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第1章 西挟の砦
第69話 えっ!? リットルじゃねえの?
しおりを挟むどうやら、やっちまったようだ。
悲鳴に似た驚く声がそれを裏付けてることくらい、莫迦な俺だって判る。
こんなにデケえ肉の塊、見ることねえからだろう。
森ザリガニの方が良かったか……。けど、あっちは俺が好きなんだよな。取っときたい。
そんな事を考えたら、ツツツっと寄って来たヒルダが懐に飛び込んで来た。
「あーっ! ヒルダ狡いっ! あたしも!」
プルシャンも飛び付いて来る。「いや、今そんなことしてる場合じゃねえだろ!?」って口を開きそうになったタイミングでヒルダの声がボソボソって聞こえて来たじゃねえか。
俺の耳じゃなきゃ拾えねえくらいの囁きだ。
「 、 。 」
あ、そっち!?
肉の大きさじゃなく?
「お、おう、ありがとな。プルシャンもな」
そういやぁ、【無限収納】は勇者が持ってるスキルだと言ってたっけな。危ねえ危ねえ。悪目立ちするつもりはねえよ。
「「ふあぁぁっ」」
気付かせてくれたヒルダと、ついでにプルシャンの頭をワシャワシャッと撫でると、また変な声を上げやがった。ったく、何だってんだ。
「は、ハクトさん。この肉の大きさも然る事乍ら、何処にコレだけの物を持って居られたのですか?」
代表してか、押し出されるように騎士団長のエレンさんが1歩進み出て訊いてくる。
そりゃ気にするなっていう方が酷な話だな。
「あ~何を思ってるか知らねえが、俺は勇者でも何でもねえからな。これも空間収納だ。人より魔力がある分沢山入れれるのさ」
という説明で良いのか? 魔力が空間収納に関係するかなんてヒルダは一言も言ってねえ。つまり、俺の口から出任せを言ってるのよ。
こんないい加減な説明で納得するとは思えねえが……。
「そ、そうなのですね。申し訳ありません。詮索しないというお約束だったのに……」
え、それで納得するんだ!? 納得できるか? 今ので?
「ま、仕方ねえだろ。目の前で良く解らんことが起きれば知りたくなるのが人情ってもんだ。ああ、序でだ、あんたらの装備も預かってきたから今の内に返しとくぞ」
そう言って、少し離れた所に10人分の装備を出してやる。どれが誰の物か見当も付かんから、後はお任せさ。ワイワイキャーキャーと姦しいのを横目に、俺はバラ肉を切り出すことにしたーー。
◆◇◆
……昨夜は騒がしい夜だった。
久し振りに朝陽を見て、「頭に響きやがる」と愚痴を零しながら出発の準備を手伝ってるとこだ。馬に鞍を着けたり、荷馬車らしき台車をチェックしたりしてる。
塩な。どうやら料理番をさせられてた妊婦さんが居たらしくて、肉を捌き終えたくらいに保管場所から食材と一緒に持って来てくれたのよ。お蔭で大量に手に入った。
塩と胡椒で味付けして皆で美味い焼き肉パーティをができたまでは良かったんだが、解放されたという嬉しさと酒で箍が外れてな。詮索されまくったんだわ。
何処から来たのか。何でそんなに強いのか。誰に師事したのか。職種は何か。本当に空間収納なのか。騎士団の中に居る空間収納スキル持ちは、ここまで収納できないとか。剣鉈の材質は何、と色々だ。よく覚えてねえ。
色々と面倒だったから、深淵の森と外縁森の境目に接する山腹で師匠と2人で生活してたということにした。俺は拾い子で師匠も世捨て人だから、世間の常識に疎いんだと説明して乗り切ったぞ。納得してくれたように見えたが、何処まで信じてくれたかは疑問だな。
騎士団長のエレンさんなんかは、「苦労したのですね」と一人泣いてた。泣き上戸かよ。
ん? ああ、酒だ。
盗賊どもが持ってた物も幾らかはあったが、量がねえ。殆ど飲み尽くしてやがった。
原因は、例の貰い受けた革製の水筒にある。
でもまあ、俺的にはかなり有り難い1品だったと言っておく。勿論、報酬として貰ったもんだがら返す気も、譲る気も更々ねえ。
【葡萄酒の革袋】
魔力を革袋に流すことで、革袋内に上質の葡萄酒を生成する。
栓をした状態で革袋の容量を超える葡萄酒を貯めておくことは出来ない。
栓を外した状態であれば、魔力を注ぎ続ける限り葡萄酒を生成できる。
内容量は2セクスタリウス。
……。
……は?
セクスタリウスって何だ? えっ!? リットルじゃねえの?
解らん。さっぱり解らん。けど、重さ的には1リットルそこそこの牛乳パックを持ったような重さであることは感覚で判る。ったく、度量衡も、向こうとは全く違うって考えてもみなかったぜ。
とまあ、酒を飲み、肉を食いながらながら考えてたんだが、取り敢えずこういうもんだと思うことにした。
今は、久し振りの酒のせいで頭に鈍痛が走るのを堪えながら動いてるって感じだ。
【耐毒】はアルコールには効果ないらしい。飲み過ぎたな。
馬は全部で10頭だったから、騎士団の姉ちゃんたちに乗ってもらうことにする。
遊撃ができる者が居た方が何かと安全面で心強い。
そうすると困ったことなる。
実は、でっかい幌馬車が1両あるんだが、牽く馬がねえのさ。騎士団長さんが言うには、2頭牽きキャラバン型の大型馬車らしい。
馬を2頭回すと言ってくれたんだが、騎乗した騎士の機動力と攻撃力は魔法を除けばかなりの戦力だ。それを削るなら、俺が何とかするって安請負しちまった。
まあ、後の祭りなんだが。喚んじまったのさ。
「【骸骨騎士】」
俺の呼び掛けに応じて、2.5mの背丈がある白いフルプレートに身を包んだ骸骨騎士が地面からすうっと現れるのを見て、悲鳴と緊張が生まれた。
「「召喚魔法!?」」「嘘っ!? 昨日は拳闘士だって!?」「召喚士!?」
「…………」
ギギギギ……っと油の切れたブリキロボットのような動きで首を回し、ヒルダに視線を移すと顳かみを押さえているのが見えた。
すまん、ヒルダ。またやっちまった。
片合掌で、左目を瞑りながらヒルダに謝罪のポーズを送った時だったーー。
《【骸骨騎士】の熟練度が最大になりました》
久し振りに聞くアナウンスが頭の中に響き渡る。
《Lv1からLv19までの熟練度が最大値に達していることを確認しました》
何? 今までとちょっとアナウンスの色合いが違う。何だ……?
《Lv20のスキル解放条件が満たされたことを確認しました。Lv20のスキルを解放します》
だから、今の今までLv20のスキルが空欄だったのか。
そう自問自答している中、感情のない声がスキル名を読み上げたーー。
《【換骨羽化】を獲得しました》
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