[完結]キツネの嫁入り

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選定の儀の日は、晴れやかな青空で爽やかな風が吹いていた

競技の会場となる広場は華やかに飾り立てられ、花や幕が張られ、鮮やかな朱色の皇帝の旗が所狭しと並べられ音楽隊が二胡を奏でる

妃嬪やその子供たちが席に着き、皇帝は皇后の席が開いた真ん中の幕で鎮座している

五家から四家になった選定の儀の一行は皆顔色は暗く、三宜も弓を準備しながら気持ちは暗かった

皆一様に下賜された装飾品を身につけ、三宜は珊瑚を賜っていたので、蕭家で合わせて朱色の着物を誂えられ縁起でもないと思いながらも身につけるしかなかった

嬰林が思い出される

他の着物は日出曰く、汚染されており匂いを抜くまで着られないとの事だった

日出はあれから三宜への抑制剤を欠かした事なく、全く匂いを感じる事はないが、三宜はこっそりあの運命の番の匂いだといいなと思っていた

朱色の着物に白い刺繍の入った胸当てを装着し、弓の弦を張る

いくら得意でない弓矢でも興醒めするレベルではいけない

あれから松末と共に練習も頑張ったので、なんとか見れるようにはなった

胡桃は薙刀、葵は剣技なので先に披露するようだ

真正面に皇帝の幕があり、その横にいた清順と目が合う

ひらひらと手を振る清順に軽く礼をしながら、松末の横に座ると、松末は浮かない顔で薙刀を披露する胡桃を見つめていた

「松末、なんかあるの?胡桃は薙刀できるんだね」

勤めて明るい声で声をかけると、よく見ると松末は胡桃ではなく、縄で出来た人形を凝視していた

恐らくあの人形を斬るのだろう。大きなその人形は斬るだけで力がいりそうだ

本当にあの大きな人形が細腕の胡桃に斬れるのだろうか

「大きいな、弓矢の的もあれくらいなら良いのになあ?なあ、松末…」

三宜が声をかけても松末は何も答えず、ただ指先をカタカタと震わせていた

訝しむ三宜に松末は首を振る

「的はあれくらいの大きさだろう…」

力無く呟く松末に、肩をすくめて胡桃を見る

薄桃色の流動線のある薄衣に、白い紙紐で長い髪を束ねて、活発そうな頬を赤く染め薙刀を構える姿は様になっていた

銅鑼が鳴り、胡桃が人形を斬りつけた瞬間、断末魔のような凄まじい悲鳴と血飛沫が上がった

「………え?」

唖然とする胡桃に、三宜は両手を口で押さえて立ち上がる

人形は縄と藁で出来ていたが、そこからは嬰林の白い顔が確かに覗いていた

へたり込む胡桃に、半紙のように真っ白な顔をした松末、同じく椅子に座り腰を抜かしてしまった三宜を除き、妃嬪や見物している侍女たちからはさざめくような笑い声が聴こえるのが信じられなかった


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