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第Be章:幻の古代超科学文明都市アトランティスの都は何故滅びたのか

伝説と真実/3:現実的に見てオリハルコンの正体とは誰もがポケットにしまっていたコイン。それとYou wanna be My friend?

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 その街の姿を見た時、シズクはここがファンタジー的な異世界であることを忘れた。そこにはまるで、東京の新宿副都心か、中東のドバイのような近代的超高層建築が乱立していたためだ。実のところ、この光景は予測していた。プラトンの記した都市設計図では、その膨大な兵士を住まわす土地の広さがまるで足りていないためだ。しかし、2次元的な広さが足りないならば、3次元に拡張すればいい。故にアトランティスは超高層建造物が並んでいて当然であり、また、おそらく地下にも都市が広がっていることも同時に予測できた。

「すごい……感動するね、リク君」
「俺はその感動を数時間前に体験していたし、つーかその間ずっと走ってたの!」
「いや……本当に……凄い、ものだ……まさか、この……私が……息を……切……」
「はっはっはっ、鬼の騎士隊長もまだまだだね、マイハニー。良いことだ、君はまだ強くなれるということなのだから」

 なんだか盛り上がるポイントがズレている。やっぱりリク君はずるい。ともあれ、憧れのアトランティスが目の前にある。シズクは早速実地調査を開始した。

「建物はやはりコンクリート製……いや、これはただのコンクリートじゃないね。もしかして、ローマン・コンクリートなのかな」

 ローマン・コンクリート。それは、現実に存在する古代の超技術。コロッセオなどのローマ建築に使用されたそのコンクリートの特徴は、自己再生能力にある。これはファンタジーやSF的な誇張表現ではない。現在日本でも広く使用されているコンクリートは、おおよそ20年もすれば経年劣化によるひび割れが発生する。実際街中において、コンクリートのひび割れなど探せばいくらでも見つかるだろう。ローマン・コンクリートはこのような経年劣化によるひび割れを自動修復するのだ。

 この原理は、ローマン・コンクリートの中に生きた補修素材が内包されている点にある。ローマン・コンクリートが経年劣化によるひび割れを起こした場合、まず雨水がそのひび割れから内部に浸透する。すると、内部に含まれていた修復用素材が水に溶けて膨張する形で流れ出し、ひびを埋め、後に固まるという形で自動修復を完了させてしまうのだ。

 そんなローマン・コンクリートの製造方法は、コンクリートを生成する際に火山灰を混ぜることに秘訣があった。現在の日本ではこの火山灰を安定調達できないというのはまずあるのだが、ローマン・コンクリートの弱点として、通常のコンクリートよりも生成に時間がかかるという大きな問題点として頭を悩ませる。

 素材の問題だけでいえば、その素材の生産量を増やし流通量を増やしコストを下げることで対応が可能なのだが、時間に関してはどうしようもなく、それは工事における人件費として建設コストを肥大化させてしまう。この肥大化するコストを、老朽化したコンクリートのメンテナンスコスト及び割り切って解体して作り直すコストと並べて考えた時、現代でローマン・コンクリートを使用するメリットが見出だせないという現実に繋がっている。

 ただ、現在日本の大学においてローマン・コンクリートの再現及び改良の研究が進んでおり、近い内にコストの逆転が発生する可能性はある。古代の超技術と現代の科学技術のコラボレーションというものは、やはり胸が熱くなるものがあると感じるばかりのシズクだった。

「それより、オリハルコンは!? 伝説の金属、オリハルコンはどこに使われてるんだ!?」
「ティマイオスとクリティアスによれば、建物の窓ガラスにオリハルコンが用いられていたらしいですわ」
「じゃぁ、これがオリハルコン……なの、か?」

 そういって窓ガラスをこんこんと軽く叩いてみるが、どうもごく普通のガラスと差を感じない。確かにガラスの製造技術という点においてそれはこの世界の他の街で見かけた歪んだガラスとは一線を画すものがあるのだが、現代の建物で普通に用いられていたクリスタルガラスを見慣れていたリクにとってみれば、それはありふれたものであり、夢にまで見た幻の金属オリハルコンがこれであると言われるとどうにもがっかり感を覚える。この感覚は、札幌で開催された学会を抜け出して時計台を見に行った時以来だ。

「意外とそんなもんなのかもね、オリハルコン。まぁクリスタルガラスでしたってならむしろ十分感動的だよ。実際のオリハルコン、もっとしょぼいからね」
「まじかよ。ていうか、オリハルコンの正体って判明してたのか?」
「最近、イタリアの方の沈没船からオリハルコンのインゴットが引き揚げられたんだよね。ニュースで見なかった?」
「多分その頃の俺、ソシャゲの新ガチャのニュースしか見てなかったな」
「ま、そんなとこだろうね。そのニュースによると、そのインゴットは真鍮製。つまり、オリハルコンってただの真鍮だよ」
「え? 真鍮って聞いたことあるけど、どんなとこに使われてる金属だっけか?」
「多分一番身近なものだと、5円玉かな」
「5円玉ってオリハルコンだったのか!? うわっ! 一気にランク落ちたな!」
「そう? 5円玉の色した剣とか綺麗だと思うけど。黄金色で、虹みたいな光沢反射」
「……想像してみると案外ありっぽいな。いや、でもなぁ……最強装備が5円玉かぁ……」

 複雑な思いに顔を曇らせるリクに、シズクは追撃を叩き込んでいく。

「現実にはいろいろとがっかりがあるんだよ。札幌時計台とか、はりまや橋とか、オランダ坂とか。世界だとマーライオンと小便小僧と人魚姫像かな。特にコペンハーゲンの人魚姫像は最悪なんだけど、あれはなんていうか、人魚姫像が悪いんじゃなくて、綺麗な海に面した港町を近代工業地帯化して海を汚しちゃったデンマークが悪いよ」
「現実はクソ。はっきりわかんだよね」
「そうかな? 意外とそんな現実にも、隠されたファンタジーがあるかもしれないよ。そのコペンハーゲンの人魚姫像、偽物だって話がまことしやかに語られてるし。本物は地中海のどこかの海を覗く鍾乳洞穴内にあるらしいよ。なんかほんとに近代化の中で人魚が洞窟に隠れたみたいで、私はこの説、ロマンがあって好きだな」
「一応のフォローも忘れないあたり、優しさが染みるぜ」

 それでもやはり、どうにもリクは納得がいかないらしい。その後レーヌから声をかけられ、オリハルコン製の剣を求めて鍛冶屋に向かうのだが、その最中も。

「いやでも……5円玉の剣……なんか、チョコみたいで……なんかなぁ……」

 と、ぶつぶつ呟いてテンションが上がらない様子。これにはレーヌも首を傾げ。

「少年はどうしたのだ? ここに来るまではオリハルコンの剣をあんなに楽しみにしていたのに。なにか心当たりはないだろうか?」

 そうこちらに尋ねるものだから、シズクはニヒルに笑って答える。

「いいんじゃないかな。少年が、大人になったってことだよ。子供の頃、あんなに輝いて見えていた憧れの物を大人になって簡単に手に入れた後で、これは手に取るべきじゃなかったと後悔するのなんて、誰にでもありえる話。残酷だよね、大人になることってさ」

 現実的異世界転生物に、最強装備な伝説の剣など存在しない。シズクもこの時はまだ、そう考えていた。
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