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戦争の始まり
学院戦術都市 Part1
しおりを挟むもう何時間も燃え続けているにも関わらず燃え上がる力を失おうとしない焚き火を見ながら、その先でぐっすりと眠りについている少女のことで考えていた。
「この世界に学園都市ほど安全できる場所はない。どの国の街もその範囲を出ると単なる魔獣の森。車や飛行機といったものがその場所で全く見当たらなければ安全ではないとも言われているほどの常識。逆に馬車や武装している人間がいる場合は魔獣がいる証拠。それを俺とほとんど同じ年齢の少女を逃がすためとはいえ、危険な森に放り出すかな、普通」
まぁ、それほど慌てていたということなのかもな。彼女には説明する余裕すらなかったみたいだし。
この仕事に就いてからだいぶ経つけど、慣れないものだな。この力を持つと感情を失っていくように思えるよ。他の人にはありえない俺だけの力がそうさせているのかもな。
少年が見ているのは傍から見れば、焚き火か寝転んでる少女だろう。しかし、実際は違う。少年が見ているのは虚空だった。その目には生気が宿っていなくどこか虚ろな目をしていた。
科学では証明できない見え方をしている。第三の目、と言われると近しい喩えになるのだろう。しかし第三の目でも少し語弊があるが、逆に他には喩えようもない力が働いている。虚ろな目をしているが本来の目として虚ろになっていても普通に働いているからだ。
その目で見ているのは少女の故郷。リアスティーゼ王国の現状を眺めていた。現在は明朝。太陽がちょうど地平線から顔を出した頃。そろそろクーデターが起きる頃合い。そして少女を起こす頃合いでもある。
「クレア、そろそろここを離れたいから起きて欲しい」
そこまで強く言ったわけではなかったが、クレアはその言葉を聞いたあとゆっくりと目を開けてこちらを見た。昨日では気づかなかったが、王女ということもあり肌はとても透き通っていて吸い込まれそうな赤い目、肩まである金色の髪はとても神々しく、そして綺麗な顔立ちをしていた。
俺はそこでクレアに見惚れてしまった。こんな感情は初めてだった。俺は誰かに愛されたことがないとまではいかないが、歪曲な愛を受けてきたゆえに“愛”というものに疑問があった。今まで綺麗な大人の女性とは何度も会ったこともあれば、迫られたこともあった。しかし、それでも特定の人間に意識を奪われることなんてほぼ有り得なかった。
ただ意識を奪われただけでクレアのことが好きというものでは無いことは明らかだ。彼女を護りたいと思っただけで、結ばれたいまでは思わなかったが俺のこの感情はとても懐かしい感覚を覚えた。
「おはよう、クレア」
「おはようございます、執行官さん」
俺は挨拶を済ませたあと用意していた軽食をクレアに渡して朝食を始めた。
「すまない。今はちゃんとしたものがなくてね。粗末なものを食べさせてしまい申し訳ない」
クレアは王族、庶民が食べるようなものを口にする機会なんてほぼ皆無。ハンバーガーなんてジャンクフードを見たことはあれど食べたことは無いはず。それも冷めているものなんて。
まずそもそもなんであのジジイ共は王女を護衛しろとか言っておいてこんなものを渡すかな。頭イってんのかな?
「い、いえ。その私はこういったものを1度食べてみたいと思っていましたので」
「......それならよかった」
朝食を済ませてすぐに身支度を行った。俺とクレアは学院都市ハルファスのある場所へと足を進めた。道中で彼女は色々と聞いてきたということもあり、殺風景な森の景色を眺めていただけの行きと違って割と楽しい帰りになった。
「あ、あのなんで私はその学院都市に呼ばれたのですか?」
「呼ばれた、ということよりも君の入学手続きが勝手に進んでたって感じかな。学院都市としてはリアスティーゼ王国が王女を触媒に勇者召喚するとか馬鹿げたことしているのは許せなかった。といっても科学側は魔術というものを知っているのは極一部の人間、つまりは各学園都市の統括理事会の人達くらい。だから学校に通う生徒やただの一般人からすると非科学的な技術は理解し難いものになる」
「つまり私はその学院都市を統括している人達に呼ばれたんですか?」
「そういうこと」
クレアは少しほっとしたような顔をした。クレアにとっては自分が学園都市に行きたいということが国にバレて、それで勇者召喚の犠牲になるとでも思っていたのだろう。
「そういえばクレアって14だったね」
「え?あ、はい。その執行官さんの年下になります」
14とは思えない色気を放っているんだよな。中身が14っぽいけど外見は身長が低い大人って感じがする。
彼女は恐らく無自覚なんだろうけど辞めて欲しいな。王族の作法としてなのか分からないけど、どの国の王女も皇女も魅了しているのでは?と思える立ち振る舞いをしている。ほんとに辞めて欲しい。
「ハルファスでは中学校に転入という形で入学することになるけど、クレアからすると中学の勉強なんて要らないんじゃないか?」
彼女は何度も言うが王女だ。そして魔術師でもある。本来魔術師は科学サイドの能力者とは違って裕福な家庭であるほど、幼少期から色々なものを仕込まれる。魔術の鍛錬の他に世の中の一般常識、帝王学、そして勉学。物心ついた頃からペンを握らされるほど魔術サイドでは勉強をさせられる。実体験であるが故にわかる話ではあるが。
王女であるならばさっきのことすぐに仕込まれることになる。全ての魔術師家庭がそうである訳では無いが、俺を例とするならば小学生の頃には高校の学習は既に終わらせていた。さすがに高校までは行かなくとも中学までは終わっていると思った。
「確かに私はもう中学校で習うはずの学習は終わらせています。だけど私はその科学というものを知りたいんです。能力者というものをまじかに見てみたい。それにあっちでは出来なかった友達が欲しいです」
「あっちで余りひけらかすなよ。自分の知識の保有量はそこらの学生を軽く超えてるんだから。それに魔術というものは隠しておけよ」
クレアにはやりたいことがあって学園都市に来る。ただ魔術師が今まで長く学園都市にいた記録はない。なぜか。それは周りが馬鹿らしく思えてくるから。最初はクレアのように考えを持つものは少なくはない。しかし、直ぐにその考えを覆したくなる。能力者ほど慢心している雑魚はいない。どんなに譲歩しても能力者というのは馬鹿らしく思えてしまう。
「分かってます。魔術師というものを知らないことを。でも私はそれでも行きたいんです。私が知らない能力というもの。あれは魔術では証明できないものと聞きました。それは何故か私は知りたいんです」
能力者は魔術師を知らないが魔術師は能力者を知っている。だが、魔術師は能力というものが一体どうやって顕現したのか知らなければ、それを証明することは出来ない。逆に能力者は魔術師というものを知ってしまえばそれを証明することは簡単というもの。
ただ証明するのは別段難しくはない。もう既に解が分かっているから。科学では計算式や演算を必要とするものを魔術では用いない。科学は数式を、魔術は言葉を必要とする。身近な言葉で表すならば能力者は理系、魔術師は文系よりの理系。魔術は別に数式を用いないって訳ではなく、魔術を起動する多くの要因となるのは知識が関わっているからであって、そこだけを見ると文系に当たるということである。
「今からハルファスに行くことになるわけだけど、何か知りたいこととかあるか?俺が答えられる範囲であれば大丈夫なんだけど」
森が少し開けてきて魔物の気配の数も少なくなってきた。そろそろハルファスに着く頃だ。
クレアももうすぐだ、と勘づいたのかソワソワしだした。緊張しているのか。
クレアに分からないことがあるといけないから聞いてみたが、クレアの様子からしてあまりないようだな。
「もうすぐハルファスに着く、といってもハルファスの周りを取り囲むちょっとした街に着くというのが正解かな」
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