8 / 73
8
しおりを挟む
「アリス……ですか」
あからさまにマーティの声が硬くなり、そのまま途切れてしまった。
余計な事を言ったと後悔しても、もう遅い。
ネリーは慌てて
「あ、いえ……深い意味はないんです。
ただ、私みたいな者が婚約者で申し訳ないと思っているだけで」
と言い繕ったが、マーティの眉は困ったように下がったまま動かない。
これは、ど、どうしよう……!!
焦ったネリーは必死に、次の言葉をつなげようと口をパクパクするが、何も気の利いた言葉が思いつかないでいた。
しかし、気まずい空気が流れたのも、ほんの数秒の事だった。
「何をおっしゃるのです!
アリスは確かに華やか……と言えば聞こえは良いですが、ただうるさいだけ、とも言えますからね。
いやあ、ネリー様は謙虚な方ですね!」
マーティは大袈裟なくらい両手を振って、場を和ませようと努力してくれているようだった。
ネリーはいたたまれず
「あ、いえ……そんな……」
と言うのが精一杯。
彼女が口を閉ざすと、マーティもなす術もなく黙り込んでしまった。
そのせいで、せっかくのマーティの努力も虚しく、重い空気が漂い始めたのだったが、ちょうどそこへ
「食事の支度が整いましたので、ご移動下さい」
と使用人の声がして、一同がぞろぞろと動き始めたのである。
「行きましょうか」
多少弱々しいながらも、マーティの顔には再び笑顔が戻り、ネリーの手を取ってくれたことで、ネリーはほっと息を吐き出した。
全く、私はどうしていつも、余計なことを言ってしまうのかしら……!
後悔の念に苛まれていたネリーだったが、食事を始めると、徐々に笑顔を取り戻していった。
エドウィン男爵と男爵夫人は、ネリーをことあるごとに褒めちぎり、おだててくれたし、マーティもそつなく会話を盛り上げてくれたからだ。
先程まで漂っていた重苦しい空気はどこへやら。
食事が終わる頃には、これだったらマーティとは上手くやっていけるかもしれないと、ほのかな希望が見えたような気がし始めていた。
だから
「楽しくて、つい長居してしまいましたな。
そろそろお暇させて頂きましょう」
と、ワインのせいですっかり顔を赤くしたエドウィン男爵が言った時には、ネリーは今日という日を乗り切った満足感で、いっぱいになったほどだった。
それなのにネリーの笑顔は、耳元で囁いてきた使用人の一言で、凍りつくこととなったのである。
「お嬢様。アリス・マイヤーズ様とシェイマス・パウエル様が、いらっしゃいました」
あからさまにマーティの声が硬くなり、そのまま途切れてしまった。
余計な事を言ったと後悔しても、もう遅い。
ネリーは慌てて
「あ、いえ……深い意味はないんです。
ただ、私みたいな者が婚約者で申し訳ないと思っているだけで」
と言い繕ったが、マーティの眉は困ったように下がったまま動かない。
これは、ど、どうしよう……!!
焦ったネリーは必死に、次の言葉をつなげようと口をパクパクするが、何も気の利いた言葉が思いつかないでいた。
しかし、気まずい空気が流れたのも、ほんの数秒の事だった。
「何をおっしゃるのです!
アリスは確かに華やか……と言えば聞こえは良いですが、ただうるさいだけ、とも言えますからね。
いやあ、ネリー様は謙虚な方ですね!」
マーティは大袈裟なくらい両手を振って、場を和ませようと努力してくれているようだった。
ネリーはいたたまれず
「あ、いえ……そんな……」
と言うのが精一杯。
彼女が口を閉ざすと、マーティもなす術もなく黙り込んでしまった。
そのせいで、せっかくのマーティの努力も虚しく、重い空気が漂い始めたのだったが、ちょうどそこへ
「食事の支度が整いましたので、ご移動下さい」
と使用人の声がして、一同がぞろぞろと動き始めたのである。
「行きましょうか」
多少弱々しいながらも、マーティの顔には再び笑顔が戻り、ネリーの手を取ってくれたことで、ネリーはほっと息を吐き出した。
全く、私はどうしていつも、余計なことを言ってしまうのかしら……!
