ぃぃぃぃっ」

 どうやら兎の動体視力も上がってるらしく、霞んで見えてた刃鋏の斬撃をなんとかかわしながら懐に飛び込めた!

 兎じゃなきゃ今頃斬殺死体が転がってるだろうな。

 腹の下に潜りながら、右側だけの腕と足の付け根の外骨格を抜きながら走り抜ける。

 レベルが上がった所為か、失敗したような感覚はない。

 思った通り、外骨格もちゃんと“骨”扱いだ。

 ずんーー

 と地面が揺れた。

 案の定、足の付け根にある殻取っ払うと重さに耐え切れなくなったらしい。そりゃそうだろ。

 この殻の内側に筋肉が付いてたんだからな。

 足元に来とった殻を転がすと、ぶつかり合ってカラカラっと乾いた音を響かせる。

 「へっ、朝飯はザリガニコースと洒落こむか!」

 ピルルルルー

 後は一方的な剥ぎ取り作業だ。

 スピカの歌声をBGMに、俺は森ザリガニの解体を始めるのだったーー。





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