えっ!? そっち!? いや、骨法はそういう意味じゃ……。◇兎オヤジの見聞録◇

たゆんたゆん

文字の大きさ
85 / 333
第1章 西挟の砦

第69話 えっ!? リットルじゃねえの?

しおりを挟む
 
 どうやら、やっちまったようだ。

 悲鳴に似た驚く声がそれを裏付けてることくらい、莫迦ばかな俺だって判る。

 こんなにデケえ肉のかたまり、見ることねえからだろう。

 森ザリガニの方が良かったか……。けど、あっちは俺が好きなんだよな。取っときたい。

 そんな事を考えたら、ツツツっと寄って来たヒルダが懐に飛び込んで来た。

 「あーっ! ヒルダ狡いっ! あたしも!」

 プルシャンも飛び付いて来る。「いや、今そんなことしてる場合じゃねえだろ!?」って口を開きそうになったタイミングでヒルダの声がボソボソって聞こえて来たじゃねえか。

 俺の耳じゃなきゃ拾えねえくらいのささやきだ。

 「  主君      【無限収納】の事は言わぬように        空間収納だと口を合わせて欲しい

 あ、そっち!?

 肉の大きさじゃなく?

 「お、おう、ありがとな。プルシャンもな」

 そういやぁ、【無限収納】は勇者が持ってるスキルだと言ってたっけな。危ねえ危ねえ。悪目立ちするつもりはねえよ。

 「「ふあぁぁっ」」

 気付かせてくれたヒルダと、ついでにプルシャンの頭をワシャワシャッと撫でると、また変な声を上げやがった。ったく、何だってんだ。

 「は、ハクトさん。この肉の大きさも事乍ことながら、何処にコレだけの物を持って居られたのですか?」

 代表してか、押し出されるように騎士団長のエレンさんが1歩進み出ていてくる。

 そりゃ気にするなっていう方が酷な話だな。

 「あ~何を思ってるか知らねえが、俺は勇者でも何でもねえからな。これも空間収納だ。人より魔力がある分沢山入れれるのさ」

 という説明で良いのか? 魔力が空間収納に関係するかなんてヒルダは一言も言ってねえ。つまり、俺の口から出任でまかせを言ってるのよ。

 こんないい加減な説明で納得するとは思えねえが……。

 「そ、そうなのですね。申し訳ありません。詮索しないというお約束だったのに……」

 え、それで納得するんだ!? 納得できるか? 今ので?

 「ま、仕方ねえだろ。目の前で良く解らんことが起きれば知りたくなるのが人情ってもんだ。ああ、ついでだ、あんたらの装備も預かってきたから今の内に返しとくぞ」

 そう言って、少し離れた所に10人分の装備を出してやる。どれが誰の物か見当も付かんから、後はお任せさ。ワイワイキャーキャーとかしましいのを横目に、俺はバラ肉を切り出すことにしたーー。



                 ◆◇◆



 ……昨夜は騒がしい夜だった。

 久し振りに朝陽を見て、「頭に響きやがる」と愚痴ぐちこぼしながら出発の準備を手伝ってるとこだ。馬に鞍を着けたり、荷馬車らしき台車をチェックしたりしてる。

 ナマクな。どうやら料理番をさせられてた妊婦さんが居たらしくて、肉をさばき終えたくらいに保管場所から食材と一緒に持って来てくれたのよ。お蔭で大量に手に入った。

 塩と胡椒で味付けして皆で美味い焼き肉パーティをができたまでは良かったんだが、解放されたという嬉しさと酒でたがが外れてな。詮索されまくったんだわ。

 何処から来たのか。何でそんなに強いのか。誰に師事したのか。職種クラスは何か。本当に空間収納なのか。騎士団の中に居る空間収納スキル持ちは、ここまで収納できないとか。剣鉈けんなたの材質は何、と色々だ。よく覚えてねえ。

