フィアンセは、婚約破棄されようと必死です

ゆきな

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9:ジュリアの夢のような時間

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「こちらのレースはいかがですか?
最近の流行りのもので、特に若い女性に人気がございます」
「わあ、とても素敵!」

ジュリアは差し出されたレースの美しさに、思わず目を細めた。
テーブルの上は端から端まで、様々な種類のレースがびっしりと埋め尽くしている。

そのどれもが繊細で、思わず手に取りたくなるような上質なものばかり。
どれかを選ばねばならないというのに、とてもではないが選ぶことが出来ず、嬉しい悲鳴を上げているところだった。

ここは洋裁店の一室である。
両親とダニエルを引きつれてやってきたジュリアは、ウエディングドレスの仕立てを頼むために、布地やらレースやらリボンやらを見ていたのだが、どうにも話が進まなかった。

「あれも良いけど、これも素敵なのよね……。
それに、こっちも絶対使いたいわ」
「ジュリアったら。
ウエディングドレスは1着なのよ。
そんなに欲張っても使い切れないわ」

母親のチェスター伯爵夫人に笑われて、ジュリアは唇を尖らせた。

「だってどれも良く見えてしまって……。
思わず目移りしてしまうんだもの」

ジュリアの言葉に、レースをテーブルに並べていたお針子や、椅子に腰かけて待つ父のチェスター伯爵、それからダニエルが笑い声を上げた。
ジュリアは恥ずかしそうに、ほんのりと頬を赤く染めながらも、続けて言った。

「だって、初めてお母様が、全て私の好みでドレスを仕立てて良いって、言ってくださったんですもの!
だったら、あれこれ迷ってしまうのも仕方がないでしょう?」
「ええ、そうね。
好きなだけ悩みなさいな。
せっかくのウエディングドレスですもの、費用のことは気にしないでいいわ」
「本当!?
ありがとう、お母様!」

ジュリアは飛び跳ねて喜んだ。
そして再び両手にひとつずつレースを持つと、ダニエルに見せながら言った。

「これと……こっちだったら、ダニエル様はどちらがお好きですか?」
「え?えーと……そうですね」

ダニエルは首を傾げて二つを見比べていたが、やがて

「どちらも素敵なので決めがたいですね。
それにジュリア様だったら、どちらもよくお似合いになると思いますよ」

と微笑んだ。
その言葉に、ジュリアは顔を輝かせた。

「わあ!ありがとうございます!
でも、そうしたら、どっちにしようかしら……」

と、レースを持ち上げたまま、鏡を覗き込んだ。

鏡越しに見ると、ダニエルは明らかに欠伸を噛み殺しながら、ぼんやりと窓の外を眺めていた。
しかし、そのつまらなそうにしている顔を見ても、ジュリアは幻滅するどころか、ますます嬉しくなるのだった。

彼にとってはつまらないことでも、婚約者であるジュリアの為なら、喜んで付き合ってくれることが嬉しかったのである。

ジュリアはそう考えて、一人でニヤニヤ笑いながら、幸せいっぱいにレース選びを続けるのだった。
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