後悔の念に苛まれていたネリーだったが、食事を始めると、徐々に笑顔を取り戻していった。
エドウィン男爵と男爵夫人は、ネリーをことあるごとに褒めちぎり、おだててくれたし、マーティもそつなく会話を盛り上げてくれたからだ。
先程まで漂っていた重苦しい空気はどこへやら。
食事が終わる頃には、これだったらマーティとは上手くやっていけるかもしれないと、ほのかな希望が見えたような気がし始めていた。
だから
「楽しくて、つい長居してしまいましたな。
そろそろお暇させて頂きましょう」
と、ワインのせいですっかり顔を赤くしたエドウィン男爵が言った時には、ネリーは今日という日を乗り切った満足感で、いっぱいになったほどだった。
それなのにネリーの笑顔は、耳元で囁いてきた使用人の一言で、凍りつくこととなったのである。
「お嬢様。アリス・マイヤーズ様とシェイマス・パウエル様が、いらっしゃいました」
15
あなたにおすすめの小説
姉妹のお相手はわたくしが見つけますわ ー いき遅れ3姉妹の場合
葉月ゆな
恋愛
「フェリシアが結婚して、フェリシアの子供が侯爵家を継げばいい」
女侯爵である姉が言い出した。
3姉妹が10代のころに両親がなくなり侯爵家の建て直しで、この国では行き遅れと呼ばれる部類に入っているシャルロッテ(長女)、フェリシア(次女)、ジャクリーン(三女)の美人三姉妹。
今日まで3人で頑張って侯爵家を建て直し、落ち着いたからそろそろ後継者をと、フェリシアが姉に結婚を薦めれば、そんな言葉が返ってきた。
姉は女侯爵で貿易で財を成している侯爵家の海軍を取り仕切る男装の麗人。
妹は商会を切り盛りする才女。
次女本人は、家内の采配しかできない凡人だと思っている。
しかしフェリシアは姉妹をけなされると、心の中で相手に対して毒舌を吐きながら撃退する手腕は、社交界では有名な存在だ(本人知らず)。
なのに自慢の姉妹は結婚に興味がないので、フェリシアは姉妹の相手を本気で探そうと、社交に力を入れ出す。
フェリシアは心の中で何か思っているときは「私」、人と喋るときは「わたくし」になるのでご注意を。
薬師の能力を買われた嫁ぎ先は闇の仕事を請け負う一族でした
あねもね
恋愛
薬師として働くエリーゼ・バリエンホルムは貴族の娘。
しかし両親が亡くなって以降、叔父に家を追い出されていた。エリーゼは自分の生活と弟の学費を稼ぐために頑張っていたが、店の立ち退きを迫られる事態となる。同時期に、好意を寄せていたシメオン・ラウル・アランブール伯爵からプロポーズを申し込まれていたものの、その申し出を受けず、娼館に足を踏み入れることにした。
エリーゼが娼館にいることを知ったシメオンは、エリーゼを大金で身請けして屋敷に連れ帰る。けれどそこは闇の仕事を請け負う一族で、シメオンはエリーゼに毒薬作りを命じた。
薬師としての矜持を踏みにじられ、一度は泣き崩れたエリーゼだったが……。
――私は私の信念で戦う。決して誰にも屈しない。
あなたのおかげで吹っ切れました〜私のお金目当てならお望み通りに。ただし利子付きです
じじ
恋愛
「あんな女、金だけのためさ」
アリアナ=ゾーイはその日、初めて婚約者のハンゼ公爵の本音を知った。
金銭だけが目的の結婚。それを知った私が泣いて暮らすとでも?おあいにくさま。あなたに恋した少女は、あなたの本音を聞いた瞬間消え去ったわ。
私が金づるにしか見えないのなら、お望み通りあなたのためにお金を用意しますわ…ただし、利子付きで。
【完結】恋を忘れた伯爵は、恋を知らない灰かぶり令嬢を拾う
白雨 音
恋愛
男爵令嬢ロザリーンは、母を失って以降、愛を感じた事が無い。
父は人が変わったかの様に冷たくなり、何の前置きも無く再婚してしまった上に、
再婚相手とその娘たちは底意地が悪く、ロザリーンを召使として扱った。
義姉には縁談の打診が来たが、自分はデビュタントさえして貰えない…
疎外感や孤独に苛まれ、何の希望も見出せずにいた。
義姉の婚約パーティの日、ロザリーンは侍女として同行したが、家族の不興を買い、帰路にて置き去りにされてしまう。
パーティで知り合った少年ミゲルの父に助けられ、男爵家に送ると言われるが、
家族を恐れるロザリーンは、自分を彼の館で雇って欲しいと願い出た___
異世界恋愛:短めの長編(全24話) ※魔法要素無し。
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆
婚約破棄された伯爵令嬢ですが、辺境で有能すぎて若き領主に求婚されました
おりあ
恋愛
アーデルベルト伯爵家の令嬢セリナは、王太子レオニスの婚約者として静かに、慎ましく、その務めを果たそうとしていた。
だが、感情を上手に伝えられない性格は誤解を生み、社交界で人気の令嬢リーナに心を奪われた王太子は、ある日一方的に婚約を破棄する。
失意のなかでも感情をあらわにすることなく、セリナは婚約を受け入れ、王都を離れ故郷へ戻る。そこで彼女は、自身の分析力や実務能力を買われ、辺境の行政視察に加わる機会を得る。
赴任先の北方の地で、若き領主アレイスターと出会ったセリナ。言葉で丁寧に思いを伝え、誠実に接する彼に少しずつ心を開いていく。
そして静かに、しかし確かに才能を発揮するセリナの姿は、やがて辺境を支える柱となっていく。
一方、王太子レオニスとリーナの婚約生活には次第に綻びが生じ、セリナの名は再び王都でも囁かれるようになる。
静かで無表情だと思われた令嬢は、実は誰よりも他者に寄り添う力を持っていた。
これは、「声なき優しさ」が、真に理解され、尊ばれていく物語。
裏切り者として死んで転生したら、私を憎んでいるはずの王太子殿下がなぜか優しくしてくるので、勘違いしないよう気を付けます
みゅー
恋愛
ジェイドは幼いころ会った王太子殿下であるカーレルのことを忘れたことはなかった。だが魔法学校で再会したカーレルはジェイドのことを覚えていなかった。
それでもジェイドはカーレルを想っていた。
学校の卒業式の日、貴族令嬢と親しくしているカーレルを見て元々身分差もあり儚い恋だと潔く身を引いたジェイド。
赴任先でモンスターの襲撃に会い、療養で故郷にもどった先で驚きの事実を知る。自分はこの宇宙を作るための機械『ジェイド』のシステムの一つだった。
それからは『ジェイド』に従い動くことになるが、それは国を裏切ることにもなりジェイドは最終的に殺されてしまう。
ところがその後ジェイドの記憶を持ったまま翡翠として他の世界に転生し元の世界に召喚され……
ジェイドは王太子殿下のカーレルを愛していた。
だが、自分が裏切り者と思われてもやらなければならないことができ、それを果たした。
そして、死んで翡翠として他の世界で生まれ変わったが、ものと世界に呼び戻される。
そして、戻った世界ではカーレルは聖女と呼ばれる令嬢と恋人になっていた。
だが、裏切り者のジェイドの生まれ変わりと知っていて、恋人がいるはずのカーレルはなぜか翡翠に優しくしてきて……
噂の悪女が妻になりました
はくまいキャベツ
恋愛
ミラ・イヴァンチスカ。
国王の右腕と言われている宰相を父に持つ彼女は見目麗しく気品溢れる容姿とは裏腹に、父の権力を良い事に贅沢を好み、自分と同等かそれ以上の人間としか付き合わないプライドの塊の様な女だという。
その名前は国中に知れ渡っており、田舎の貧乏貴族ローガン・ウィリアムズの耳にも届いていた。そんな彼に一通の手紙が届く。その手紙にはあの噂の悪女、ミラ・イヴァンチスカとの婚姻を勧める内容が書かれていた。
果たされなかった約束
家紋武範
恋愛
子爵家の次男と伯爵の妾の娘の恋。貴族の血筋と言えども不遇な二人は将来を誓い合う。
しかし、ヒロインの妹は伯爵の正妻の子であり、伯爵のご令嗣さま。その妹は優しき主人公に密かに心奪われており、結婚したいと思っていた。
このままでは結婚させられてしまうと主人公はヒロインに他領に逃げようと言うのだが、ヒロインは妹を裏切れないから妹と結婚して欲しいと身を引く。
怒った主人公は、この姉妹に復讐を誓うのであった。
※サディスティックな内容が含まれます。苦手なかたはご注意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる