えっ!? そっち!? いや、骨法はそういう意味じゃ……。◇兎オヤジの見聞録◇

たゆんたゆん

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第1章 西挟の砦

第71話 えっ!? 夜は線香なの!?

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 深淵しんえんの森の周りに広がる、外縁森がいえんりんに埋もれた廃墟を出て2日経った。

 馬で掛ける距離じゃなく、荷馬車を骸骨騎士ガイの速度に合わせてだからな。

 それを考えると、有り得ないくらいのスピードだぞ。

 ガイよ。お前どんだけパワーがあるんだ!?

 考えてみてくれ。荷馬車自体の重さと、身重な姉ちゃんが20人、今の所そうじゃねえ姉ちゃんが17人乗ってるからな。良く荷台が持ってると思う。もともと荷物を運ぶ、旅商人たちがよく使うタイプの馬車らしいから頑丈さは折り紙つきなんだと。

 まあ、最悪砦まで保てば何とかなるだろうさ。

 馬車の旅も悪くねえなとは思ったが、ま、それは街についてから考えりゃいい。

 『ハクトさ~ん。周りに怪しげなモノは居ませんでしたよ~』

 スピカが夕焼け空から舞い降りて、俺の頭に止まる。

 「おう、ありがとうな。助かる」

 『エヘヘヘ。そうですか? 撫ででも良いんですよ?』

 あの夜は早々にヒルダの懐に入って寝てたからな。紹介せず仕舞じまいだったが、今や皆の癒しだ。

 皆によると、青い鳥というのは穀物と星を司る女神スピカの眷属鳥けんぞくちょうという位置づけらしく、市井しせいで親しまれているらしい。スピカにいたら「違う」と否定されたのには笑えた。で、スピカという名前だと紹介すると、皆が幸運の鳥だとチヤホヤし始めたのさ。

 ま、違和感がねえんならそれでいい。

 日本でも色んなもんにあやかってたからな。似たようなもんだと思うことにした。

 面倒事は御免ごめんだ。御免だと言いながら今回の件も含め、引き受けてる俺が居るのも事実で、つくづく自分の性格が呪わしいよ。

 頭から差し出した右手の指に降りて来たスピカを撫でながら、周囲をぐるっとながめる。

 遮蔽物しゃへいぶつのない草原のど真ん中だ。騎士団の姉ちゃんたちだろう3人が馬から降り、野営をする場所の草を刈ってるのが見えた。

 火を焚くのは良いが、草に燃え移って焼け死にたくはねえからな。大事な仕事だ。俺も手伝おうと申し出たんだが、「それなら飯を作ってください!」と鬼気迫る勢いでせがまれたから、割り切ることにした。

 後ろの方から「ありがと~」と言う複数の声が聞こえて来た。

 ああ、骸骨騎士ガイの強制送還だ。

 今までは俺の感覚で1時間くらいしか喚び出していられなかったのに、熟練度が10まで上がった途端、日の出から日没まで喚んでおけるようになったのさ。無害だと判ったら、妙に人受けが良くなっちまいやがった。見送られる時に、片手まで上げてやがる。

 ガイを見送った姉ちゃんたちが、馬車から1人また1人と降りて来始めた。ヒルダとプルシャンの姿もある。

 ああ、そうさ。基本的に2人も馬車に乗るようにしてもらってるのさ。貴族じゃない、平民の女がどういう生き物なのか、見て、聞いて、感じて、考えてもらおうって寸法すんぽうだ。生きた手本は重要だぜ?

