えっ!? そっち!? いや、骨法はそういう意味じゃ……。◇兎オヤジの見聞録◇

たゆんたゆん

文字の大きさ
94 / 333
第1章 西挟の砦

第78話 えっ!? リーブラって何!?

しおりを挟む
 
 扉が開いて入って来たのは、芳しい香りを振りまくステーキの塩胡椒焼きだった。

 見ると、後ろに店の客らしい人影がうごめいてるのが見える。

 ああ、この匂いを振り撒きながら上がって来たんじゃそうなるわな。

 「「ーーーー!!」」

 キラキラと目を輝かせながら、目の前に置かれるプレートの上で良い香りを放っているステーキを見詰める姫さんとエレンさんの顔は、幼く見えた。無心で切られた肉を頬張ほおばり、頬を抑えて悶絶するその顔を見れただけでも良しとするか。

 ヒルダも、プルシャンもってーー。

 「早っ!? もう食ったのか!?」

 ヒルダとプルシャン皿には、もうステーキはなく、肉汁と脂が光ってるだけだった。ナプキンで口元を拭く2人の視線が、俺の腹の方に向いてる……。

 「うむ。胡椒カリミルチナマクの相性は抜群だな、主君!」「うん、美味しいもん!」

 「待て。これはやらん。俺だって楽しみにしてたんだ! んまっ!」

 慌てて、肉へフォークを突き刺し頬張る。

 香ばしさと肉の旨味が口の中に広がり、胡椒の辛味が下を刺激する。同時に、胡椒の香りが鼻に抜けるんだよ。ああ、これだ。肉って言ったらこうだろうが。

 それよりも。それよりもだ。やっぱり飛竜ワイバーンの肉は美味い。

 限りがある食材だ。大事に食わねえとな。

 「ん?」

 なんて思ってたら、俺に刺さる視線を感じた。

 「ハクトさん狡いです。エレンたちはこれを3日も食べてたのですか?」

 「いやいや。ワイバーンの肉は限りがあるから、大人数の時には出してませんよ。エレンさんも食べてません。食べてたのは猪蛇いのへびの肉です」

 「「「「猪蛇っ!?」」」」

 姫さんやシェフのおっさん。あとウエイターの兄ちゃんが驚くのは良いとして。「エレンさん、あんたまで驚かんでも良いでしょうが」と思ったが、ふと気が付く。

 「あれ? 言ってませんでしたっけ?」

 「聞いてません! オークの肉とは比べ物にならないくらい美味しいとは思ってたんですが、まさか猪蛇とは……」

 「申し訳ございません。ワイバーンの肉が貴重なのは承知の上で申し上げますが、下に居りますお客様たちがこの匂いを嗅いで騒ぎ始めまして、都合を付けて頂く訳には参りませんでしょうか?」

 と、そこへシェフのおっさんが割り込んできた。まあ、扉の向こうの気配からそうだというのは察するがね。それとこれとは別だ。

 「あ~悪いですが、ワイバーンの肉はお出しできません。飽くまで姫様に食して頂くために提供したのであって、他のお客様の為に用意したものではありませんから」

 「仰る通りでございますが……そこをなんとか」

 「とはいっても、わたしもそこまで冷たい人間ではありません。今話しに出た猪蛇の肉ならば、幾らか融通するのもやぶさかではありません」

 「ありがとうございます! 勿論、それで結構でございます!」「但し!」

 話を無理矢理進めようとするのを止めるのに、間を取る。主導権は渡さんよ。

 「但し、無償でという訳にはいきません。わたしとシェフ、もしくはこの店とはえん所縁ゆかりもないんですからね? 殿下。それで宜しいでしょうか?」

 「わたしに気兼ねする必要はありません。わたしはこの商談に関与していませんから」

 「ということですが、いかがされますか?」

 「むぐっ」

 「では、この話はなかったことに」

 「お待ちください。如何程いかほどの量をご用意いただけるのでしょうか?」

 「ん~~、精々せいぜいさっきの倍ですね」

 20㎏と言っても通じんだろうからな。

 「でしたら60リーブラで、銀貨1枚でいかがでしょうか?」



 えっ!? リーブラって何!? 異世界のブラ?



 「待たれよ、店主。それではこちらがあまりに損ではないか」

 違う方向に意識を向けてたら、ヒルダが口を挟んでくれた。助かった。

 「な、何をおっしゃいますか」

 「侮って貰っては困るぞ、店主。先程のワイバーンの肉は30リーブラで金貨2枚は下るまい? 稀少性の高い魔物の肉だ、われらに振る舞ってもかなりの量が手元に残ったであろう? それに値は付けぬと主君は言われているのだ。それなのに、店主。猪蛇の肉60リーブラが銀貨1枚だと? 桁が違う。金貨1枚は欲しいものだな」

 30リーブラで金貨2枚!? 2,000万!? マヂかよ……。

 元手はゼロ。ボロ儲けだろうが。

 っうことはだ。リーブラって言うのは重さか!?

 約10㎏が30リーブラ。約3.3㎏が10リーブラか。

 っうことは、1リーブラ=333gって思っときゃ良いな。

 で、猪蛇20㎏が1,000万かよ!? おいおいどうなってやがる。

 魔物の肉を取り扱ってるってことは、普通に食べてるってことだよな。さっきもエレンさんがオークがどうのって言ってた気がする。オークってあれか? ド○クエ1だか2で出てきてた猪人間イノシシにんげんみたいなやつか?

 あれを食うのかよ……。

 「銀貨80枚でいかがでしょう?」

 「店主。主君の善意とはいえ、吾らは旅の者だ。つまり金はなくとも、食料さえあればどうにでもなる。この肉もしかり。旅をする上で吾らの生命線だ。それを投げ売り同然で払い下げては、吾らの旅も見通しも暗くなる。値を上げても良いのだぞ?」

 おお。値下げで遣り合うのかと思いきや。値上げに出やがった。凄えな。

 俺は、普通に値下げをして折り合いを付けるくらいしか思い付かんかったぞ。

 確かに、金が無えと色々と困る部分はあるが、金じゃ腹は膨らまねえわな。おまけに、ヒルダとプルシャンは大食いと来た。結構な量を【無限収納】に確保してあるとはいえ、それもいつまで保つかだもんな。

 「むぐぐっ。では、金貨1でお譲り下さいますか?」

 「主君、宜しいですか?」

 「ああ、良い交渉だったぞ。それで頼む」

 姫さんを相手に出来るレストランだ。資金もそれなりに持ってるだろう。これは邪推かも知れんが、雪毛ゆきげ兎人とじんになるだけ払いたくないっという魂胆こんたんかもな。

 ま、次からここに来ることもねえだろうから、吹っ掛けて正解だ。

 えっと、60リーブラ20㎏の猪蛇バラ肉をヒルダに渡し、ヒルダにシェフとの遣り取りを任せた。出来るだけ接触を控えた方が良い気がしたのさ。

 お金の遣り取りをしてる横で、俺は姫さんたちからも距離を置こうと話を切り出す。

 雰囲気があんまり良くねえ内にオサラバだ。

 「姫様、お騒がせしました。陽も落ちたようですし、わたしたちも宿を探さなければなりません。そろそろおいとまを頂きたく」

 「そうでした。エレン」

 「はい。ハクトさん。その心配には及びません。宿はすでに手配してあります」



 Oh……。マジで?



 逃げ道断たれたってことか?

 姫さんに促されて笑顔で教えてくれたエレンさんの声を聞きながら、浮かしかけた腰を再び力なく戻す俺がそこに居たーー。





しおりを挟む
感想 138

あなたにおすすめの小説

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活

仙道
ファンタジー
リメイク先:「視線が合っただけで美少女が俺に溺れる。異世界で最強のハーレムを作って楽に暮らす」  ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。  彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...