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第2章

第21話 ジン、襲来

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 さらに翌日。
 アラタが山のダンジョンに入り、しばらく経ったころのこと。

「支部長! 補佐官! 大変です!!」

 受付担当が、支部長の執務室に飛び込んできた。

「どうしたのですか、ノックもせずに」
「それどころではありません!」

 苦い顔で文句を言う支部長に怯むことなく、受付担当はずかずかと入室する。

「黒部刃と鵜川辰義が重警備留置所を脱走しました」
「な――」
「なんだと!? そりゃ本当か!!」

 補佐官が大声を上げて立ち上がり、言葉を遮られた支部長はまたも苦い顔をする。

「はい。先ほど連絡が入りました」
「いったいなにをどうやって……」
「監視映像を確認した職員の報告ですと、隠し持っていたショートソードで牢を無理やり破壊したようです」
「ショートソードだと!? ありえん!!」
「しかも彼の手脚は万全の状態だったと」
「……それこそありえん。あの状態からどうやって回復したってんだ!?」
「まさか、黒いオーブ」

 支部長がぼそりと呟く。

「支部長、なんだそりゃ?」
「一部機関でスキルオーブの改良研究がおこなわれているのは、補佐官も知っているでしょう?」
「それは、失った手脚を回復できるほどのシロモノだってのか?」
「私も噂に聞いたくらいのものですからね。詳細はわかりませんよ……」
「なんてこった……!」

 支部長の言葉に顔をしかめた補佐官は、すぐに表情をあらためて受付担当に向き直った。

「それで、被害状況は?」
「軽傷者5名、重傷者3名、死者1名」
「死者が、出たのか?」
「はい。それが……」
「どうした?」
「死亡したのはあのはらきよしなのです」

 受付担当が告げた名に、補佐官が眉を上げる。

「それはあれか、鵜川のジジイ関連でマークしていたあのキヨシか」
「はい」

 タカシの事件でジンを調査したところ、ヤスタツとの繋がりが見えてきた。
 そこでヤスタツの周辺を調べると、どうも彼と繋がっているらしい冒険者が何名も浮上した。
 キヨシはその中のひとりで、ギルドがマークしていたのだ。

「彼の出勤日には、必ずこちらの手の者を勤務させていたのですが……」
「出勤日をずらされたか」
「実質アルバイトのようなものですので、当事者同士で交代されると、把握が難しく……」
「ったく、厚労省がイキがって自分らで管理しようとするからこうなる。留置所名乗んなら警察庁を1枚咬ませりゃよかったんだよ」
「ゴホン……!」

 補佐官の言葉を窘めるように、支部長がわざとらしい咳をする。

「しかし鵜川元議員絡みとなると、面倒ですね。あの御仁、元労働大臣でいまも厚労省に顔が利くうえ、たしかご子息が現厚労大臣でしたな?」
「おいおい、冒険者ギルドは民間団体だぜ?」
「ですが私が厚労省からの出向ということも、お忘れなく」
「かぁーっ! これだからお役所ってやつは嫌なんだよ!」
「おや、ではこの席に座りますか? 私はいつでもお譲りしますけどね」
「あー、いや、それは勘弁。今後ともよろしくってことで……」

 ――ビーッ! ビーッ!

 そのとき、ギルド内に警報が鳴り響いた。

「おおっと、どうやらジンのお出ましか?」
「留置所を出てからの足取りは掴めていませんでしたが、おそらく」

 補佐官の問いかけに、受付担当が答える。

「他に情報は?」
「佐原清の武器が紛失しています。おそらく黒部刃が奪ったのではないかと」
「得物は?」
「ロングソードです」
「……鬼に金棒じゃねぇか」

 追加情報に、補佐官がため息をつく。

「支部長、とりあえず俺ぁいきますんで、おかみと警察に連絡頼んます」
「わかりました、お気をつけて」

○●○●

 Aランクの上にSランクが制定されたのが、いまからおよそ3年前。
 Aランク上位の実力者でも、本当にごくわずかの者しか到達できない最高ランクである。
 Aランクになりたての冒険者とSランクとの実力差は、3ランク以上の隔たりがあるとまで言われている。

