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幕間
閑話 女神たちの茶会12
しおりを挟む「きゃあっ! ハクトちゃん! 大変!」
「ん……ワイバーンの毒針。ハクト、毒の耐性ない」
思わず、舌打ちしたくなりました。
気を抜いたヒルダとプルシャンを庇って、ハクトが背中にワイバーンの毒針を受けてしまったではありませんか。ワイバーンの毒は強力です。数分で死に至る程ですから。
「ヘゼ姉様! お辛いでしょうが、堪えて下さいっ!」
声を荒げねばならぬほど、ヘゼ姉様は取り乱しておられました。
勿論わたしもです。いえ、わたしたち全員がそうだと言えるでしょう。
間の悪いことに、ザヴィヤヴァ姉様はこの部屋には居られません。呼びに行っている間に事が済んでしまうでしょう。かと言って、問題が起きる都度手を出していては、過剰な干渉になってしまいます。
只でさえハクトには手心を加えているのですから、これ以上は自制しなければなりません。
例え、最悪の結果になるとしても、そういう事が有り得ると伝えてフォルトゥーナへ送り出したのです。皆も、宜しいですね。手出しはなりません。
わたしたちの務めは、この星の管理なのですから。
「ん……スピカ、キレた」
「は?」
ポリマの言葉に気の抜けた声を漏らしてしまいました。キレた?
『こぉ の 莫 迦 ち ん がぁーーーーっ!!』
「「おお!? スピカ姉様、キレたの」だ」
は? 莫迦ちん? 何処の言葉ですか?
水盤の向こうから伝わって来たスピカの怒気を孕んだ声に、水面が揺れます。降神させられたとは言え、神族であることに変わりません。1柱を担っていただけはありますね。
ですが、あの品のない言葉遣いは如何なものかと思います。
下の妹たちに視線を向けますが、シュルマとライエル・アル・アウラはぷいっと視線を逸らせました。怪しい。
ポリマに視線で白状するように促すと、ヘゼ姉様の方を指差すではありませんか。
ヘゼ姉様?
ヘ ゼ ね え さ ま!
ポリマの仕草に驚いた表情をしたかと思ったら、姉様もぷいっと誰も居ない方に顔を逸らすではありませんか。何を知っておられるのか、教えて頂きます。
え? ハクトの世界の劇を見た? スピカと一緒に?
学舎に通う子どもらを教える者の口癖だ、と言われるのですか?
それをスピカが気に入っていたと?
……もしかしてですが、その教える者は男ですか? それも、やや歳を食った中年……?
何故見てもないものを、そんなに正確に当てれるか、ですか?
スピカの好みの男性像を聞いたことがあるからです。
あ、いえ、何でもありません。それならば合点がいきました。
おじ様属性などと誰が言えますか! まったく、あの子ときたら……。
などと問答している内に、ハクトの容体は回復に向かっている事に気付きます。
ギリギリのところでレベルアップが間に合いましたか。何よりです。
レベルアップと便宜上言っていますが、体に魔素を取り込んで体を組み替える変化が肉体という器の中で起きてますからね。上手にレベルアップを使えば、今回のように状態異常も回復できると言うことです。
あの2人にとっても、良い教訓となったことでしょう。ふふふ。ハクトに縋り付いて健気なものです。
洞窟内で横になるハクトたちを見ていて、違和感を感じました。スピカがハクトの頭の上で寝てるのです。いつもは、胸の上で寝てた気がしますが……。
何となく気になったので、水盤の水面を軽く中指で触りスピカへ焦点を合わせます。
「きゃあっ!」「「はだかなの!」なのだ!」「ーーっ」「なっ!? くっ」
そこに映し出されたのは、全裸で抱き合うハクトとスピカの姿でした。
慌てて、水面を平手で打って映像を切ります。
まだ胸がドキドキしていますね。心臓に悪いったら……。
でも、これからはこういう絵もちらほら映るようになるのですから、気を付けなけれなばなりませんね。特に、下の妹たちにはまだ早過ぎます。
ヘゼ姉様も顔を赤らめておられるとこを見ると、想定外だったようですね。
パンパン
柏手を打って、退席を促すことにしました。
これ以上仕事を滞らせるのは、宜しくありませんからね。
ヘゼ姉様に妹たちを連れ出してもらい、歓談室に誰も居ないのを確認して、わたしもその後に続きます。
サロンを出る前に、何も映っていない水盤に視線を向けると、まだ水面が小さく波打っているのが見えました。強く叩き過ぎたかしら……。
「スピカ、元気に過ごすのですよ」
届くはずのない言葉を水面に投げかけた時、向こうから下級神の声が聞こえてきました。どうやら、滞った仕事の催促に来たのでしょう。
背筋を伸ばし、ゆっくりと呼吸を整えたわたしは、下級神が来るのを待つのでしたーー。
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