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第4章 旅の仲間
第53話 えっ!? 入らない!?
しおりを挟むそいつらはあっという間に山から遣って来た。
ーー青黒い鱗に覆われた飛竜の群れ。
さっきの赤い奴は珍しい個体だったのか?
騒がしく吠え、上空を旋回するワイバーンを見ながら腕を組む。さて、どうすっかな。
手っ取り早く、翼さえ使えなくすればこっちのもんだ。
けど、上で飛んでるだけじゃ手が出せねえ。あの赤い奴みたいに襲い掛かってくれれば遣りようもあるんだがな。
「痛てててて……」
そうボヤいたところで、レベルアップ痛が遣って来た。
下の3人と1羽が赤い奴に止めを刺したんだろう。
ああ、俺が勝手にそう呼んでるだけさ。どういう仕組みか知らんが、魔物を殺せばRPGゲームみたいに経験値のようなものが体に入ってくるらしい。本当に経験値なのかは知らねえぜ?
「ようなもの」が味噌だな。俺もまだ謎が解けてねんだよ。
で、成長する時に痛みが体に出るのさ。ま、異世界版の成長痛って言っても良いかもな。けど始めの頃に比べたら、随分痛みにも慣れてきたぞ。筋肉痛になった時みたいに、動かすと体が痛いが動けなくはねえっていうあれだ。
これは俺の感覚だが、内臓まで筋肉痛を起こしてるんじゃねえかと思っちまう。
女の月の物みたいなもんか。
それか、酷い下痢な。腹が渋る奴。悪い、ちと汚かった。
そんなことを思ってたら、死肉に向かってワイバーンが降下し始めたじゃねえか。
食い気が先かよ。
あいつらにしてみりゃ、珍しい個体の肉はご馳走なんだろう。俺らみたいなちっぽけな奴を食うよりも、食いごたえはあるだろうさ。
「んな美味いもん、譲ってやる気は更々無えがな。【骨爪】」
我先に赤いワイバーンの肉を喰らおうと急降下するワイバーンの背中に飛び乗り、その肩口の辺りをザンッと切り裂く。
後は、そいつを足場に次々背中を跳び渡って同じように機動力を殺すだけだ。
結構な高さから落ちることになるから、ダメージもそこそこ期待できるはず。
ガアアアア――――ッ!! ギュアアアーーーーン!! ゴガアアアア――――ッ!!
次々に揚力を失って墜落するワイバーンの絶叫と、墜落した時の地響きが谷を埋め尽くす。流石に落ちたくらいじゃ死なねえか。
高いとはいっても精々40mか50m位だ。俺らは高いと思うかも知れんが、もともと空を飛んでる奴らはもう地面、って感覚かもな。まあ良い。止めは任せて、俺は落とす。
「言わなくても判ってるだろ?」
そう、独り言を漏らしてチラッと下を見ると、魔法を使ったり、でかい斧槍を振り回したりしてるのが見えた。問題ねえな。
早いとこ、済ませて俺もスピカたちの応援に行くか。
「忘れんな、1匹は残すぞ?」
誰に言うことなく、確認を口に出しながらワイバーンの背を跳ぶ俺。逃げ帰る姿ってのが要るんだよ。
それにしても、兎の筋力凄えな。こんなに跳べるとは驚きだぜ。
それと、赤竜の骨を取り込んだのも良かっただろう。
本当は硬い、ワイバーンの鱗や皮膜をサクッと切り裂ける。
こいつらも竜には劣るだろうが、竜の亜種くらいには入っていそうな気がする。そうなら、骨を取り込んでも悪いようにはならないだろう。
いや、これからのことを考えれば、そう言うのは積極的に融合しちまったほうが良いのかもしれねえな。
「よっと! 逃げんな」
目の前で仲間が落ちてくのに驚いて、高度を上げようとするワイバーンの足に飛び付き、それを踏み台にして翼の付け根を切り裂く。骨まで断てなくても、筋肉を半分以上切れれば御の字だ。
自重に耐え切れずに勝手に落ちてくれる。