 補佐官が冒険者を引退したのが、ちょうどその時期だった。
 もし数年早くSランクが導入されていれば、彼もまたそこに名を連ねただろうと言われていた。

「ぐふっ……ごほっ……」

 その補佐官が、血まみれで倒れていた。
 あちらこちらがひどく破壊されたギルドの様子が、それまでおこなわれた戦闘の激しさを物語っていた。

「んだよ補佐官、期待外れもいいとこだな」

 ボロボロになったロングソードを手に、ジンが補佐官を見下ろしながら吐き捨てる。
 彼もまた衣服はボロボロで、身体中血に濡れていたが、いまは傷ひとつなさそうだった。

「なぜ、こんなことを……なにが望みなのですか!?」

 瀕死の補佐官を抱きかかえながら、受付担当が問いかける。

 ギルド内には、もう誰も残っていない。
 補佐官とジンが戦い始めた時点で、受付担当をのぞくすべての職員と冒険者が避難していた。
 その際に怪我人は出たが、幸い死者はなかった。

「いや、Sランク間違いなしっつー噂の補佐官とガチでやってみたかったってとこかな」
「それだけのことで……!」
「あーでも、そりゃついでだったわ。本命は別にあってよ」
「本命?」
「おう。おっさんはどこだ?」
「おっさん……というのは?」

 ジンの問いかけに、受付担当が首を傾げる。

「アラタのことだ! アラタはどこにいる!?」

 いつのまにかジンのそばに現れたタツヨシが、尋ねてきた。

「……冒険者の活動について、職員が情報をもらすわけにはまいりません」

 ジンの脅威に震えながらも、受付担当は毅然と答える。

「じゃあいいや。適当に1~2時間町で暴れ回って、また戻ってくるからよ、そんときに気が変わったら教えてくれや」
「ま、待ってください!」

 さらりと言って背を向けようとしたジンに、受付担当は縋るように声をかけた。

「おっ、もしかしてもう気が変わった?」
「……S-66ダンジョンです」
「S-66? ああ、山のダンジョンか」

 そこでジンはニタリと口の端を上げた。

「ククク……そうか、おっさんはあそこにいんのか」

 転移室に向かって歩き始めたジンだったが、すぐに足を止める。

「ああ、そうだ。ついでにアイテム庫のカギ貸してくれや」

 ジンはそう言うと、ボロボロになったロングソードを床に捨てた。

 アイテム庫とは、納品されたダンジョンのドロップアイテムなどを保管する場所だ。
 そこにはモンスターの素材や魔石に加え、高品質なダンジョン産の武具などが置かれている。

「待ってください、さすがに私の一存では」
「そうかい、じゃあ」

 ジンがちらりと出入り口を見る。

「待ちなさい」

 そこへ別の人物が声を上げた。
 執務室へ続く階段から、支部長が降りてくる。

「アイテム庫は、このカードで開けられます」

 そう言って、1枚のカードを取り出した。

「支部長!?」

 驚く受付担当を、支部長は片手を上げて制した。

「へええ、話がわかるじゃねぇか、支部長」
「その代わり、市民には一切手を出さないと約束してください」
「別にいいぜ。オレぁおっさんをぶっ殺せりゃあそれで満足だからよ」

 支部長からカードをひったくったジンは、タツヨシとともに奥へ姿を消した。

「支部長、どうして……」
「なに、この支部には大した武具もない。それより、補佐官にこれを」

 支部長は青と緑の小瓶を受付担当に渡す。
 これだけの重傷を治すとなると、かなり慎重にポーションを使わなければならない。
 受付担当は補佐官の状態を注視しながら、なんとか傷を回復できた。
 ただ、補佐官は相当消耗していたらしく、意識を取り戻すにはあと少し時間が必要だった。

「どうやら、いきましたか」

 そうこうしているうちに、ジンたちが転移室からS-66ダンジョンへ転移したことが確認できた。

「では早急にS-66ダンジョンへの転移箱を停止してください。近隣のギルド支部および自衛隊に連絡し、ダンジョン入口を封鎖。黒部刃、および鵜川辰義を、特別討伐対象に認定するよう、各方面に働きかけます」

 支部長はそれだけ言い残し、執務室に戻っていった。

 なんとか形を保っていた待合室のソファに補佐官を横たえたあと、受付担当はボロボロになったデスクに戻り、作業を始めた。

「アラタさん、ごめんなさい……どうか、ご無事で……!」

 彼女は祈るように呟き、転移箱の機能を停止した。
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みんなの感想(8件)

伏(龍)
2022.09.14 伏(龍)

見つけて一気に読みました。面白いのでぜひ更新再開を期待します。
よろしくお願いしますm(_ _)m

解除
かわやん
2022.06.11 かわやん

首をはねる裸忍者は懐かしすぎる(笑)

解除
toa
2022.06.10 toa
ネタバレ含む
解除
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