フィアンセは、婚約破棄されようと必死です

ゆきな

文字の大きさ
39 / 52

39:ジュリアのウェディングドレス②

「あ、そ、そうですよね!
本当にすみません……。
でもほとんど見てないから安心して下さい!」

ダニエルは取り繕うように言ったものの、最後にボソリと呟いた。

「でも……とても綺麗です」

これを聞いたジュリアは、赤面してしまった。

「やっぱり見たんじゃないですか!」
「す、すみません……。
ほんの少しですから、許して下さい」
「……もうっ」

ジュリアは火照る頬を押さえながら、うつむいた。
そっと振り向くと、律儀にジュリアの言うことを守って、こちらに背を向けたままのダニエルがガシガシと頭をかきながら、呟いている。

「あー、タイミングが悪いところで来てしまいましたね。
あ、でもウェディングドレス姿を見られたのはラッキーだったかな……。
あっと、こんな事を言ったら、また怒られてしまいますね……すみません」

ダニエルが一人でぶつぶつ呟くのを聞いて、ジュリアは思わず笑ってしまった。
それにつられるようにして、ダニエルも小さく笑った。

ひとしきり笑い合った後、ジュリアは息をついて訊ねた。

「それで……どうしてここにいらっしゃったのですか?」
「それがですね、ジュリア様に会いたくてお宅に伺ったら、ここに来ていると言われて……急いで追いかけてきたんです。
本当は隣の部屋で待つように、と案内されたんですけど、あなたの声が聞こえたもので、つい……」

ダニエルが会いに来てくれたことは、ジュリアにとってはもちろん嬉しい事だった。
しかしそれを手放しに喜ぶわけにはいかなかった。
なにしろ、不安になるには十分すぎるほどの間、彼は連絡を寄越そうとはしなかったのだから。

ジュリアはどうしても、その理由を聞かずにはいられなかったのである。

「……どうしてずっと会いに来てくれなかったんですか?」

ジュリアがほとんど囁くようにして言うと、背後でダニエルの動きがピタリと止まったのが分かった。
何か、やましい事でもあるのだろうか。
彼の一挙一動が気になって、懸命に神経を研ぎ澄ましながら、続けた。

「あまりに長い間、お顔を見ることもできなくて、とても寂しかったです。
それに、たまりかねて手紙を送っても、返事もくださらなかったでしょう?」

ダニエルは答えない。
ジュリアは不安のあまり、徐々に指先が冷たくなっていくのを感じていた。

「もしかして……私のこと、嫌いになったんですか?
他に好きな方でも……」
「ま、まさか!」

今度は言葉が終わる前に、ダニエルが叫んだ。
正直、否定してくれただけでもジュリアはホッとしてしまった。
しかしここで追及の手を緩めるわけにはいかない。

「だったら、どうして……?」

すると、その時、いきなり肩を掴まれたものだから、ジュリアは思わずよろけてしまった。
その隙にダニエルが彼女を抱き寄せる。
気がつけばジュリアは彼の腕の中で、身動きすら出来ないほど力強く抱きしめられていた。

「不安にさせて、すみません……。
でも誓って言います。
あなたの他に好きな人など、決していません」
「あ、あの……結婚式前に花婿にドレス姿を見られては……」

あまりに動揺していたせいで、ジュリアはこの期に及んでそんなことを呟いていた。
しかしダニエルは少しも腕の力をゆるめようとはせず、彼女の耳元で囁いた。

「こんなに密着していれば、あなたのドレスなど見えませんよ」
「そ、それは……そうですけど」

ジュリアは頬どころか、もう耳まで真っ赤になっていた。

「ずっと連絡出来なかったのは……えっと……結婚式の準備に追われていたせいです。
でもそのせいで、不安にさせては意味がないですよね。
これからは、もっともっと大切にすると約束します」

どんなに忙しくても、たった一言だけでも手紙の返事は書けたのではないか。
ジュリアの中に疑いの気持ちが無いわけではなかった。

しかし今、こうして彼の体温にすっぽりと包まれてしまえば、不安などどこかへ行ってしまって。
すっかり幸せな気持ちになっていたせいで、小さな疑いの気持ちは、あっさりと溶けてしまったのだった。

「本当に、大切にしてください!
そうじゃないと私、またすぐ不安になってしまいますわ」
「分かりました。
大丈夫ですよ。私はこんなにも、あなたに夢中なのですから……」

ダニエルが我慢できないというように、ジュリアの背に回していた手に力をこめる。
それから、ふっと力をゆるめると、彼女のアゴに指をかけた。

されるがままに顔を上げたジュリアは、思った以上に彼の顔が近くて、恥ずかしさに目を見開いた。

思わず身をよじったが、ダニエルが離そうとはしなかった。
彼は何も言わぬまま目を閉じると、唇を寄せてくる。

ジュリアは呆然としながらも、慌てて自分も目を閉じたのだったが。

「遅くなって、申し訳ございません!
ジュリア様、入ってもよろしいですか?」

突然ノックの音と共に、元気な声が飛び込んできたものだから、慌てて2人は体を離した。

「は、はい!どうぞ!」

急いでジュリアは答えながら、ここでようやく思い出した。
自分が、着替えの手伝いに店員が来るのを待っていたところだった、というのを。

入ってきた店員はチラリとダニエルに目をやったものの、何も言おうとはしなかった。
しかしなんだか気まずくて。
部屋に入るなりテキパキ動く店員の横で、ジュリアとダニエルはこっそり目を見交わして、苦笑いしたのだった。
感想 6

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています

かきんとう
恋愛
 王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。  磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。  その中心に、私は立っていた。  ――今日、この瞬間のために。 「エレノア・フォン・リーベルト嬢」  高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※短編です。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4800文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

「通訳など辞書で足りる」と追放された令嬢——三国会談で、婚約者は一言も話せなくなった

歩人
ファンタジー
宮廷通訳官エレノーラは五つの言語を操り、婚約者クラウスの外交を陰で支えてきた。 だがクラウスは言った。「通訳など辞書で足りる。お前は要らない」 追放されたエレノーラは隣国で新たな道を歩み始める。 一方、クラウスは三国会談の場で辞書片手に立ち往生。 誤訳が外交問題に発展し、窮地に陥ったその場に、隣国の通訳官として現れたのは——。 「その言葉は、もう翻訳できません」

夫の告白に衝撃「家を出て行け!」幼馴染と再婚するから子供も置いて出ていけと言われた。

佐藤 美奈
恋愛
伯爵家の長男レオナルド・フォックスと公爵令嬢の長女イリス・ミシュランは結婚した。 三人の子供に恵まれて平穏な生活を送っていた。 だがその日、夫のレオナルドの言葉で幸せな家庭は崩れてしまった。 レオナルドは幼馴染のエレナと再婚すると言い妻のイリスに家を出て行くように言う。 イリスは驚くべき告白に動揺したような表情になる。 「子供の親権も放棄しろ!」と言われてイリスは戸惑うことばかりで、どうすればいいのか分からなくて混乱した。

「退屈な女だ」と婚約破棄されたので去りましたが、翌日から国政が止まったそうです。え、私はもう存じませんけど?

にたまご
恋愛
公爵令嬢クラーラは、ユリウス王太子殿下に婚約を破棄された。 「退屈な女だ」「何の取り柄もない」と。 否定はしない。 けれど殿下が知らないだけで、通商条約も予算案も外交書簡も、この国の政務の大半を六年間匿名で回していたのは──この「退屈な女」だ。 婚約破棄の翌朝、宰相補佐官のレオンが焼き菓子と四十二件の緊急報告を携えて公爵邸を訪れる。 「貴女がいなくなった王宮は、控えめに申し上げて、地獄です」 ──存じません。私はもう、ただの無職ですので。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

もう私、好きなようにさせていただきますね? 〜とりあえず、元婚約者はコテンパン〜

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「婚約破棄ですね、はいどうぞ」 婚約者から、婚約破棄を言い渡されたので、そういう対応を致しました。 もう面倒だし、食い下がる事も辞めたのですが、まぁ家族が許してくれたから全ては大団円ですね。 ……え? いまさら何ですか? 殿下。 そんな虫のいいお話に、まさか私が「はい分かりました」と頷くとは思っていませんよね? もう私の、使い潰されるだけの生活からは解放されたのです。 だって私はもう貴方の婚約者ではありませんから。 これはそうやって、自らが得た自由の為に戦う令嬢の物語。 ※本作はそれぞれ違うタイプのざまぁをお届けする、『野菜の夏休みざまぁ』作品、4作の内の1作です。    他作品は検索画面で『野菜の夏休みざまぁ』と打つとヒット致します。

【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね

江崎美彩
恋愛
 王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。  幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。 「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」  ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう…… 〜登場人物〜 ミンディ・ハーミング 元気が取り柄の伯爵令嬢。 幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。 ブライアン・ケイリー ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。 天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。 ベリンダ・ケイリー ブライアンの年子の妹。 ミンディとブライアンの良き理解者。 王太子殿下 婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。 『小説家になろう』にも投稿しています