大戦乱記

バッファローウォーズ

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命の花

生み出されし王道魔力弾

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「涼周……飛蓮。なぜここに来たのだ。お前達は義仁城にいる筈だろう」

「おかーさん、にぃに助けるって出てった。涼周はおとーさんが大怪我したって聞いたから、涼周がおとーさん守る!」

(……誰がそのような報告をした。情報官は全て、安楽武を通してから他の諸将へ伝達するように徹底している筈。……もしや……)

 本能的に決着の刻を感じたナイトの許へ、涼周と飛蓮が何の連絡もなしに現れた。
これを不穏に感じたナイトは、自らの考えを察してもらうべく飛蓮に目配せすると、彼女は申し訳なさそうに頭を垂れる。

「すみません。奥様が助けに向かうから、私達は義仁城に残るよう言われたんですけど……やっぱり気が変わっちゃって、ナイト殿の所に行くって聞かなかったんです……。それで一人で行かせる訳にもいかなくて、私も来ました」

「安楽武や淡咲は止めなかったのか? 行かせるにしても、充分な護衛を回す筈だが」

「軍議が終わって解散した後なんです。情報官が直接、涼周殿にナイト殿が負傷した事を伝えにきて――!?」

 説明する飛蓮目掛けて、覇梁が一刀両断の斬撃を飛ばしてきた。
大地を穿ちながら進むそれは、兵の群れをいとも容易く切り捨てると、絶大な威力に気圧された飛蓮へ瞬く間に迫る。

「二人とも、下がっていろ!」

 ナイトが即座に立ちはだかり、得物の名剣に多量の魔力を込めた。
次の瞬間には覇梁の斬属性とナイトの光閃属性の魔力が激突し、銀色の火花が辺り一面に咲き乱れるや、波及した衝撃波が本陣内の旗指し物を蹴散らし飛ばす。

 両軍の大将の実力が、如何に高いかを垣間見せる一瞬であり、飛蓮では耐えきれない一撃だった事は言うまでもなかった。

「……何を悠長に話している。ジオ・ゼアイ・ナイトよ。我等の勝負は、まだついておらぬぞ。剣を構えよ、我と向き合え。その小娘どもと語らうのは、我に討たれた後、冥土でゆっくりといたせばよかろう」

「フッ……片足のくせに立派な大言を吐くものだ。最期の刻を永らえさせてやってるんだから、お前こそゆっくり待てば良いものを」

「ナイト殿! レモネ殿が安楽武軍師へ報告していますので、きっと後続の兵が向かっている筈です! あの情報官は、私達をここに来させる為に敵が――」

「言わずともよい。すべて、俺に任せておけ」

 口にこそ出さないが、ナイトは敵に謀られたと理解していた。
その上で彼は、涼周と飛蓮の前に仁王立ち、左手を水平に伸ばして雄々しく構える。
敵の罠に嵌まって戦場へ来てしまった二人を擁護するように、何より覇梁へ睨みを効かせる涼周の殺気を緩和させるように。

「おとーさんの敵、涼周の目に映らない! ……おとーさん!」

魔銃マガン・ターコイズか。……それも良かろう。だが、全力は出しきらなくていい。俺が止めをさす、その隙を作ってくれ。いいな?」

「ぅんっ!」

 ナイトは左手を後ろへ回し、涼周を小脇に抱えた。
父の逞しい肉体に抱きつく涼周は、その状態でナイトの傷口に唇を付け、血を吸うと同時に光閃属性の魔力を体内に吸収する。

「……いける……!」

 ナイツの魔力より濃く感じる、ナイトの魔力。
これなら永結城で撃った魔弾よりも強い一撃を放てると、涼周は確信した。

「魔銃! 全開っ!!」

 双眸に赤光を宿した涼周が、阻むもの無き勢いで魔銃を突き出した。
その声に応えた魔銃が大量の魔力を放出するや、辺り一面に黒霧の渦を生み出し、涼周とナイトを中心とした安全地帯を形成する。

「あれは涼周!? なぜここにいるんだ!?」

 父の身を案じて駆け付けたナイツも、弟の勇姿を遠目に確認した。
なぜ来てしまったのか事情を知らない彼は、動揺のあまり馬の足を止めてしまう。
良くも悪くも『涼周』という存在に心を振り回され、かの幼子が魅せる大技に目が釘付けになってしまったのだ。

 その一方で魔銃は雄々しい変形を遂げ、幼子に似つかわしくない大型銃を構築する。
漆黒の銃身は艶を増し、横に走る深青の溝が主張する光沢も、夜空を突っ切る彗星の如き輝きを魅せた。