何匹かは、尾の先に何かありますってバレバレな棘みたいな物を、槍の穂先ように突き出してくるが、んなもん当たるかよ。
上手く尾を使うもんだとは思うが、動きが大雑把な上に、小回りがきかないのが欠点だ。俺みたいなちょこまか動きまわる奴だと、相性が最悪だろう。
ワイバーンね。
何か引っ掛かってるんだが、昔遊んだゲームの事なんか全部思い出せるはずもねぇか。
1匹だけ残して、翼を使い物にならなくしたところで、俺も谷に降りる。あれだけ居た仲間が全部地上に落とされたんだ、このまま居座りゃどうなるか動物並の知能でも理解は出来るだろう。
「もう来んなよ」
来たら容赦はしねえ。ここはそういう場所だって理解したからな。飛び去るワイバーンの背中へポツリと呟いてから、視線を落とす。
見渡すと、其処彼処で吠え声や使える翼を支え杖のようにして動くワイバーンの姿が視界に入って来た。奥の方にスピカたちの姿が見える。魔法らしき火や白い斧槍で近づいてくる奴を攻撃しているようだ。
しっかし、飛べなくしたらこうも動きが鈍くなるもんかよ。
「あの骸骨騎士、どれだけこっちに喚んどけるのか確認してなかったな。ま、そりゃ後で良いか。まずは、皆でレベル上げして、こいつらの肉で焼き肉祭だ!」
【粉骨砕身】を使うまでもねえな。
自力で十分動ける。
咬み付いてくる凶悪な口を躱しながら、スピカたちの居る洞窟の入口側に戻る。お、赤い奴以外に、もう2匹倒してるのか。
「悪い、待たせた。一気に方を付けるから、さっきみたいに止めを頼む」
「承知した」
「任せといて」
『ううっ。ハクトさん体が痛いです……』
「ーー」
「はは。そりゃ成長痛だ。こいつら全部倒したら、そこそこ強くなれるだろうから、そんときゃ我慢比べだぞ。じゃ、行ってくる」
短く返される返事や肯きに乾いた笑いを返しながら、死骸を【無限収納】へ放り込む。放り込むと言っても、死骸の体に触れて、引っ張るような意識をするだけで、空間にずるっと呑み込まれていくんだぜ?
今更だが、便利過ぎるだろ。
いや、使い方が解ってきたから、便利さを実感できてるって事だな。
そんな事を考えながら、【骨爪】でワイバーンの目を突き、そのまま脳を刺して、止めを刺してもらうことを暫く続けていると、いつの間にか周りは血の臭いでいっぱいになってた。
「痛てててて……」
疲労とレベルアップ痛が心地良いが、血腥いのがどうもな……。
骸骨騎士はどうか知らねえが、スピカもヒルダとシアンも成長痛で悶えてるのが見える。どれくらいレベル上がったのか後で確認してやるか。
それにしても、随分肉が手に入ったな。
竜が色々と素材になるんなら、こいつらも何かしら使えるかも知れん。
死骸を【無限収納】へ回収しながら、3人の方へ来た時だった。ぼーっと突っ立てる骸骨騎士を横目に、倒れたワイバーンの首を引っ張るが、何も起きなかったじゃねえか。
えっ!? 入らない!?
後1匹回収すれば終わりという時、そいつが【無限収納】に入らなかったのさ。
そう言えば、【無限収納】には、死んだものか、植物や物しか入れてなかったな。もしかして、入れれない物もあったりするのか?
……そういやぁ、確認してなかったな。
そう思った瞬間だった。死んだと思っていたワイバーンの無傷の左目が開きやがった。ゾクリと得体の知らない寒気が背筋を駆け上る。
ーー拙いっ!
「まだ生きてるぞ! 気ぃ抜くなっ!」
『「「えっ!?」」』「ーー!?」
俺の目には、ワイバーンの棘尾が撓り、ヒルダたちに迫る様子がスローモーションのように映っていたーー。
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