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幕間
閑話 プルシャンの追懐1
しおりを挟むわたしはプルシャン。
ハクトが私に付けてくれた、大切な名前。
それまでは、名前なんか無かった。
無かったし、無いのが当たり前だった。
だって、湖に棲む魚だったんだもん。
魚の種類?
知らない。
ハクトはベタとか言ってたけど、聞いたこと無い。
でも、ひらひら動く長い胸鰭、背鰭、尾鰭は好きだったよ?
綺麗だもん。
卵産んで、オスに育ててもらって、悠々自適な生活だったな。
けど、オスに近づくとあいつわたしの鰭を噛みに来るんだ。
だから、あいつ嫌い。
けど、翼の生えた赤い蜥蜴に食べられちゃった。わいばーん? そんな名前のやつ。
蜥蜴は知ってるよ。時々湖を渡るんだ。その時にパクって食べちゃうんだけどね。
すばしっこいから、偶に逃げられちゃうよ。
でも、食べてた蜥蜴は毒なんか無かった。
翼の生えた大きな蜥蜴は毒針がしっぽに付いてたんだ。そんなの知らないよ。
その毒針で、ハクトが死にそうになった。
ヒルダが、解毒できるかって聞いてきたけど、そんなの無理。
使えるの水魔法だけだもん。水魔法にそんな魔法無かったよ。
ヒルダはね。
骨なんだ。
わたしと同じメスだって判るんだけど、骨だけでどうやって生きてるんだろ?
最初は嫌な奴って思ったけど、ハクトが好きなんだな、って判ったから良い奴。
ヒルダがどうにかしてくれなかったら、ハクト死んでたし。だから、ひっとう? は譲ってあげることにしたよ。
今ハクトにくっついて、ハクトの胸の音を聞いてる。
ハクトは全身毛皮で、兎顔で、兎の人間なんだって。じゅうじん? そんな種族だってヒルダが言ってた。他にも色んな種類が居るって言ってたけど、わたしはまだ見たことがないな。
トクン トクン トクン
胸の音を聞いてると安心する。「ああ、ハクトが生きてる」って感じるの。
反対側にヒルダが寝てるけど、関係ない。わたしが先に子作りするんだ。
女神様から訊かれたんだもん。
『人の姿になってハクトと結ばれたいですか?』って。
むすばれるって意味が良く解らなかったけど、一緒になれるならって迷わなかったよ。
あと、『魚だった頃の感覚は人として生活するには邪魔なものですから、人になった暁には、闘魚としての知識や経験を対価に年頃の女性としての感覚を与えましょう』とか言われたけど、全然意味わかんなかった。
あかつきって何? たいかって?
それにあの時はもうハクトの血の味覚えてたから、誰が相手なのか直ぐ判ったし。ハクトと一緒になるのに要るものならって思ってんだ。
だから、迷わず「それで良い」って言ってたな。
それだけ。
でも、困ったことがある。
何処から卵が出るのか良く判らないの。
この体が前の魚とは違うのは判るんだけど、まだ体も動かし辛いし……。
ヒルダが色々教えてくれるから、心配ないか。
あとは……、スピカ。
ハクトのお嫁さん。
青い小鳥のお嫁さん。
ハクトがそう言ってた。
本当は、わたしの前に現れた女神様の妹だって教えてくれた。本当かな?
でも、今は本当なんだろうな、って思うよ。
だって、小鳥があんな大きな蜥蜴の頭を蹴って壁に減り込ませるなんて知らないよ。
そんな力持ちの小鳥がいっぱい居たら、わたしたちあっという間に食べられちゃってる。
うん、魚の時の話。今は違うけど。
だからスピカは特別なんだって思う。
そして、ハクトのお嫁さん。
わたしもおよめさん? になれるかな。
従者にはなったけど、およめさんにはなってない気がする。
ふあぁぁぁ~~。
ハクトにくっついてるとぽかぽか温かくて気持ち良い。眠くなる。
ヒルダも寝たみたい。動かないから。
目を開けたまま寝てる魚多いから、ヒルダもそれと同じ。
目を開けて寝てる。
でも……人間の体って寝る時どうするんだろ?
魚の時は、湖の底で動かなければ良かったけど……。
動かなければ良いのかな?
ハクト、早く目を覚ましてわたしの名前呼んでくれないかな。
「プルシャン」って。
なんだろう、ハクトに名前を呼ばれると胸の奥がぽわぽわするんだ。
ねぇ、ハクト、早く起きて。
もう毒は治ったの?
傷はもう良いの?
ハクトの声が聞きたいよ。
温かい……。
何だか目が開かないや。眠たくなったのかな?
これが寝るってことなのかな?
良く分かんない……。
ふあぁぁぁ~~。
いっぱいお話して、いっぱい遊んで、沢山子ども作って……。
たくさん……。
……。
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