えっ!? そっち!? いや、骨法はそういう意味じゃ……。◇兎オヤジの見聞録◇

たゆんたゆん

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第3章 塒と亡骸

第34話 えっ!? 聞こえなてないの!?

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 「先程からハクト様はどなたと御話しておられるのでしょうか?」

 えっ!? 聞こえなてないの!?

 「え、マヂで!?」

 それが本当ならすげぇ恥ずかしいぞ。

 「まぢで、というのがどういう意味か解りませんが、吾《われ》にはハクト様と、小鳥のさえずる声しか……」



 Oh……。



 足の先から頭の先に向けて、かーっと体が暑くなってきた感じがする。

 どうやら、話が出来るのは俺とスピカだけらしい。人が居る時は気を付けねえとな。

 「あ~何て言えばいいか……。この頭の上に居る青い小鳥がスピカって言ってな、俺の嫁さんだ」

 「――スピカ……様? 失礼致しました! 女神ザニア様から伺っておりました! 女神スピカ様が地上でハクト様と功徳を積まれると。ああ、そうなのですね! 女神スピカ様がハクト様の奥方様になるということは――」

 慌てて土下座状態に戻って、足下の骨に向かって口上を述べてる骸骨ねえちゃん。

 ザニア姐さん、そこまで話してんのかい。

 「はい、ストップ。落ち着きな、骸骨ねえちゃん」

 そのねえちゃんの頭をポフッポフッとふわふわの手で軽く当てるように叩いて遮る。



 どうやら、猪みたいなねえちゃんらしい。骨だが……。



 「ふぁっ!? も、申し訳ありません!」

 ふぁっ? 何の「ふぁっ!?」だ?

 まあ良い。

 「その話は俺らの間だけの秘密だ。誰彼話していいもんじゃねえし、この青い小鳥がスピカだと言っても頭が可怪しいと思われるか、不敬だと思われるかのどっちかだろうさ」

 「う……」

 「俺の従者になるって言うんだったら、ここは譲れねえな。OK?」

 「え、あ、あのおーけーとは何でしょうか?」

 そこからか……。

 というか、俺が普段の生活で使ってたカタカナ英語みたいなものは全部ダメそうだな。

 「分かったか、っていたんだよ」

 「で、では! 血を1滴頂けるのですか!?」

 「スピカさんや、いいんだよな?」

 『はい! ザニア姉様が従者にと思われたのなら問題ないと思います』

 俺にはスピカの声として聞こえるが、骸骨ねえちゃんには鳥の鳴き声にしか聞こえないって訳か。良い含めておく方が良さそうだな。

 「ああ、その前に、スピカと俺は意思の疎通が出来てるから、頭が可笑しくなったと思わないように頼む。さっき言ったことと、これをんでくれるなら」

 「も、勿論でございます!」「うおっ!?」

 被せ気味に即答された。しかもすがり付く勢いで、だ。

 何をザニア姐さんに言い含められたかは知らんが……賑やかにはなりそうだな。

 腰をまさぐるとベルトとポーチ×2、ナイフ×2が残ってるのが確認出来た。

 「っ」

 取り敢えず、壊れずに残っていたナイフで人差し指の指先を切り、ぷくっと血玉を作る。

 1滴って言ってんだから、そんなにどくどく出す必要もねえだろ?

 「ほい、口開けな」

 「えっ!? あががっ」

 勿体振る気もねえから、そのまま髑髏しゃれこうべの口の中に指を突っ込んでやった。

 ぽぅっ

 そしたら、骸骨ねえちゃんの全身が柔らかい蛍火みたいな光に包まれるじゃねえか。

 「何だ!?」

 ゾクッと良く分からん何かが背筋を奔る感覚があった。

 『契約がちゃんと発動したという印です。ほら、首に赤い刺繍ししゅうレースのチョーカーが現れたでしょ? きっとヴィンデミアトリックス姉様のデザインですよ。凄く素敵ですから!』

