6 / 8
道場
しおりを挟む俺はイノリと二人で、とりあえず道場に向かった。
道場に着くと、外観は道場というより、小さな闘技場という感じだ。
とりあえず、木の扉をノックする。
「……すみませーん、ギルドで聞いてきましたー」
すると、奥から声が聞こえた。
「……どーじょー」
うわぁ…
「……イノリ…やめとく?」
「なんで?」
「いやな予感しますよ?」
「だいじょーぶでしょ、戦い方は知っておきたいし。入ろうよ?」
「…」
俺は、しぶしぶ扉を開けて、道場の中に入った。
受付と休憩所のようなものがあるが、誰もいない。
突き当たりのドアが開いていて、中庭があり、そこに男の人が立って手招きしている。
俺達は、中庭に入り男のところまで行った。
男は、痩せた40代くらいのオジさんだ。
見た目は、エセ貴族のような格好をしている。
カボチャみたいなズボンをはいて、白のタイツに、カラフルなラメの入った色のシャツ。
鼻の下のヒゲは漫画のようにスーッと横に伸び、先がくるくると丸くなっている。
えーと…どうやったら、そういうヒゲになるかを聞きにきたんだっけ?
そう考えていると、男が勝手にしゃべりだした。
「わたくしが師範のプースで…あーる」
あぁ、間違いなくさっきの言葉は、こいつが言ってたな。
名前も適当だ。
ぜっったいに、『師範』という肩書きを先にもらって、名前を考えたんだろう。
名前って、世界観を作るのに、重要な要素のひとつのはずだろ?
そういや、さっきのアヒルといい、こいつといい、どうやらこの運営は、世界観作りは下手だな。
スタッフの育成も。
語尾に何かをつければ、キャラが完成するとでもおもってんのか?
本当にこいつから、何かを学ぶのかよ?
とりあえず、挨拶はしとくか……
「ああ……どうも、イツキとこっちが、イノリです」
「はい、戦い方を教えます…お二人の武器を構えてください」
ほら…「…あーる」もう出ねぇ…
そこから、俺達は一通り剣と槍の使い方を、市販の……師範のプースに習った。
一応、まともに剣で相手をしてくれた。
「お二人とも、筋がよろしいようです。少し休憩をしましょう。
そちらの休憩室へ、どーじょー」
ほう…こっちが出たか…
俺達は、椅子に座って休憩をする。
「お茶を、どーじょー」
ほう…
使いやすいようだな…
お茶を飲んでいると、プースがなまいきにも、イノリに話しかける。
「どうですか?イノリさん、……戦えそうですか?」
「うん…まだわかんないです…でも意外と槍って軽いんですね?」
「いえ、そんな事はありません。それは、ボディ(肉体)の補正が入ってるので、実際より軽く感じるんです」
「ボディの補正?」
「ええ、本当の重さでは、普通の人は疲れてしまいますからね。
少しだけ、バランスをボディが調整しているという事です。
お二人が使用しているボディは、本当は凄く優秀なものなんです。
しかし、まだお二人はLvが低いので、ボディ自体の力をシステムで制御しております。
強くなれば、その制御、リミッターのようなものが解除されていき、本来の性能が出るという事です」
そうか、なるほど…そういう風にして、Lvや強さのバランスを取ってるんだな。
ジョブもそうか…本当はもっと力を出せるけど、
セイバーなら武器使用時に力を少し解除、
アーマーなら、耐久性を少し解除してるって事か…
その辺は、ちゃんとしてるじゃん。
あ、っそういえば…
「あのプースさん、俺たちまだ、HPが20くらいしかないんですけど、これってどのくらいの攻撃で死んじゃうんですか?」
「ビンタされたら死にます」
「ビンタで!?」
「はい」
「えぇ…」
「転んでも死にます」
「…」
「靴ズレでも死にます。
口内炎でも死にます。
急に横向いて、首がピキってなっても死にます。
友達になろうって言って、断られても死にます」
…俺……さっきヤバかったじゃん…
「では、そろそろ実践といきましょうか?」
「実践?」
俺達は中庭に出た。
「えー、今から敵が出てきますので、お二人で倒してください」
敵?
闘技場のドアが全て閉じられると、ひとつの鉄格子の柵が上がって、中から何かが走り出てきた。
嘘だろ…ゾンビだ!
「キャー!!」
イノリは叫びながら、走って逃げ出す。
マジか!?いきなりバケモンが相手かよ!
いや…待て……俺!
やれるはずだ!……ビビんな!
ゾンビなんて、映画やドラマで、倒し方は何度もシュミレートしてきてる!
車庫や、納屋でエッチな事さえしなければ、簡単にやられる事はない!
こいつらの弱点は、ここだ!
俺は剣で頭を切りつけた。
ゾンビの頭は、中身と一緒に飛び散り、体を痙攣させながら倒れた。
タカラッカトッタッター!
急に頭に音楽が響いた。
あっLvアップか!
ステータス…は、
Lv:2
HP:35
MP:10
特技:脳出し
うーん…ことごとく…ネームセンス……
まぁいい、とりあえずLvアップしたし、特技も覚えた!
「イツキさん、おめでとうございます!
素晴らしかったですよ!
まだまだ、出てきますからね、油断しないように!」
どうやら、ここで少しだけLvが上げられるんだな。
「イツキ……私、ムリ~」
イノリは、端っこでしゃがんで、頭を抱えている。
「イノリー、Lvがここでも上がるみたいだから、やっといた方がいいぞ?」
「う~ん……そう…なの…?」
「靴ズレする前に、やっとこうぜ?」
「う~……」
その後、俺達はなんとかゾンビを全滅させて、お互いLv5まで成長する事が出来た。
そして、俺達は道場を後にした。
ついに「…あーる」は、一度しか出なかった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話
家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。
高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。
全く勝ち目がないこの恋。
潔く諦めることにした。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる