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プロローグ

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 白鳥はくちょうを見た事があるだろうか。

「優雅に泳ぐ白鳥も水面下では激しく足を動かしている」

 そんなフレーズが有名なあの鳥だ。

 実際はそれ程激しく足を動かしてはいないという話だが、まぁ、それはそれだ。

 つまりは何が言いたいかというと、
 俺はまさしくあのフレーズを体現している。

 表面上は常に優雅に美しく、だけどその水面下では激しく足を動かして見苦しく足掻きまくっている。
 もはやもつれんばかりにフルスロットルだ。

 常に全力・全開。

 まさに白鳥はくちょうの如く。
 否、黒いから黒鳥こくちょうか。

 一瞬でも足を止めれば、こちとら沈むんだよ!こん畜生め!!


 そして、そんな黒鳥こくちょうの如き俺は現在崩れ落ちている。
 もはや優美な体面を保っている余裕すらなかった。

 余談だが、俺の人生において膝から崩れ落ちた事が二度ある。

 一度目は、
 何を隠そう、前世の記憶を想い出した時だ。


「嘘…だ…」

 そんな呆然とした呟きと共に震える手で口元を押さえながら庭の芝生の上に崩れ落ちた4歳の夏。

 暑い日だったが、流れ落ちたそれは間違いなく冷や汗だった。
 叫び出さなかった俺を誰か褒めて欲しい。

 すぐに使用人に助け起こされ、医師が呼ばれた。
 両親や使用人に見守られ、薬により眠りについた俺に突き付けられた現実は残酷だった。

 いっそ夢であって欲しかった。
 今からでもいい、誰か嘘だと言って欲しい。

 目覚めて尚、しっかりと意識にあった前世の記憶。

 しきりに心配する両親達を部屋から出し、一人になったベッドの上で俺は頭を抱えた。

 そして叫んだ。

「そんな莫迦バカなっ!!」

 全力で。
 但し、声には出さずに心の中で。

 二度目になるが、大声で叫び出さなかった俺を誰か褒めて欲しい。

「乙女ゲームの世界じゃねーか!!此処!!!」

 心の中であらん限りの大絶叫。


 カイザー・フォン・ルクセンブルク。

 乙女ゲーム『亡国のレガリアと王国の秘宝』の世界に転生した俺の名前。


 平穏とさよならした4歳の夏の日。
 そして、
 優雅な外面と怒涛の突っ込みの内面を使い分ける日々の始まり。

 記念したくもない 記念すべき俺の黒鳥こくちょう生活の始まりだった。


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