観測者はゲートに降り立つ

アルガス タイター

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戦争の始まり

[観測者]アスラ

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「俺の名前は今は仕事名でいいか?いいよな。とりあえず今はコードネームのアスラって呼んでくれ。執行官[観測者]だ。クレア、これからよろしくな」

「わ、私の名前、どうして」

「落ち着け。君のことを保護しろとの命令が出ていてね。あ、もちろん君の国ではないから。学院戦術都市ハルファス理事会からクレア・リアスティーゼの保護命令が出ていてな。君の体は俺が保証しよう」


 私とさほど年齢が変わらない青年はアスラというらしい。この人の声を聞いていると心地が良かった。この人がいればもう大丈夫なんだ。今は私たちはアスラが殺した冒険者がいた場所からだいぶ離れた位置にいる。彼はハルファスから私を助けるためにここまで来たらしい。
 歩いている途中で教えてくれたんだけど、アスラは現在16と言っていた。私は14だから二つ上の先輩だった。


「俺個人としても君のようなほぼ同じ年齢の少女を見捨てるわけにもいかなかったしね。今日はここで野宿しよう。明日あたりにはハルファスに着かないといけないから余り遅くまで起こしていたくはないんだけど…気になるんだろ?」


 彼は私の心を見透かすように私の疑念に直接問いかけてきた。


「君は成人の儀を終わらせたあと、どこかの学園都市に生活を移し学校に通うことになる...予定だった」


 私は両親に内緒で学園都市に通いたいと思っていた。そして一ヶ月ほど前辺りに学院都市ハルファスで暮らせる目処がたっていた。


「しかし君の知るとおり君の国では、というより現王族、貴族の連中は反学園都市を目的とし戦争を繰り返す愚国。どうやら親の意志を引き継がず学園都市に賛同する子供が増えたみたいだが」


 この国はそもそも自分たちの伝統汚されたくなかった。各国では科学技術が発展し街中では車やバイクなどが横行する中、私たちはなるべく科学に頼らないように国民に強制していた。聞いた話によるとどこの国も学園都市以外はそういった科学技術を強制していたわけではなかった。科学というものに頼るよりも平凡な庶民的な伝統的な技術の方が学園都市賛同派でさえ重宝していた。


「君の国では世界政府に見捨てられたのが何の成果も挙げられていないと思っていたみたいだが、本当は学園都市を否定する国をまず信用はしてないということを気づかなかった。ましてや政府にずっと監視されていることにも気づかないほど愚かだよ」


 彼の瞳にはただ焚き火の炎が映っていた。どこか遠い目で見つめるそれは国に対しての呆れなのか失望なのか。はたまた別の何かなのか。


「クーデターってどういうことですか?」

「言葉の通りだよ。今頃せいどう教会を筆頭にクーデターでも起こしているんじゃないか?」


 私はそれを聞いた瞬間、リアスティーゼ王国に向かって走り出していた。
(早く戻らないと!お兄様やお姉様が...)
 私は最悪の結末を酷いことに思い描いてしまった。姉兄がつるし上げられ殺される姿を。


「はぁ...君が思っているほど彼らには何も被害は出ないよ」


 私を助けてくれた彼は静かな声で焦って動いてしまった私に聞かせた。


「クーデターを起こすように唆したのは君の姉兄。既に政府からも他の執行官を送っている。君の国は晴れて解放され、君はリアスティーゼ王国の王女でも無くなりただの美少女になるってこと。

 そもそもクーデターが起きる以前に人体を触媒にした勇者召喚は元より禁忌に触れるもの。その情報を掴んだ時点でリアスティーゼは終わっている。滅びの運命を辿っていることに変わりはなかった。

 君の兄弟に関してはこれからリアスティーゼを引っ張っていく立役者になってもらわなくてはならない。かつての王族は倒れその復権が出来るかは知らないが、少なくとも何も問題が起きなければ政府からの信頼も勝ち取れる。保証はないがな」

「何故私だけ保護されるのですか。それなら私の王女という称号が剥がされることは無いはずです」

「言葉足らずだったね。彼らは一度腐った王族を捨て去り、また新たな王族を作り上げる必要があった。その過程において君という王女は幻となる。いわば世間では元王女として扱われ、血は繋がっているがかつての王族であって現在の王族ではないということ。他国から圧力は君にはかからなくなる」


 血は繋がっているのに王族ではない?何を言って...。でもそれはそれでいいことなの?私個人としてはこの楔からは解放されたかった。暑苦しい作法なんか使わなくていい。平民と同じようにラフな生活を送ることが出来るということになる。


「暑苦しい話は明日また話すとしよう。とりあえず今日は寝ようか。君はゆっくり休むといい。安心してくれ。君のことは俺が護ってあげるから」


 彼は私が寝惚け眼で話を聞いていたのに気付いたのか毛布を渡してくれた。
 私は横になり彼の言葉を聞きながら意識を手放していった。意識を手放すさなか、彼にはずっと護ってもらいたいと思ってしまった。彼ほど安心出来る存在はないと心に深く刻まれてしまった。
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