「ターコイズ! この戦を、終わらせよう!!」

 シラウメの花弁が舞い踊る幻想的な光景に、敵も味方も戦を忘れて注視する。
噂に聞く魔銃の発動は、戦場という非日常の時を止めるのだ。

「お前は俺の目に映らない!!」

 ナイトに対をなす覇王に、一片の恐れも抱かない涼周。
かの幼子は毅然と構える覇梁を堂々と指差し、自らの正義に基づいて悪と公表した。

「彼の王が握るは、皆を照らす光の剣!!」

 上唇に塗ったナイトの血を舐めとり、左手に顕れた光の粒子を魔銃に注ぎ込む。

「其の者を護るは、背に控えし闇の霧!!」

 次は下唇に塗った、自らの血も舐めとり、顕現した闇の魔力を装填。

「そして、守るべきを守る真の強さの証明を、ここにっ!!」

 最後は胸に手を当て、自らの想いを纏わせた後、魔銃に力強く添える。
全ての力が装填された魔銃は激しく鳴動し、力余って溢れ出た魔力が周囲一帯に破邪顕正の威風を吹き荒れさせた。

(相容れぬ二つの魔力を融合し、この世には存在せぬ力として射出する魔銃•ターコイズ。我の魔具でも無力化できぬ国崩しであるが……)

「全てを決する一瞬としては、申し分無い。参る!」

 自らを標的とした魔銃を前にして、覇梁は退くでも構えるでもなく、ナイトと雌雄を決する為に残していた魔力の殆どを全身に纏わせた。

 そして跳躍する様に大地を蹴ると同時、肩当てより前に刀を出す。
永結城での敗北から、魔具では守りきれないと判断して、敢えて攻めに出たのだ。

「撃ち払えぇ!! 真・白夜王オーセン!!」

 迎撃に出た覇梁を下さんとして、涼周も漆黒の引き金を引く。
何十基もの攻城砲が一斉に火を吹いたかの如く、人外極まりない轟音と激震が響き渡ると同時、魔銃・ターコイズの口から特大の魔力光線が撃ち出された。

 雨天の薄闇に包まれた戦場を瞬時に照らし、雨を払い除けながら数百本に分離したそれは、圧倒的な数と眩い閃光で覇梁の視界を覆い尽くし、高い追尾性能と巧妙な時間差をもって全方向から一斉に襲いかかる。

「我が覇道に呑まれて消えよ! 奥義・夢斬!!」

 ここだと決めた覇梁も前進を止め、片足をダン!! と地面に食い込ませるや、不退転の構えから即座に刀を振り切った。

 次の瞬間には覇梁を中心とした周囲に無数の斬撃が乱れ舞い、僅かな間隙を見せる事もなく、絶大な切れ味で合成魔弾の光線を斬り伏せていく。
その様はまるで、覇梁を討てると見て懐に入った者が撫で斬りに遭い、無惨な肉塊となって夢幻の如く敗れ去るよう。

「涼周の魔弾を確実に凌いでいる!? マドロトスを押し通したものより強力な筈なのに、覇梁の奥義にはまるで効いてない!」

 対マドロトス戦や、永結城での対覇梁戦の様子を見ているナイツは、大剣豪であっても涼周の合成魔弾には敵わないという確信を抱いていた。
それだけに、彼は驚愕の表情を浮かべて見入ってしまう。

「おとうさんの、敵ぃぃーーーー!!!」

(――!!?)

 だが次の瞬間には、見る者すべてのド肝を更に抜けさせる出来事が起こる。
なんと一発きりだと思われた魔弾光線の二発目が砲出され、先の光線が尽きるより前に後詰として加わったのだ。

(我が奥義をもってしても、捌ききれぬ程の圧倒的物量。……おのれ、新進気鋭の幼子大将・涼周。よもや――)

「……ふふっ……!」

(これほどの……化物だったか……!!)

 閃光の壁の向こう側に、覇梁は渇いた笑みを浮かべる怪物を感じた。
追撃魔弾を放った勇ましい涼周とは別人のようでありながら、間違いなく涼周から醸し出される気配。乱世がまだ気付かぬ怪物が、そこにいた。

「笑止……!! 人知れぬ化物ふぜいが、我の道を阻むでないわ!!」

 だが、覇梁はそれでも諦めなかった。必殺の奥義が撃ち破られ、全方向から魔弾光線が肉薄した正にその時、彼は玉砕覚悟で飛び進んだ。

 この状況から打てる策は、唯一つ。持ちうる全ての余力を放出して前方の壁を切り抜け、奥に控えるナイトと刺し違える事。

「我は……うぬ等に対を成す正義チカラ “サキヤカナイ”!! その筆頭!! たとえ我が身が滅ぼうとも、“否” を突き付けるのみ!!!」

 光線に身を削られながら、道を切り開く様は阿修羅の如し。
その一点を見据える目の先に、漸く光の切れ間を見た時――

「――!!?」

 ナイトの名剣が、覇梁の胸を貫いた。
閃光が如き一瞬の出来事であった。
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