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幕間
閑話 女神たちの茶会11
しおりを挟む飛竜の特殊個体が、次の湖の主になりそうな闘魚を獲って山に帰っていく姿を見ながら、わたしは顎に軽く握った指を当てていました。
「うりゅうが動かなければ、余程のことはないと思うがな」
そう仰って、アウヴァ姉様は仕事をすべく席を立たれます。
気が付くと、ザヴィヤヴァ姉様とヴィンデミアトリックス姉様も既に席を外されていました。
仕事が溜ってる、いえ、滞っていますからね。
わたしもそうですが……。
おほん。この件を片付けて、仕事に戻ることにしましょう。
残ったのは……ヘゼ姉様は戻る気は無さそうです。そのうち下級神に引き摺り出されるでしょう。下の三姉妹、ポリマ、シュルマ、ライエル・アル・アウラは水盤に張り付いていますから、放っておくことにします。
今仕事と言っても、あの様子だと手に付かないでしょうからね。
それよりも、何やら胸騒ぎがするのです。
いえ、ヘゼ姉様。違います。
そ の 胸 で は あ り ま せ ん。
「ん……ワイバーンの群れが動いた」
ポリマの声に、慌てて水盤に視線を戻します。
20匹、ですか。
大きな群れが動きましたね。
ああ、あの赤い特殊個体の率いる群れでしたか。
山から下ってくる帯状の編隊に目を凝らすと、赤い点が先頭を飛んでいるのが分ります。やはり、先程の時点でハクトに目星を付けていたということでしょう。迷うことなく、骨の谷へ向かっていますから。
ものの数分で谷まで降りて来るワイバーンの群れ。
ああ、ハクトは気が付いていたのですね。大したものです。
「「おおっ! ドドドーンなのだ!」なの!」
谷の崖壁に、特殊個体の吐き出した火の玉が命中して炎を撒き散らします。
「ん……ハクト、崖の上」
「ああっ! ハクトちゃん!?」
ハクトが炎を避けて、崖の上に跳び上がった瞬間を狙われたようです。流石、知能が芽生えた個体だけはありますね。ヘゼ姉様の悲鳴に似た声が歓談室響く中、わたしたちは目を瞠ることになります。
「「「「っ!?」」」」
同時に、サロンに居る誰もが鼻に手を当てていました。
ーー何と恐ろしいことをっ!?
「ん……ハクトの攻撃は凶悪。鼻の中まで魔法障壁、無い」
確かに、体の表面を覆う膜のように存在するのが魔法障壁です。
竜種は、亜種も含めると比較的早くから魔法障壁を纏い始め年と共に強度を増しますからね。ですから、長い年月を経た竜が厄介だというのはそこにあるのです。
亜種も然り。
竜種程でないにしても、障壁を持つ存在ですから人の子らの手に余る存在でしょう。
それを、鼻の穴から爪を伸ばすとは、誰が思い付くでしょうか。
矢張り、非凡な才を持っているのですね。
アウヴァ姉様が目を掛けるのも肯けます。
それにしても……と、ハクトの指先から伸びる爪を見て考えずにはいられません。あれの骨を取り込んだせいか、少し赤みを帯びた気がする白爪が切れ味を増しているのです。
全てを取り込んでいる訳ではないさそうですが、これ以上取り込むとどうなるのか、興味は絶えませんね。限界があるのかどうかもわからないのですから。
「「おおっ!!」」
特殊個体を難なく屠ったハクトにではなく、特殊個体の魔石を得ようとワイバーン共が死肉へ群がろうとしますが、それを利用してハクトが次々に翼を断っていくではありませんか。
順応性も早い。
明らかに、人族の体とは異なる部分があるのにも拘わらず、ハクトの動き方は完全に兎人族のそれと遜色ありません。いえ、寧ろ上だと言えるでしょう。
生まれた時から兎人である者と、わずか2週間そこそこの兎人とでは、体を動かす経験がはるかに違います。それなのにこの動きができているということは……。
これも経過観察、ということですね。
ヒルダ、プルシャンだけでなく、ハクトも初めてのケースですから忘れずに記録は取らなければなりません。3人でこれだけ大変なのです。管理の面を考えてもこれ以上特例を増やすべきではありませんね。
その時でした。
「ダメよ! その子まだ生きてる!」
ヘゼ姉様の悲鳴が、彷徨い始めていたわたしの思考を引き戻します。慌てて水盤をみると、ハクトが呼び出していた骸骨騎士が盾ごと左腕を吹き飛ばされているところでした。
止めを刺し損ねていたようですね。ヒルダとプルシャンを狙っているのですか。
骸骨騎士の召喚時間も限界……。あれでは次の一撃は受け切れないでしょう。足から透け始めてるのですから、踏ん張りが利くはずがない。
ヒルダとプルシャンは突然のことに固まっています。
何をしてるのです! 動きなさい!
思わず声が出ますが、水盤に手を浸していないために声は届きません。わたしも焦っているということでしょう。
ーー間に合わない。
諦めかけたその瞬間、飛竜と2人の間に駆け込むハクトの姿と、ヘゼ姉様の悲痛な声が水盤の上で交差しましたーー。
「きゃあっ! ハクトちゃん!」
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