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3.女子の立ち位置
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あの言葉を聞いたとき、事故から何日経っていたんだろう。手術が済んだばかりで、もちろんまだ動けなかった。
ううん、無理をすれば多分動けた。足は何ともなかったんだから。ただ、下手に動いたらせっかく手術してきれいにしようとしているとこが、歪んでしわになっちゃう。そんな風に聞かされていた。それこそ、笑うのさえ気を付けるようにって。尤も、笑えるような気分にはまだなっていなかったけれども。
とにかく、私はベッドの上から動こうとせず、ふさぎ込んでいた。だからお母さんとお父さんとが内緒で話しているのが聞こえたのは、単なる偶然のはず。お母さんもお父さんも聞かせたかったわけがない。意地悪でいたずら好きの神様のせい、それに違いない。
そう思っても……一度生じたわだかまりは、消えるどころか小さくなることすらなく、こうして思い出すと際限なく膨らんでしまう。
繰り返し、記憶を掘り起こすことで、悪いイメージが塗り重ねられる。そんな恐れを承知の上で、私はまた思い出してしまう。
私が入院した病院の病室は、ドアが横にごろごろって滑らせて開け閉めするタイプになっていた。開けたあとドアを最後まで押し込んだらその場でカチッと音がして止まる。そうしない限り、ドアに力を込めてがんばって閉めなくても、独りでにゆっくりと閉まるようにできている。
あのときの私の症状は、ドアを開けっぱなしにしていい状態じゃなかったはず。なのに開いていた。紙くずでも挟まって引っ掛かったのか、完全には閉じていなかった。
そのせいで、聞こえて来たんだ、両親の会話が。
最初ははっきりとは聞き取れなくて、でもお母さんとお父さんの声だというのは分かったから、少し元気が出た。
確か、ほんとに嬉しくなる言葉もあった。つい微笑みそうになって、笑っちゃいけないと気を引き締めた思い出が残っているから。
それがどんな言葉だったのかは、忘れてしまった。
そのあとに聞こえた、
「男の子だったらまだましだったのに……」
から受けたショックが大きすぎたんだろうって推測したのは、だいぶ経ってからだった。
あれを聞いたとき、何をどう感じたんだっけ。
自分が「お母さんお父さんの子」として、愛情を注がれていないんじゃないか?という寒々しい想像――現実?――にのしかかられた心地だった。身も心もずしんと重たくなるような。
もし男の子として生まれていたなら、少しは父も母も、見た目ばかりじゃなく、心から心配してくれたのかしらね……。
~ ~ ~
晴菜自身は、今でも両親のあの言葉の真意を測りかねていた。
一方で、「男の子だったら」云々と言われた晴菜の中では、いつしか彼女自身の存在を否定する思考が芽生え、両親、特に父に対するわだかまりと反発も大きくなっていく。彼女が心の奥底で叫んでいたのは、「お母さんお父さんの子として、純粋に大切にされたい」という、シンプルで儚い願いだったのかもしれない。
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