9 / 52
9:ジュリアの夢のような時間
しおりを挟む
「こちらのレースはいかがですか?
最近の流行りのもので、特に若い女性に人気がございます」
「わあ、とても素敵!」
ジュリアは差し出されたレースの美しさに、思わず目を細めた。
テーブルの上は端から端まで、様々な種類のレースがびっしりと埋め尽くしている。
そのどれもが繊細で、思わず手に取りたくなるような上質なものばかり。
どれかを選ばねばならないというのに、とてもではないが選ぶことが出来ず、嬉しい悲鳴を上げているところだった。
ここは洋裁店の一室である。
両親とダニエルを引きつれてやってきたジュリアは、ウエディングドレスの仕立てを頼むために、布地やらレースやらリボンやらを見ていたのだが、どうにも話が進まなかった。
「あれも良いけど、これも素敵なのよね……。
それに、こっちも絶対使いたいわ」
「ジュリアったら。
ウエディングドレスは1着なのよ。
そんなに欲張っても使い切れないわ」
母親のチェスター伯爵夫人に笑われて、ジュリアは唇を尖らせた。
「だってどれも良く見えてしまって……。
思わず目移りしてしまうんだもの」
ジュリアの言葉に、レースをテーブルに並べていたお針子や、椅子に腰かけて待つ父のチェスター伯爵、それからダニエルが笑い声を上げた。
ジュリアは恥ずかしそうに、ほんのりと頬を赤く染めながらも、続けて言った。
「だって、初めてお母様が、全て私の好みでドレスを仕立てて良いって、言ってくださったんですもの!
だったら、あれこれ迷ってしまうのも仕方がないでしょう?」
「ええ、そうね。
好きなだけ悩みなさいな。
せっかくのウエディングドレスですもの、費用のことは気にしないでいいわ」
「本当!?
ありがとう、お母様!」
ジュリアは飛び跳ねて喜んだ。
そして再び両手にひとつずつレースを持つと、ダニエルに見せながら言った。
「これと……こっちだったら、ダニエル様はどちらがお好きですか?」
「え?えーと……そうですね」
ダニエルは首を傾げて二つを見比べていたが、やがて
「どちらも素敵なので決めがたいですね。
それにジュリア様だったら、どちらもよくお似合いになると思いますよ」
と微笑んだ。
その言葉に、ジュリアは顔を輝かせた。
「わあ!ありがとうございます!
でも、そうしたら、どっちにしようかしら……」
と、レースを持ち上げたまま、鏡を覗き込んだ。
鏡越しに見ると、ダニエルは明らかに欠伸を噛み殺しながら、ぼんやりと窓の外を眺めていた。
しかし、そのつまらなそうにしている顔を見ても、ジュリアは幻滅するどころか、ますます嬉しくなるのだった。
彼にとってはつまらないことでも、婚約者であるジュリアの為なら、喜んで付き合ってくれることが嬉しかったのである。
ジュリアはそう考えて、一人でニヤニヤ笑いながら、幸せいっぱいにレース選びを続けるのだった。
最近の流行りのもので、特に若い女性に人気がございます」
「わあ、とても素敵!」
ジュリアは差し出されたレースの美しさに、思わず目を細めた。
テーブルの上は端から端まで、様々な種類のレースがびっしりと埋め尽くしている。
そのどれもが繊細で、思わず手に取りたくなるような上質なものばかり。
どれかを選ばねばならないというのに、とてもではないが選ぶことが出来ず、嬉しい悲鳴を上げているところだった。
ここは洋裁店の一室である。
両親とダニエルを引きつれてやってきたジュリアは、ウエディングドレスの仕立てを頼むために、布地やらレースやらリボンやらを見ていたのだが、どうにも話が進まなかった。
「あれも良いけど、これも素敵なのよね……。
それに、こっちも絶対使いたいわ」
「ジュリアったら。
ウエディングドレスは1着なのよ。
そんなに欲張っても使い切れないわ」
母親のチェスター伯爵夫人に笑われて、ジュリアは唇を尖らせた。
「だってどれも良く見えてしまって……。
思わず目移りしてしまうんだもの」
ジュリアの言葉に、レースをテーブルに並べていたお針子や、椅子に腰かけて待つ父のチェスター伯爵、それからダニエルが笑い声を上げた。
ジュリアは恥ずかしそうに、ほんのりと頬を赤く染めながらも、続けて言った。
「だって、初めてお母様が、全て私の好みでドレスを仕立てて良いって、言ってくださったんですもの!
だったら、あれこれ迷ってしまうのも仕方がないでしょう?」
「ええ、そうね。
好きなだけ悩みなさいな。
せっかくのウエディングドレスですもの、費用のことは気にしないでいいわ」
「本当!?
ありがとう、お母様!」
ジュリアは飛び跳ねて喜んだ。
そして再び両手にひとつずつレースを持つと、ダニエルに見せながら言った。
「これと……こっちだったら、ダニエル様はどちらがお好きですか?」
「え?えーと……そうですね」
ダニエルは首を傾げて二つを見比べていたが、やがて
「どちらも素敵なので決めがたいですね。
それにジュリア様だったら、どちらもよくお似合いになると思いますよ」
と微笑んだ。
その言葉に、ジュリアは顔を輝かせた。
「わあ!ありがとうございます!
