勇者として生きる道の上で(R-18)

ちゃめしごと

文字の大きさ
72 / 72
第三章 商会を束ねる者

第六十四話 気付き

しおりを挟む

 僕がゴーレムと、ギル兄がマニアと戦った激闘の一日。

 あれから数日が経った。

 ギル兄は動けない身体で帰る事もままならず。僕が背負ってその場を脱する事に成功した。脱出の際に、カエラさんが階段を下りてくる所で合流する事が出来た。

 合流したばかりの時は凄く泣きそうな表情をしていて、安堵と共に来る感情の波に涙を流すかと思ったけれど、カエラさんは自分の顔を張ると僕と一緒にギル兄を背負ってくれた。

 彼女の中でも、何かが変わったのだろうか。

 そこから、ギル兄を病院に預けてカエラさんを家に返して、僕は一人で宿に戻った。

 ギル兄は動けずに苦しそうな表情で僕に手を伸ばしては「先に行け」と告げる。きっと、旅を続けろという意味だとは思うけれど、出来ればギル兄と一緒に旅は続けたい…。

 病院では光魔法による回復をしてもらったけれど、ギル兄の身体は魔法に対する耐性が強過ぎて影と闇以外の魔法による回復は意味が無いのだとか…それでギル兄は影魔法での回復が上手かったんだ。
 
 全てが終わった訳じゃないけれど、この街での出来事が終わりを迎えた…そんな気がしていた。


 ――第六十三話―― 気付き





☆ギル視点

 入院生活ってのは傭兵時代にもあったけれど暇で暇で仕方が無い、何もする事が無いだけなら良いけれど、見知った奴が傍に居ない環境っていうのはそれだけでストレスになる。

 マニアとの戦いの後、動けなくなった俺はそのままこの病院に入院、魔力の使い過ぎから衰弱した身体は魔力その物を回復させる事も遅くなる。故にしばらくは動けない。

 とはいうのも、今回の事は俺があの魔法を使ったから招いた事で、俺としてはアルには先に別の街に向かって欲しい…。

 そうした方が、あいつも旅の経験が付くしな。出来ればずっと一緒に居てやりたかったけど、これは良い機会なのかもしれない。

 身体もロクに動かせないし、何かを望む事も出来やしない…正直、時間を持て余している。

 この時間をアルの修行に使ってやれたら良かったのだけれど、この前、見舞いに来てくれた時にメモ用紙に修行内容を書いておいたし取り敢えずは大丈夫だろう。

 一人で旅に…アイツは行けるのだろうか。

 行け…ちまうのかな。

 一人になって思い出すのはアルの事ばかりだ。自分の弟子だから、そんな言い訳で表面を塗り固めても、そいつは簡単に落ちるペンキだ。自分の悲しみとか、後悔とかの涙で簡単に剥がれ落ちる。

 俺はアルの事を、弟子という存在以上で見ている。

 親友の息子だぜ、なのに俺は、あいつの真っ直ぐな所や、放っておけない所とか、背負った運命に決してめげない前向きな部分も受け身になると弱い所も何もかも…。



 嗚呼、分かった。



 俺はこの数週間、傍でアイツの成長を見守って来た。見守ってきて、何度も感じた事があるんだ。

 俺はアルを、手放せなくなってきているって事実に。

 そうか、簡単な事だ。俺は怖かったんだ。手元にいるアルが離れていくのが、だからきっと、今のこの考えも嘘だらけ、アイツが一人で旅立って欲しいと考えておく事で、それをアイツに否定してもらう事を期待していたんだ。



 もう誤魔化せるもんじゃない、俺があいつに抱いているこの気持ちは―――紛れも無く。



 だとしたら、俺も傍に居る訳にはいかねぇな、アリスの選択は正しかった訳だ。俺も今なら気持が分かる。

 きっと、アルに手を出してでも、俺はあいつの心を欲してしまう。まっすぐで、可愛くて、純真で、だけど…それだけじゃない、怒るし、憎悪だって抱くし、そういう素直なアルが…。

 修行にも取り組む時にまっすぐで、自分の置かれた環境にへこたれねぇで、だけど時折弱さを見せて、それでも前を向く。そんなアルが…。



 俺は、好きなんだ。



 年齢差はどれだけだ?馬鹿みたいな年齢差だ。
 
 性別だって同性、とはいえ好きになったら仕方ない、アルの事を考えると胸の奥が暖かくなる。考えているだけで幸せって思える様な落ち着きを得るんだ。

 これが好きってことだよな、これが守りたいって想いの延長線上に存在する大切な感情だよな。



 …一緒に居てぇなぁ。



 だけど、アルが成長する為には一人旅とか、自分で仲間を作る事が大切になって来る。

 好きだ。好きだから一緒に居たい、だけど俺と一緒に居るって安心感は、あいつの成長を阻害する要因になる。

 アリスもこんな気持ちだったんだろうな、はは…あいつ、大人だな。俺よりもずっと大人だ。

 好きだぜ、アル。

 誰よりも好きだ。

 細かなエピソードなんて必要ない、俺はお前と旅をして、お前の頑張りを見て、お前のこれまでの一歩一歩の積み重ねを見て恋をした。

 決定的なエピソードが無いのが俺らしい…。

 さぁ、アルに選択肢を迫ろうか、答えが一つの残酷な選択を。



しおりを挟む
感想 7

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(7件)

れん
2017.07.05 れん

アル視点の「嫌だと差し剣だ」→叫んだですか?

2017.07.05 ちゃめしごと

ご指摘ありがとうございます。確認いたしまして修正させて頂きました。お読み下さり、誠にありがとうございますです。

解除
2017.06.29 ユーザー名の登録がありません

退会済ユーザのコメントです

2017.06.29 ちゃめしごと

IFなのですよ!もしもの世界のお話なのでアル君は相変わらず被虐体質なのですよ!
…まぁ、もう予想付いてるかと思いますがこれからさきのえっちっちーなシーンでは場合によってSとMのアル君を書かせて貰う事になるかと思うです!僕としてもそれを楽しんでもらえたら幸いなのですよー!ご感想、ありがとうございました!

解除
代泪 星
2017.06.29 代泪 星

このタイトル昔アリスソフトで出てたので変えたほうがいいのでは?

2017.06.29 ちゃめしごと

知ってる人がいて感激の中でやっぱりそうですかねという気持ちなのです!!!お読み頂きご意見頂き同士発見の流れを感謝で表せばいいのか分からないです!!とにかくありがとうございます!

解除

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。