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第3章 塒と亡骸

第40話 えっ!? それ食っちゃうんだ!?

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 「ふぅ~主君。朝から馳走であった」

 「阿呆。従者だったらお前が先に起きて準備するのが普通じゃなねえのかよ?」

 何処に入ったのか分からない体型で、両手を後ろに突きながら余韻に浸るヒルダに思わず小言を言っちまった。

 だってよ、朝から森ワニ肉のキロステーキ何枚食えば気が済むんだ? 10枚か!?

 俺でも2枚だぞ? 

 「うむ。主君が言うことは正しい」

 「だったら」

 「だが、われは生まれて此の方、料理というものをこしらえたことがないのだ」

 「マヂかよ……。とんだ箱入り娘だなおい」

 力が抜けるぜ。

 スピカ? ああ、味見がてらちょこっと肉食ったら、あとは残ってた麦粒だな。肉よりも、森ザリガニの肉のほうが好きらしい。今は陽の光が届くようになった洞窟の奥を探索中だ。

 俺も気にはなってるんだが、まずは解体が先だな。

 「そうは言うがな主君。こう見ても吾は候爵家の出なのだ。幼い時から食事は出されたものを食べるという習慣しか無い」

 「自慢になるかよ。じゃあこうするか。魔法と字を教わる代わりに、料理を教えてやる。筋があるかどうか分かるまでやるぞ?」

 「うむ。主君、宜しく頼む」

 話に切りが着いたところで、釜戸はそのままにドラゴンを取り出して解体することにした。

 ん? そりゃ、洞窟のぬしが居なくなったんだ、ここをねぐらにしてもバチは当たらんだろう。

 色々遣りたいことだらけだが、1つずつ片付けねえことには、な。

 昨日造った大きな解体用のプールへ赤竜レッド・ドラゴンの胴体を横向きに引っ張りだす。

 出した振動でパラパラと天井から砂埃が降ってくるが、崩れてくる兆候はねえ。

 「おし、ヒルダさんやその外套ローブ替えがねえんだからよ、血で汚さねえようにして手伝ってくれるか?」

 「う、うむ。ま、任せておけ」



 Oh……。



 何で骸骨なのに、そんな色っぽく脱ぐ必要がある?

 あと、照れんな!

 眼で追っちまうだろうがよ。

 「あたたっ!? スピカ!? いや、これは事故だ。俺にやましい所は1つもねえ」

 急に頭に何かが刺さる感触が生まれた。スピカだ。

 『違います! そうじゃなくって、ちゃんと女性として見てあげて下さい! 骸骨骸骨って、ヒルダちゃんは女の子なんですよ?』

 「お、おう……。頑張ります?」

 『何で訊くんですか?』

 今のこの姿じゃ、どう見ても……なあ。そりゃ骨盤見りゃ女だって分かるんだがよ。

 「い、いや。まだ何て言うか、異性として意識は出来んだろ? 色々と」

 『む~。でも、そう見てあげてくださいね?』

 「ああ、分かった。そうするよ」

 でも、スピカの希望に沿うようにはしてやりたいから、そのつもりで居るということにしてもらった。これ以上は現状どうやっても無理だ。

 『あ、そうだ。奥に財宝がありましたから、後で行ってみましょう!』

 「財宝あるのか!? 行く行くっ! おしっ! 俄然がぜんやる気が出てきたぜ」

 スピカの報告に思わず目をみはっちまった。おし。さっさと解体するぞ。

 竜骨で造った2mの剣鉈けんなたをゆっくり首の切り口から腹に向けて動かしてゆく。軽くて、相変わらずの切れ味だ。ほとんど力が要らねぇんだよ。

 コツッと刃先が胸骨に当たった感触が手に伝わってきたから、骨に沿ってそのまま腹の方へ刃を滑らせる。ゆっくりとした動きだが、鱗も何のそのという感じでスパスパ切れてるんだ。あっという間に下腹部に到達さ。後はこれを何回か繰り返せば内臓が出てくる。

 と言っても、腹の方は内臓がズルリと出てるから、胸骨を切るだけだがな。

 胸骨も2往復くらいで切れた。

 ん? 骨抜き? んなもん後だ。

 解体には順番てもんがあんだよ。

 こっから腹をパカって観音開きにするんだが、翼が邪魔だからスパっと切って収納する。

 「よっと。おーい! ヒルダ、そっちから切り口を上に持ち上げてくれるか? こっちでも引っ張るからよ!」

 「うむ。了解したぞ」

 ズゥンと地響きを立ててドラゴンの半身が開く。初めての共同作業だな。

 ……阿呆らし。

 開くと、喉元から心臓、肺、食道、胃、胃みたいな何か、あとは他の動物と変わらない綺麗な内臓がぷるんと肉の器の中で光を反射してた。腹を開いた割りに、血が少ねえな。

 そんなことを思いながら、肋骨の内側に上がった俺は目を疑った。

 「って、おい、ヒルダ! その体どうした!?」

 「ん? 吾がどうかしたか?」

 そこに居たのは、さっきまでの真っ白な骸骨じゃなく、真っ赤な骸骨になったヒルダが立ってたんだ。そりゃ驚くだろ。

 「莫迦ばかなんとも無えのかよ!? 骨が真っ赤だぞ!?」

 「えっ!? しゅ、主君、これは一体どういうことだ!?」

 「それはこっちのセリフだ!」

 どうやら本人の意思とは関係ねえとこで起きたことらしい。

 「わ、吾はどうなってしまうのだ!?」

 「というか、落ち着け。なんとも無えのかよ?」

 「う、うむ。違和感は……ないな。少し体温が上がった気がするくらいか……?」

 体温? 骸骨に体温があるのか?

 朝、冷かったんだぞ?

 ここで俺はある失敗に気がついた。



 「あ……。皮剥いでから、腹開くんだった……」



 あまりの大きさと財宝という人参に気が向いてた所為でうっかりミスをしちまった。

 『ハクトさんなら何とか出来ます』

 「ああ、まあ手順が違っても腐るわけじゃねえからな……」

 頭の上で慰めてくれるスピカに元気を貰い、俺たちは解体を続けたーー。



                 ◆◇◆



 解体をしてて判ったことがある。

 それは、出たドラゴンの血は漏れ無くヒルダに吸収されたってことだ。

 どうなってやがる? ああ、体は赤いままだな。赤というか緋色というか、綺麗な色だぞ?

 そして、胴体の解体が終わり、頭の解体を始めた時にそれは起こった。

 ヒルダのやつが、赤竜レッド・ドラゴン眼窩がんかに手を突っ込んで目をえぐり出しやがったんだ。

 そこまでならまだ良い。

 ああ、出してみたかったんだなとも思えるが、次の瞬間言葉を失った。

 何と、それにかぶり付いたじゃねえか!?

  思わず突っ込んじまったよ。

 「えっ!? それ食っちゃうんだ!?」





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