 確かに骸骨ねえちゃんの第4頚椎くびに巻き付くような形で、赤い刺繍レースが巻き付いてる。奴隷って聞くとつい革で出来たいかつい首輪みたいな物をイメージしちまうが、これなら随分マシだな。

 骨にレースのチョーカーというのが奇抜シュールな組み合わせだが……。

 いや、マシどころかかなり良い。ヴィなんとか姉様ありがとうございます。

 それにしても、長ったらしい名前だと憶え辛え。スピカの姉妹きょうだいが沢山居るのは分かったが、名前と顔が一致しないのは問題だぞ。

 ま、ザニア姐さんは問題ないが……。

 「――ハクト様、いえ、ご主人様! これからどうぞよしなにお願い致します!」

 うげ。「ご主人様」って言われてぞわっと鳥肌が立った。

 「待てまて待て。そのご主人様は止めてくれ。さっきまで呼んでたように名前で良い。いや、名前良い」

 この感覚に慣れなきゃならんのなら、今まで通りでいい。

 50のおっさんが「ご主人様」だなんて気色悪ぃわっ!

 「いえ、そうは参りません! ご主人様はご主人様ですので、名前で呼ぶなど恐れ多い事でございます!」



 頭もかてえのかいっ! 骨だけに……。



 「じゃあ、どうすりゃ良い? ご主人様は却下だ」

 土下座から正座状態の骸骨ねえちゃんに候補を上げてもらうことにした。

 叩き台は多い方が良いだろ?

 「では我が君」

 鼻息荒く、候補を上げるが一刀のもとに斬り捨てる。

 「恥ずかしいから却下」

 「殿」

 「がらじゃねえ」

 「主様あるじさま

 「似てるから却下」

 「あるじ

 「響きがヤダ」

 「閣下」

 「却下」

 「旦那様」

 「――夫婦みたいだから、却下」

 「御前」

 「何か嫌」

 「ううっ、では何とお呼びすれば……」

 ガクリと両手を突いて肩を落とす骸骨ねえちゃん。

 「じゃあ、初めのように名前で」

 「それはなりません! 他の者に示しが付きません!」

 「他の者?」

 他の者って、俺とスピカとお前しか居ねえだろうがよ。

 「ご主人様は偉大な御方です。あの邪竜を討ち倒してしまわれる力をお持ちなのですから。そのような方に、従者が集まらぬ訳がありません! ですから、最初が肝腎なのです!」

 あ~まあなんだ。言いたいことは理解わかる。

 集まるかどうかは知らんが……。

 「じゃあ、何で貴族っぽい呼称が多いんだ?」

 「うっ。実は、姿こそ骨に身をやつしていますが、これでもわれは候爵家の出なのです」

 「こうしゃく? 1番上の公爵? それとも2番目?」

 「2番目です」

 本物の貴族様かよ。しかも候爵?

 上から数えた方が良い爵位じゃあねえか。じゃあ、呼称が偏っても仕方ねえな。

 「なるほどね。俺は平民の出だから良く判らんが、貴族出身のお前さんは俺の事を何て呼びたいんだ? さっきまでのは思い付く候補を上げただけだろ?」

 「わ、吾は騎士に憧れておりました」

 急にテンション高く、肋骨の前で両手を握り締め俺を見据える骸骨ねえちゃん。

 「ん?」

 「しかし、吾が家系は建国以来、宮廷に近衛魔術士インペリアルメイジを輩出してきたので、騎士には為れなかったのです」

 完全に名ばかりの貴族じゃなく、質実共に凄いとこの出だったんだな。

 無いもの強請ねだりというか、隣の芝が青く見えたってことか。

 「ほうほう、それで?」

 「主君と呼ばせて頂きとう存じます!」

 きっと嬉しそうな表情なんだろうが、口をぱかっと開けて宣言する骸骨姉ちゃんに、俺は眩暈めまいを感じずにはいられなかった――。






 Oh……。





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