 一緒に居れないとご機嫌が斜めだが、昼間離れてても、夜は皆で一緒に寝てるから問題ねえだろうと思いたい。流石に、にゃんにゃんはしてねえがな。

 今夜は、俺らも夜警の順番が回ってくる。

 人の見てないとこで例の【換骨羽化かんこつうか】を試したいと思ってたからな、丁度ちょうどいい。

 その前に腹ごしらえだな。たった2日だが、妊婦を含め皆肌ツヤが良くなってきてるのが判る。本当、よく耐えてたと思うよ。その分美味い飯を食わせてやりたいが、俺ができるのは肉を焼くことくらいだ。

 仕方ねえだろ。料理はかみさんに任せてたんだからよ。

 ま、形ばかりではあるが、料理と呼べるものができるのは喜ばねえとな。

 「おおし、飯の支度するから手伝ってくれるか~」「「「はぁ~い!」」」

 明日には砦に着くって話だ。んなら今日はちょっと奮発しねえとな。女たちに声を掛けて、俺は深淵森躄蟹しんえんもりざりがにを取り出しす。そろそろこの味が恋しくなったんだよ。

 元気の良い返事が飛び越えていく。

 そんな中、つい味を思い浮かべて頬を緩めた俺は、剣鉈けんなたを振るって解体する。気が付くとポツリとつぶやいていたーー。

 「足を煮込めば良い出汁だしが取れそうだな」



                 ◆◇◆



 パチパチとたきぎぜる音が耳に心地良い。

 夜半過やはんすぎの見張り番を交代したとこだ。

 この世界で時計というものは存在しないらしい。ヒルダに訊いてみたが、知らないという。

 じゃあ、どうやって時を計ってるのかと聞いたら、太陽の位置と、星の位置で見てるんだと。

 異世界半端ねえ。

 驚いていたら、騎士団の姉ちゃんたちが笑いながら補足してくれた。

 村にはない事が多いが、街や都には時を知らせる鐘があって、日の出と正午、あと夕方に鐘を鳴らすらしい。日の出と正午は何となくタイミングが計り易いが、夕方は微妙だぞ。

 そう思って疑問をぶつけてみると、鐘がある場所は鐘楼しょうろうと呼ばれて、基本的に街や都の中央にあるらしい。そこに日が差し込んだ時に鳴らし、天井の小さな穴から日が差し込んだ時に鳴らし、日が傾いて再び鐘楼へ日が差し込み始めた時にもう1度鳴らすんだと。天井は季節によって違うから南側に5つの穴が並んでるらしい。

 考えてるもんだ。

 そうなると夜の時間だが、これは聞いて驚いた。線香をくらしい。



 えっ!? 夜は線香なの!?



 これは日本でいうお参りの時に使うあの線香じゃなく、魔物除けのこうだ。日没から焚いて燃え尽きたら交代。で、朝までもう1本焚くというね。つまり、4、5時間は持つってことだな。

 実際に長いけどな。真っ直ぐで40㎝から50㎝はあると思う。直径は5㎜くらいか?

 こっちの単位はまだ判らんから俺の感覚での話なんだが、慣れるまでが大変そうだ。

 周囲に気を配るが、誰かが起きてゴソゴソしてる気配はない。今くらいがグッと眠りに引っ張られる頃だからな。やるなら今だろう。

 「ヒルダ、この毛皮を広げて持ち上げてくれるか?」

 「うむ。それで広げてどうするのだ?」

 【無限収納】から取り出した、猪蛇いのへびの毛皮をヒルダに渡して持ち上げてもらう。

 「俺の後ろに広げたまま立ってくれるか? 目隠しだ」

 「承知した」

 そう、女たちは皆俺たちの後ろで寝てるんだ。妊婦たちは馬車の中だけどな。後は地面に毛皮を敷いて寝てる。そう、毛皮は猪蛇からとったやつさ。有効利用しねえとな。

 「わたしは?」

 「プルシャンは周りで誰も居ないか見てくれるか? 俺はこれからスキルを試す」

 「うん、判った」

 プルシャンが立ち上がって、キョロキョロと辺りを警戒する様子を見ながら俺はあの言葉を口にする。どの道、使わねえとこの先がねえわけだからな。腹もくくるさ。

 「【換骨羽化かんこつうか】」

 その言葉が吐き出されると同時に体が発光し始める。読み通りだな。

 けど、ピシッと何かが罅割ひびわれるような音が聞こえ始めた時、それは起こったーー。





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