集めましょ、個性の欠片たち

崎田毅駿

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罪な罰 その4

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「こんな宙ぶらりんな感情のまま、直接訪ねるのは正直気乗りしないっつーか、気が重い」
「だからといって僕が代理で行くのもな……。君が行くのならお伴で着いていくぐらいはできるけれどさ」
「それならせめて、取っかかりを見付けてくれないか」
「取っかかり?」
 僕はあんまりおうむ返しをしないよう、普段から心掛けているのだけれど、このときは意味が汲み取れず、ついそのまま返した。
「俺の何が悪かったのか、ある程度は当たりを付けておきたい。いきなり思いも寄らねえこと言われてショックを受けるのは嫌だし、恐らく恥ずかしい。『そんなことにも気付かなかったのか、俺!』ってなる予感がする」
 想像力たくましいな。そこまで想像するくらいなら、無意識下で原因に気が付いているのではないかとすら思う。
「分かったよ。微力ながら、手伝うよ。とりあえずだけど、昨日までに、狭山さんとトラブった経験はないよね?」
「ない。少なくとも憶えがない」
「悪口を言ったり、迷惑を掛けたりした憶えもないと」
 僕の重ねての確認に対し、高杉は「しつこい」と言わんばかりに、左手をひらひらさせた。それからようやく思い出したみたいに、給食を口に運ぶ。
 僕は残っていた飲み物を干すと、ごちそうさまのポーズをした。
「ということは、狭山さんが叩いた原因は、今朝のやり取りにある。そう決め付けていいと思う」
「そうなるよな、やっぱ。けど、そんなたいしたことしてないぜ。知っての通り、芸能人の話題を口にしたくらいで」
「特定のタレントを下げるようなことを言っていたけれども、あれは?」
「そりゃ自覚はあるが、今朝のあれが特に変だってことはなかったろ。俳優やアイドルや歌手を話題にして、自分が好きなのはよく言うし、そうでないのは下げる。みんなやってるじゃないか。叩かれるようなことかって! ――だいたい、狭山さんが諏訪馬流転の熱狂的ファンだなんて、到底思えないんだが」
 熱っぽく語る高杉は、声が段々大きくなったのに気が付いて、途中で声のボリュームを絞った。
「まあ、人の好みや趣味は表からでは分からないことは、往々にしてあるものだよ。とは言え、確かに、僕もしっくりこないのは認める」
「だろ? だよな」
 意見の一致をみたためか、高杉の唇の両端が上を向く。嬉しそう。こういう素直な感情の表し方を常にしていれば、こいつはもっと女子に受け入れられると思うんだけどな。まあ、余計なお世話か。
「まず、女子何人かに聞いて回る必要があるかもね。狭山さんが本当に諏訪馬流転のファンでないかどうか」
「いや、いらんだろ。朝の反応から判断すると、女子大勢も意外に感じていたぞ、あれは。狭山さんが俺を叩いたこと自体、不思議がっていた。狭山さんが諏訪馬流転ファンなら、そんな不思議がることはない」
 今朝の高杉は、叩かれて呆然としているだけかと思ったら、案外周りのことに神経が及んでいたんだな。お見それした。
「じゃ、そこは省くとして。他の可能性を一応探っておこうか。もう一人名前の挙がった有名人――石動紅緒のファンという可能性」
「俺、石動紅緒を悪く言ったつもりなんて一ミリもないんだが」
「高杉がそう思っていたとしても、周りの受け止め方は異なるかもしれない」
「いや、しかし、あのとき石動紅緒の名前どころか“い”の字すら、口にしなかったのは、何のためだと」
「ふうん?」 てことは、やはり君は石動紅緒ファンなのかな」
「な、どういう理屈でそうなるんだよ」
「いや、たいしたことない。諏訪馬流転の名前はあれだけ声に出しておきながら、女優の方には一切触れないというのは、石動紅緒を好ましく感じているからこそと考えたまで」
「……当たってないとは言わないが、大ファンてほどでもない、ちょっといいなってぐらいだからな」
 照れ隠しなのかどうなのか、高杉は斜め上を見上げながら言った。
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