81 / 333
第1章 西挟の砦
第65話 えっ!? 本気で言ってんの!?
しおりを挟む月明かりで細部までは見えんが、改めて見ると皆そこそこの綺麗どころのようだ。
騎士団の面々もさることながら、攫われてるのもそこそこのレベルなのかもな。
「いって」
プルシャン、抓るな。ヒルダも。
「何か?」
ほら、団長ちゃんに怪しまれただろうが。
「いや、何でもねえ。あんたらもそのままだと動き辛いだろ。俺も目のやり場に困る」
「「「「「っ!?」」」」」
「いってっ! ーーーー!」
一斉に恥ずかしそうに身を捩る姉ちゃんたちを見てたら、腹を抓られた。思わず声を上げちまったが、小声で抗議する。
ほら、姉ちゃんたちに笑われちまっただろうが。
「ハクトが悪い」
「そうだ。主君が悪い」
「ーーーー! 分かった。悪かったって。一先ず、残党刈りと、シーツみたいな布切れを探すぞ。あんたらに」
「団長を務めているエレンと申します」
「副団長のヨハンナです」
「アンナです」
「ロリです」
「カーリン」
と次々に名乗ってくれるが、正直覚えきれねえ。
「お、おう。名前が覚えるのが苦手だからまた訊くかも知れんから、その時は宜しく頼む。こっちの面を着けてる方がヒルダで、着けてない方がプルシャンだ。エレンさんたちには悪いが、死体の処理を任せても良いかい? 生死不問の賞金首なら、何かと証明するものが居るんだろ?」
「ありがとうございます。お任せしても宜しいですか?」
「ああ、落ち着いたら皆で飯でも食おう」
「主君」「ヨロシクね!」
「ーー。ーーーー。ーー」
「ーー」
正式に名乗らせなかったことで思うとこはあるんだろうが、今はまだ早え。
300年も経ってんなら、貴族の家の1つや2つは潰れてても可怪しくはねえからな。
貴族として持て囃されるか、石を投げられるか、無反応かのどれかだろうよ。
それが判るまで、ヒルダはヒルダのままの方が何かと都合が良い。不承不承肯いてはくれたが、早めに説明しとかねえとな。
ま、このまま歩きながらでも良いか。
盗賊たちは、恐らくだが首級と取るのが一番手っ取り早いだろう。
下っ端の首は要らねえだろうが、頭と幹部は必要だろうな。
騎士団の姉ちゃんたちと分かれて、篝火が焚いてある廃墟を回ることにした。
まともな寝床があるはずだ。皆が同じように地面で雑魚寝ってことはねえだろうよ。
「ヒルダ」
「何だ主君?」
「お前さんの名前だがな。家がまだ残ってるかどうかも分かんねえし。300年前の責任を擦り付けられてねえとも限らねえ」
「なっ!?」
「落ち着けって。まだ判らねえって話をしてるんだ。だから、事がはっきりするまで、あの長ったらしい名前を名乗るのは我慢しな」
「……そうだな。釈然とせぬが、主君の言いたいことも解る。分かった。暫くはヒルダで良い」
「へ。ありがとよ。ところで、小指を立てた時、随分ぼーっとしてたな。ありゃなんだ?」
「しゅ、主君は知らぬのか!?」
「だから何を?」
「左手の小指を立てて紹介する場合。つ、つーー」
「つ?」
「その者を妻だと紹介しているのだ!」
地面に向けて、思いっ切り吐き出すように大声を出すヒルダの両肩を掴んで向き直させる。
「えっ!? 本気で言ってんの!? マヂ!?」
おいおいおいおいっ! 恋人とか愛人っていう意味じゃねえのかよ!?
「う、うむ。スピカ様だけでなく、吾とプルシャンも妻として認めてくれるのだな」
と言いながら片手を頬に当てて首をしなっと倒すヒルダ。
きっと効果音的にはポッとか付いてんだろうが、いや、待て。そこじゃねえ。
「え!? 何!? わたしも奥さんになれるの!? やった! ありがとう、ハクト!」
状況を呑み込んだ、プルシャンが抱き着いてくる。ダメだ。あの時に間違ったと言ってねえだけに、今更違うからとは言えねえ。いや、どっかでそういう気持ちがなかったといえば嘘になるが、ここは重婚は認められてるのか!?
待てまて待て。落ち着け。
重婚云々は後だ。
「え、あ、う……。因みに、因みにだ。右の小指は?」
「何を言ってるのだ。恋人に決まっているだろう」
Oh……やっちまった。
久々にうっかりミス。確認してねえ俺が悪い。
いや、うっかりミスのレベルじゃねえ! 相当重大な意味だぞ!? 妻!?
いやいやいや、スピカになんて説明する!?
悶々としながら篝火に近づくと、喘ぎ声のようなくぐもった声が聞こえてきた。
ちっ。真っ最中かよ。
「おし、お前らここで待ってろ」
「一緒に行くよ?」
「そうだぞ、主君。吾とて、主君らの睦ごとを毎日見てるのだ。今さは恥ずかしいとは思わん」
いや、お前らはそうだろうがよ。「相手をさせられてる姉ちゃんはそうとは限らねえだろ?」と言っても聞かねんだろうな。
「はぁ。好きにしな」
溜息交じりに答え、篝火から松明に出来そうな火の付いた木を取り上げて廃屋の中を照らす。
「誰だ!? まだ俺の時間だろうが!」
「あ~取り込み中悪いな。お前さんらの仲間は全部殺っちまった。後はお前だけだ」
床の上で腰を振る野郎が振り返って声を荒げるが、まったく凄みが伝わってこねえ。
「んだとっ!?」「ひぐぅっ」
起き上がる男に押されて相手の女が転がり、顔が松明の火に照らされる。その顔は殴られ過ぎて青く腫れ上がっていたーー。
1
あなたにおすすめの小説
備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ
ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。
見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は?
異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。
鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活
仙道
ファンタジー
リメイク先:「視線が合っただけで美少女が俺に溺れる。異世界で最強のハーレムを作って楽に暮らす」
ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。
彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる