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第1章 西挟の砦

第85話 えっ!? 首輪っ!?

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 「「「「…………」」」」

 あまりの宣告に、俺、いや俺たちは言葉を失った。

 偽証? 何だそりゃ?

 「ちょっと待ちなさいよ! ハクトさんたちが身分を偽ってるってどういうことよ!? そもそも冒険者ギルドは国と対等じゃないの!?」

 頭ん中が整理しきれないでいると、横から1人、冒険者らしき女が割り込んで受付に身を乗り出した。誰だ?

 見覚えは……ああ、あるな。

 一緒に街に返って来た1人か。確か、顔を腫らしてなぶり者にされてた姉ちゃんだな。

 ほう? ギルドってえのは治外法権的な特例でもあるのか?

 「アーリー様。仰りたいことは解ります。ですが、これは城主様からの情報提供であって、圧力ではありません。その情報を基に当ギルドで判断したものです。それに、アーリー様へこれ以上お話するわけにはゆきません」

 「何でよっ!」

 「アーリー様にも嫌疑が掛けられているからです」

 「なっ!?」

 助けに入ってくれた冒険者の姉ちゃんも、嫌疑が掛けられてるてことは、だ。

 権力の圧力が掛かってるってこった。ここは辺境の街で、深淵しんえんの森からの防衛線だとすれば、当然砦の城壁を当てにする。俺が勝手に想像すると、こうだ。

 冒険者は砦の外で活動することもある、とする。深淵の森側でだ。

 その時に通り抜けできるのは、俺たちが通ったあの門だけだとすると、俺たちの処遇を条件に開閉を渋られたらどうする?



 ーーそりゃ、死活問題だろ。



 うのていで逃げ帰って来れたものの、街に入る扉を目の前で閉ざされたら……。そりゃ、独立組織ですとうたっていても無理だわ。

 そんな事をチラつかされたら、上のもんは「断る」とは言えんだろうよ。

 じゃあ、どうするかが問題だ。

 アーリーという姉ちゃんが、受付の猫娘嬢とわーわーやってくれてる内にリリーへ耳打ちする。小声なら聞こえにくいだろう。

 「                おい、リリー。どうなってる!? この流れだと帰って来た奴全員しょっぴかれるぞ!?

 「        知らないわよ! わたしだって訊きたいわよ!

 「主君、外が騒がしい。馬車が止まった」「何っ!?」

 ヒルダの声に入り口へ顔を向けると、ガシャガシャと金属が擦れる音と、物々しい雰囲気が外から迫ってくるのが分かった。こりゃ逃げられねえな。

 この猫の姉ちゃんもグルってことか。

 チラッと俺たちを担当した受付の姉ちゃんに視線を送ると、申し訳無さそうにうつむいた。

 俺たちが来たら連絡をする手筈てはずになってたんだな。

 相手が1枚上手だったということか。けどよ、俺たちを疑っても何も出んぞ?

 そんなことを考えている内に、全身鎧ではないもの、露出の多い金属鎧ハーフプレートを身に着けた野郎どもがズカズカとギルドの広間ロビーに踏み込んできた。1、2、3……10人か。

 まだ外にも何人か居そうだな。

 その中でも1人だけ豪奢な鎧を身に着けている男が俺の前に立った。

 「ふんっ、雪毛ゆきげの兎人に、仮面を付けた女と、紺の髪の女か。ハクトというのは?」

 判っていてるんだろうが?

 随分と高圧的に問いただしてくる野郎の目が、プルシャンを嘗めるように動くの見てその前に立つ。何者なにもんだ、こいつ?

 「俺だ。冒険者ギルドに大勢で乗り込んで来て、仰々しく騒ぐじゃねえか。あんた何者だ? がっ!」「主君!?」「ハクト!?」「おっさん!」

 「毛虫風情が口を開くな。貴様は俺の質問にだけ答えればいい。ふん、仮面の方はどうでも良いが、女の方は合格だな」

 レベルが下がってるせいもあるのか、いつもなら躱せたであろう拳をまともに頬に食らってバランスを崩す。吹き飛ばなかったのは運が良かったな。後ろにヒルダやプルシャンが居たから余計にそう思うわ。

 2人に支えてもらって体勢を立て直している間に、狼娘リリーが俺たちの前に出る。

 「待て。何の権限があってこんな事をしてる。レリア殿下の客人と知っての狼藉ろうぜきか?」

 「貴様は?」

 「わたしは聖レリア騎士団の騎士リリー・ビョルケル。殿下の命で彼らを護衛している」

 「ふ。ふはははは! これは都合が良い! 探す手間が省けた。我らは、西狭砦さいさとりでを守る鉄犀てつさい騎士団。俺は百人隊長フェデリコ・ゲルベンスゥ。貴様らと、廃墟から連れ戻ったという女たち、そしてレリア公女殿下および聖レリア騎士団に扇動の嫌疑が掛けられている。城主ヴェルレーヌ候爵閣下から下された命に従い、貴様らを拘束する」

 「待ちなさい! 言葉だけではどうとでも言えるわ! 証拠を見せなさい!」

 おい、リリーさんや、それは言ったらダメなやつだぞ。

 逃げ道を塞いで悔しがる顔を見る奴の常套手段じょうとうしゅだんだ。ここまで用意周到に来てるんだからよ、そこを忘れるわけ無えだろうが。

 「ふん、良かろう。おいっ」「はっ!」

 フェデリコとかいうイケ好かねえ野郎があごしゃくると、横に立つ騎士が懐から羊皮紙の巻物を取り出して、開いた。何かの文と印が押されてるから正式な物なんだろうが、俺にはさっぱりだ。

 「          主君、令状だ。候爵の印が押してある

 チラッとヒルダの方に顔を向けると、小声で返してくれた。当たりだ。

 「なっ!?」

 案の定、次の言葉が繋げないでリリーは絶句してる。

 「取り敢えず、今は大人しくしとけ」

 リリーの右肩に手を置いて、後ろに引かせた。

 「ふん。今回は飽くまで嫌疑だ。鎖は掛けんが、先に連れて行かれている者のことを思うなら、大人しく付いて来るんだな。おい、名前の上がっている冒険者も探せ」

 「はっ! 行くぞ」「「「「はっ!」」」」

 フェデリコの命令に5人の騎士がズカズカとロビーの奥に進んで、行くのを横目に俺たちは外に出る事にした。ここにそのまま居ても状況は変わらねえ。むしろ印象が悪くなる一方だ。

 アーリーという冒険者の姉ちゃんも連行されてる。

 やれやれ。ありもしない罪をでっち上げるということは、私腹を肥やす奴がするパターンだ。まともな対応を期待する方が間違ってるんだよな。ったく、どんだけ腐ってるんだ?

 いや、ここがそれだけ中央から離れて好き放題出来るほど、ぬるま湯になったってことだ。森が溢れるわけでもなく、形だけの防衛線ってことで、気が緩んでるのか。

 姫さんの言葉を借りるなら、相当肥え太ってそうだな。

 外に出ると、荷馬車の荷台にベンチを並べたような馬車が止まっていた。なるほどね。

 「時間が惜しい。今回は馬車に乗れ」

 フェデリコに顎で急かされる。

 「分かったよっ!」「きゃあっ!?」「「プルシャンっ!?」」ガチャン!

 馬車に乗ろうとした瞬間、俺はプルシャンに体当りして立ち位置を無理やり変える。リリーとヒルダが倒れたプルシャンを起こそうと駆け寄る横で、金属音と共に俺の首にずしりと重い物が付けられたじゃねえか。

 「えっ!? 首輪っ!?」

 そうさ、思わず声を上げたアーリーの目の前で、俺の首に黒光りする金属製の輪っかがめられたんだーー。





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