 色々と面倒だったから、深淵しんえんの森と外縁森がいえんりんの境目に接する山腹で師匠と2人で生活してたということにした。俺は拾い子で師匠も世捨て人だから、世間の常識にうといんだと説明して乗り切ったぞ。納得してくれたように見えたが、何処まで信じてくれたかは疑問だな。

 騎士団長のエレンさんなんかは、「苦労したのですね」と一人泣いてた。泣き上戸じょうごかよ。

 ん? ああ、酒だ。

 盗賊どもが持ってた物も幾らかはあったが、量がねえ。ほとんど飲み尽くしてやがった。

 原因は、例のもらい受けた革製の水筒にある。

 でもまあ、俺的にはかなり有り難い1品だったと言っておく。勿論、報酬として貰ったもんだがら返す気も、譲る気も更々ねえ。

 【葡萄酒シャラーブの革袋】
  魔力を革袋に流すことで、革袋内に上質の葡萄酒ぶどうしゅを生成する。
  栓をした状態で革袋の容量を超える葡萄酒を貯めておくことは出来ない。
  栓を外した状態であれば、魔力を注ぎ続ける限り葡萄酒を生成できる。
  内容量は2セクスタリウス。

 ……。

 ……は? 



 セクスタリウスって何だ? えっ!? リットルじゃねえの?



 解らん。さっぱり解らん。けど、重さ的には1リットルそこそこの牛乳パックを持ったような重さであることは感覚で判る。ったく、度量衡どりょうこうも、向こうとは全く違うって考えてもみなかったぜ。

 とまあ、酒を飲み、肉を食いながらながら考えてたんだが、取り敢えずこういうもんだと思うことにした。

 今は、久し振りの酒のせいで頭に鈍痛が走るのをこらえながら動いてるって感じだ。

 【耐毒】はアルコールには効果ないらしい。飲み過ぎたな。

 馬は全部で10頭だったから、騎士団の姉ちゃんたちに乗ってもらうことにする。

 遊撃ができる者が居た方が何かと安全面で心強い。

 そうすると困ったことなる。

 実は、でっかい幌馬車ほろばしゃが1両あるんだが、く馬がねえのさ。騎士団長エレンさんが言うには、2頭牽きキャラバンタイプの大型馬車らしい。

 馬を2頭回すと言ってくれたんだが、騎乗した騎士の機動力と攻撃力は魔法を除けばかなりの戦力だ。それを削るなら、俺が何とかするって安請負しちまった。

 まあ、後の祭りなんだが。喚んじまったのさ。

 「【骸骨騎士がいこつきし】」

 俺の呼び掛けに応じて、2.5mの背丈がある白いフルプレートに身を包んだ骸骨騎士ガイが地面からすうっと現れるのを見て、悲鳴と緊張が生まれた。

 「「召喚魔法!?」」「嘘っ!? 昨日は拳闘士グラップラーだって!?」「召喚士サモナー!?」

 「…………」

 ギギギギ……っと油の切れたブリキロボットのような動きで首を回し、ヒルダに視線を移すとこめかみを押さえているのが見えた。

 すまん、ヒルダ。またやっちまった。

 片合掌かたがっしょうで、左目をつむりながらヒルダに謝罪のポーズを送った時だったーー。

 《【骸骨騎士】の熟練度が最大になりました》

 久し振りに聞くアナウンスが頭の中に響き渡る。

 《Lv1からLv19までの熟練度が最大値に達していることを確認しました》

 何? 今までとちょっとアナウンスの色合いが違う。何だ……?

 《Lv20のスキル解放条件が満たされたことを確認しました。Lv20のスキルを解放します》

 だから、今の今までLv20のスキルが空欄だったのか。

 そう自問自答している中、感情のない声がスキル名を読み上げたーー。






 《【換骨羽化かんこつうか】を獲得しました》





しおりを挟む
感想 138

あなたにおすすめの小説

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活

仙道
ファンタジー
リメイク先:「視線が合っただけで美少女が俺に溺れる。異世界で最強のハーレムを作って楽に暮らす」  ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。  彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...