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第二話:(月・祝)の方違さんは、たどりつけない?

2-3 くつ下まちがえた💧

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 ぴこん、と通知音が鳴る。

 ――ここ 駅じゃないかも 看板ぜんぶ読めない字 電車じゃなくて エレベーターみたいな ロケットみたいのが 大きくなったり小さくなったり ぐるぐる回って

 ぴこん、と通知が鳴る。

 ――駅に着いたけど ずっと通路 ドアもない 窓もない 右にまがったり 左にまがったり いくら歩いても終わらないの いろいろ人の声が聞こえる 笑ったり 悲鳴

   ◇

 方違さんは、どこにいるんだろう?
 奇妙なメッセージが通知とともに現れては、なぜか僕が画面に触れると途端に消えてしまう。まるですべての証拠を消し去ってしまうみたいに。
 僕がいくら必死に呼びかけても、メッセージはひとつも既読にならなかった。

  ◇

 ぴこん

 ――うす暗くて やなにおい 畳がひいてあるけど ぜんぶ腐ってて キノコとか 木とか草とか 虫がたくさん でもここが駅だと思う すぐ行くから 待っててね

 ぴこん

 ――ここが駅? お面ばかり 白いお面 ぶつぶつのお面 きつねのお面 わらってるお面 なえむらくんのお面 生きてるお面 半分のお面 おばあちゃんのお面 鬼のお面 どろどろのお面 わたしのお面 黒焦げのお面

 ぴこん

 ――なんか分かんないけど めっっっちゃきれい!! 空がピンクで 白いでっかい惑星みたいのがいっぱい! なえむらくんにも見せたい!

 ぴこん

 ――このトンネル 小さいとき夢で見た 水がだんだん増えてくる スニーカーかたっぽ 流れてっちゃった 天井も低くなって もう無理 もうすぐ駅なのに 電車の音がきこえるのに

 ぴこん

 ――もう行きたくない ケーキもいらない 会いたくない こんなの つらい ぜんぶ なえむらくんのせい 親切なふりして 大きらい 後藤君とサエキさんと 3人でバーベキューしてたね わたしのこと笑ってたね 大きらい

 ぴこん

 ――(このメッセージは発信者によって削除されました なえむらくんに こんなの読ませれないから)

 ぴこん

 ――あさ起きてから ずっと森の中 学校まで まだ時間かかる すごい森 ものすごく大きい いろんな木 燃えている木 追いかけてくる木 わたしのおなかの中の木 みんなの顔から生えてくる木

 ぴこん

 ――ベンチに くるりが座ってる みっともない子 何でこんなちっちゃいの 高校の制服もにあわない ちゃんとカルシウム取らないからよ 暗くて ひねくれてて かわいくない おどおど びくびくして 友だちともまともにしゃべれない 髪の色も薄くて 病気みたい 

 ぴこん

 ――海に来ちゃった 海なんて無いのに でもなつかしい 知り合う前 いっしょに ここに来たよね 波のあいだに なえむらくんの後ろ姿が見える ずっと遠く どんどん遠く 声がとどかない わたしの声 とどかない なえむらくん

 ぴこん

 ――さっきから 何なんですか? あなたは誰なんですか?

 ぴこん

 ――ごめん いちど うち帰る くつ下まちがえた💧 みぎとひだりがちがう

 僕はもうどうすればいいのか分からず、携帯を握りしめたままでベンチに座り続けていた。

  ◇

 ずいぶん長い沈黙のあと、ぴこん、と通知が鳴った。
 もう午後二時半だった。

 ――なえむらくん! めっっっちゃ待たせてごめん! 駅に着いたよ! 今どこ?

 ――約束したベンチで待ってるよ

 と、正直半信半疑で返信したら、一瞬で既読が付き、ちゃんと返事が来た。

 ――すぐ行くね もう午後だね ほんとごめん くつ下なんかのことで

 今度こそ、会えるんだ。
 僕は階段を駆け上がり、黄色いTシャツの方違さんが陸橋を歩いてくるのを待った。
 でもやっぱり、彼女の姿は見えない。

 ぴこん

 ――ベンチに着いたよ なえむらくんどこ?

 行き違ったのか?
 僕は階段を走り下りてベンチに戻った。
 だけどそこに方違さんの姿は無かった。

 ――方違さん、どこ?

 ――わたし 約束のベンチに座ってるよ💧

 いや、誰もいない。
 方違さんはそこにはいない。
 僕はため息をついて、ベンチに座り込んだ。
 月曜日の現象は、まだ終わっていなかったのだ。

 ――僕もあのベンチに座ってる 方違さんも同じ場所にいるの?

 ――そっか まだなえむらくんには会えないんだ

 夏のような天気だった。
 五月の太陽が空のてっぺんにあり、アニメの背景画みたいに青い空を、飛行機雲がまっすぐに横切っていた。

 ――方違さん、飛行機雲が見える?

 ――うん まっすぐ 空 青いね

 ――足元にすずめが二羽いる?

 ――うん ふたりであそんでる

 ――君の家のへんを、おばあちゃんが歩いてる

 ――あれはとなりの吉村さん 家が五個あるでしょ? まん中がわたしんち

 ――ほんとに、同じベンチにいるんだね

 ――だね

 こんなこと、あるんだろうか。僕らは同じ時間、同じ場所にいる。でもお互いが見えない。
 今日の方違さんの目的地は、つまり今日の方違さんがたどりつけないのは、駅でもベンチでもなくて、この僕だったのだろう。

 ――このまま ずっとなえむらくんにあえないのかな?

 ――まさか 今日だけだよ

 ――ごめん 充電きれそう わたし

 そしてしばらく時間が空いてから、音が鳴った。

 ぴこん

 ――あいたいな

 ここで待とう、深夜になっても、と僕は思った。

 帰りの終電は夜九時半。この駅から最後の電車が出るのは十時前。駅から閉め出されたら、方違さんの家の前で待てばいい。真ん中の家。茶色い屋根のあの家だ。
 日付けが変われば、こんなことは終わるはずだ。

 メッセージはそれきり来なくなった。
 僕は自販機の飲み物しか口にせず、ただただベンチで待ち続けた。
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