でも、そうしたら、どっちにしようかしら……」
と、レースを持ち上げたまま、鏡を覗き込んだ。
鏡越しに見ると、ダニエルは明らかに欠伸を噛み殺しながら、ぼんやりと窓の外を眺めていた。
しかし、そのつまらなそうにしている顔を見ても、ジュリアは幻滅するどころか、ますます嬉しくなるのだった。
彼にとってはつまらないことでも、婚約者であるジュリアの為なら、喜んで付き合ってくれることが嬉しかったのである。
ジュリアはそう考えて、一人でニヤニヤ笑いながら、幸せいっぱいにレース選びを続けるのだった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】私を捨てた皆様、どうぞその選択を後悔なさってください 〜婚約破棄された令嬢の、遅すぎる謝罪はお断りです〜
くろねこ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エリシアは、ある日突然、身に覚えのない罪で断罪され婚約破棄を言い渡される。
味方だと思っていた家族も友人も、誰一人として彼女を庇わなかった。
――けれど、彼らは知らなかった。
彼女こそが国を支えていた“本当の功労者”だったことを。
すべてを失ったはずの令嬢が選んだのは、
復讐ではなく「関わらない」という選択。
だがその選択こそが、彼らにとって最も残酷な“ざまぁ”の始まりだった。
【完結】婚約者?勘違いも程々にして下さいませ
リリス
恋愛
公爵令嬢ヤスミーンには侯爵家三男のエグモントと言う婚約者がいた。
先日不慮の事故によりヤスミーンの両親が他界し女公爵として相続を前にエグモントと結婚式を三ヶ月後に控え前倒しで共に住む事となる。
エグモントが公爵家へ引越しした当日何故か彼の隣で、彼の腕に絡みつく様に引っ付いている女が一匹?
「僕の幼馴染で従妹なんだ。身体も弱くて余り外にも出られないんだ。今度僕が公爵になるって言えばね、是が非とも住んでいる所を見てみたいって言うから連れてきたんだよ。いいよねヤスミーンは僕の妻で公爵夫人なのだもん。公爵夫人ともなれば心は海の様に広い人でなければいけないよ」
はて、そこでヤスミーンは思案する。
何時から私が公爵夫人でエグモンドが公爵なのだろうかと。
また病気がちと言う従妹はヤスミーンの許可も取らず堂々と公爵邸で好き勝手に暮らし始める。
最初の間ヤスミーンは静かにその様子を見守っていた。
するとある変化が……。
ゆるふわ設定ざまああり?です。
婚約者から妾になれと言われた私は、婚約を破棄することにしました
天宮有
恋愛
公爵令嬢の私エミリーは、婚約者のアシェル王子に「妾になれ」と言われてしまう。
アシェルは子爵令嬢のキアラを好きになったようで、妾になる原因を私のせいにしたいようだ。
もうアシェルと関わりたくない私は、妾にならず婚約破棄しようと決意していた。
殿下、貴方が婚約破棄を望まれたのです~指弾令嬢は闇スキル【魔弾】で困難を弾く~
秋津冴
恋愛
フランメル辺境伯令嬢アニス。
闇属性のスキルを操り、岩をも砕く「指弾」の名手。
そんな勇ましい彼女は三年前、王太子妃補となった。
サフラン殿下は年下ながらも「愛おしい女性」とアニスのことを慕い、愛を注いでくれる。
そんな彼は寒がりだから、手編みセーターの一つでも贈って差し上げよう。
そう思い買い物を済ませた彼女が、宿泊するホテルのスイートルームに戻ってきたとき。
中からは、仲睦まじい男女の声が聞こえてくる。
扉の向こうにはサフランと見知らぬ令嬢が愛し合う姿があり……。
アニスは紙袋から編み棒を取り出すと、二人の座る長椅子に深々と突き立てた。
他の投稿サイトにも掲載しています。
タイトル少し変えました!
7/16 HOT17位、ありがとうございます!
私を捨てて後悔したようですけど、もうあなたと関わりません
天宮有
恋愛
「クノレラの方が好きだから、俺との婚約を破棄して欲しい」
伯爵令嬢の私キャシーは、婚約者ラウド王子の発言が信じられなかった。
一目惚れしたと言われて私は強引に婚約が決まり、その後ラウド王子は男爵令嬢クノレラを好きになったようだ。
ラウド王子が嫌になったから、私に関わらないと約束させる。
その後ラウド王子は、私を捨てたことを後悔していた。
お飾りの側妃となりまして
秋津冴
恋愛
舞台は帝国と公国、王国が三竦みをしている西の大陸のど真ん中。
歴史はあるが軍事力がないアート王国。
軍事力はあるが、歴史がない新興のフィラー帝国。
歴史も軍事力も国力もあり、大陸制覇を目論むボッソ公国。
そんな情勢もあって、帝国と王国は手を組むことにした。
テレンスは帝国の第二皇女。
アート王ヴィルスの第二王妃となるために輿入れしてきたものの、互いに愛を感じ始めた矢先。
王は病で死んでしまう。
新しく王弟が新国王となるが、テレンスは家臣に下賜されてしまう。
その相手は、元夫の義理の息子。
現王太子ラベルだった。
しかし、ラベルには心に思う相手がいて‥‥‥。
他の投稿サイトにも、掲載しております。
恋した殿下、愛のない婚約は今日で終わりです
百門一新
恋愛
旧題:恋した殿下、あなたに捨てられることにします〜魔力を失ったのに、なかなか婚約解消にいきません〜
魔力量、国内第二位で王子様の婚約者になった私。けれど、恋をしたその人は、魔法を使う才能もなく幼い頃に大怪我をした私を認めておらず、――そして結婚できる年齢になった私を、運命はあざ笑うかのように、彼に相応しい可愛い伯爵令嬢を寄こした。想うことにも疲れ果てた私は、彼への想いを捨て、彼のいない国に嫁ぐべく。だから、この魔力を捨てます――。
※「小説家になろう」、「カクヨム」でも掲載
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる