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1.ポールでダンスは踊れない
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秋の夜、公園周りを二人で散策しているときのことだった。
いつもに比べたら、浮かれていたのだと思う。かつて新体操をかじったことがあって、バランス感覚には多少自信があったとは言え、公園の出入り口にある車止めのポールに片足立ちしようだなんて。
隣にいるのは藤塚弘史、学生時代には相手にされなかった二枚目。そんな人と一緒に食事した帰り、私に新体操の経験があることを彼の方から言い出されたら、ちょっと披露して見せたくなっても、そんなにおかしな心理じゃないでしょ。
幸い、靴はほぼノーヒールのやつだった。もちろんスカートじゃないし。天気の方も一日晴れだったから、ポールが濡れているせいで滑るなんてこともないはず。
実際、大丈夫だった。最初の一歩を慎重に、藤塚弘史に片手を取ってもらいながら登ると、いきなり片足で立てた。彼が手を離しても問題なし。そのまま前へ一歩、二歩、三歩と跳ぶ。
出入り口にある車止めは四本。囲いの端へと四歩めを決めた時点で、終わるつもりだった。でも、藤塚弘史がもう一回見せてよとリクエストしてきたら、断れない。私は向きを換えて今来たのと逆へと跳び始めた。
その二歩めのときだ。さっき、難なく立てたのに、二度目は滑った。タイル張りの道に薄く積もった溶けかけの雪を踏んだみたい、と感じたのは滑った瞬間なのか、そのあとしばらくしてからなのかは覚えていない。
何しろ、「あっ」と叫ぶのが先だったから。次に、後頭部から首に掛けてを強い衝撃が襲う。同時に私の意識は途絶えた、と思う。
~ ~ ~
滑って転んだのは後ろ向きだったから、仰向けに倒れたのは間違いない。
だけど、ううう、と呻きながら身体を起こしてみて、自分が俯せの状態になっていたと気付く。
藤塚弘史が咄嗟に腕を差し出して、助けてくれたのかしら? しっかりキャッチするのは難しかったみたいだけど、後頭部を打つよりはましな結果と言える。
それでも身体のあちこちが痛くて、すっくと立ち上がるのは難しそう。ひとまず上体だけ起こし、正座から立とうとするときのような姿勢を取った。恥ずかしさ故、前を向いたまま髪の乱れを整えつつ、「ごめん、失敗しちゃったわ。助けてくれてありがとう」と早口で謝罪とお礼をまとめて述べる。
相手からの返事を待つ。が、その前に変だと思った。
周りがそこそこ明るい。陽が昇っている。早朝っぽい。
しかも、今いるここは屋外ではなく、屋内だ。いくつもある窓を通して、白く眩しい光が射し込み、空間の部分部分を照らしている。建物、大きなお屋敷みたいな建物の中にいる。病院なんかではない。コテージ風のホテル……にしては豪華で規模が大きい。
公園で頭を打ったあと、個人のお屋敷に運び込まれた? まずなさそうなシチュエーションだけれども、そうとでも考えるほかない。ひょっとして、藤塚弘史の自宅か実家だったりして。学生時代に、彼の家はかなり裕福だと聞いたけれども、まさかこれほどまでの?
そこまで想像を膨らませて、私はようやく右に顔を向けた。彼がいるはずの方向へ。
けど、いなかった。
続けてあちこち見回したけれど、前後左右どこを見ても、藤塚弘史どころか誰もいない。
さらにおかしなことに、私の着ている服が昨晩?の物とは違っていた。パジャマだとしたら派手すぎるし、ゴテゴテして寝にくいに決まっている。賑やかなパーティにでも着ていくのが適しているであろう、青のドレスだ。
怪我人に着せる代物じゃあない。藤塚宅には女性物の衣服がこれ以外になかったのだとしても、他にやりようがあるでしょうが。ちょっぴり文句を言いたくなった。が、相変わらず彼の姿はない。
振り返ったときに気が付いたのは、すぐ後ろに階段があるっていうこと。洒落にならないくらいに幅が広く、長い階段。途中、そこそこの高さに踊り場があって、そこから右に折れてまだステップが続いている。手すりの下が格子状になっているから、ある程度は見通せるのだけれども、光が届いていないところが多くて全容は掴めない。唯一、踊り場のこちら向きの壁に、大きな肖像画?が掛けられているのは分かる。私は身体の向きを一八〇度換えて、しっかりと目を凝らした。うん、やっぱり絵だわ。写実的というか本物っぽいというか、写真みたいに見えていたのだ。
「え、外国人? どうして西洋の女の人の絵なんか飾ってるんだろう? それに見覚えがあるようなないような」
いつもに比べたら、浮かれていたのだと思う。かつて新体操をかじったことがあって、バランス感覚には多少自信があったとは言え、公園の出入り口にある車止めのポールに片足立ちしようだなんて。
隣にいるのは藤塚弘史、学生時代には相手にされなかった二枚目。そんな人と一緒に食事した帰り、私に新体操の経験があることを彼の方から言い出されたら、ちょっと披露して見せたくなっても、そんなにおかしな心理じゃないでしょ。
幸い、靴はほぼノーヒールのやつだった。もちろんスカートじゃないし。天気の方も一日晴れだったから、ポールが濡れているせいで滑るなんてこともないはず。
実際、大丈夫だった。最初の一歩を慎重に、藤塚弘史に片手を取ってもらいながら登ると、いきなり片足で立てた。彼が手を離しても問題なし。そのまま前へ一歩、二歩、三歩と跳ぶ。
出入り口にある車止めは四本。囲いの端へと四歩めを決めた時点で、終わるつもりだった。でも、藤塚弘史がもう一回見せてよとリクエストしてきたら、断れない。私は向きを換えて今来たのと逆へと跳び始めた。
その二歩めのときだ。さっき、難なく立てたのに、二度目は滑った。タイル張りの道に薄く積もった溶けかけの雪を踏んだみたい、と感じたのは滑った瞬間なのか、そのあとしばらくしてからなのかは覚えていない。
何しろ、「あっ」と叫ぶのが先だったから。次に、後頭部から首に掛けてを強い衝撃が襲う。同時に私の意識は途絶えた、と思う。
~ ~ ~
滑って転んだのは後ろ向きだったから、仰向けに倒れたのは間違いない。
だけど、ううう、と呻きながら身体を起こしてみて、自分が俯せの状態になっていたと気付く。
藤塚弘史が咄嗟に腕を差し出して、助けてくれたのかしら? しっかりキャッチするのは難しかったみたいだけど、後頭部を打つよりはましな結果と言える。
それでも身体のあちこちが痛くて、すっくと立ち上がるのは難しそう。ひとまず上体だけ起こし、正座から立とうとするときのような姿勢を取った。恥ずかしさ故、前を向いたまま髪の乱れを整えつつ、「ごめん、失敗しちゃったわ。助けてくれてありがとう」と早口で謝罪とお礼をまとめて述べる。
相手からの返事を待つ。が、その前に変だと思った。
周りがそこそこ明るい。陽が昇っている。早朝っぽい。
しかも、今いるここは屋外ではなく、屋内だ。いくつもある窓を通して、白く眩しい光が射し込み、空間の部分部分を照らしている。建物、大きなお屋敷みたいな建物の中にいる。病院なんかではない。コテージ風のホテル……にしては豪華で規模が大きい。
公園で頭を打ったあと、個人のお屋敷に運び込まれた? まずなさそうなシチュエーションだけれども、そうとでも考えるほかない。ひょっとして、藤塚弘史の自宅か実家だったりして。学生時代に、彼の家はかなり裕福だと聞いたけれども、まさかこれほどまでの?
そこまで想像を膨らませて、私はようやく右に顔を向けた。彼がいるはずの方向へ。
けど、いなかった。
続けてあちこち見回したけれど、前後左右どこを見ても、藤塚弘史どころか誰もいない。
さらにおかしなことに、私の着ている服が昨晩?の物とは違っていた。パジャマだとしたら派手すぎるし、ゴテゴテして寝にくいに決まっている。賑やかなパーティにでも着ていくのが適しているであろう、青のドレスだ。
怪我人に着せる代物じゃあない。藤塚宅には女性物の衣服がこれ以外になかったのだとしても、他にやりようがあるでしょうが。ちょっぴり文句を言いたくなった。が、相変わらず彼の姿はない。
振り返ったときに気が付いたのは、すぐ後ろに階段があるっていうこと。洒落にならないくらいに幅が広く、長い階段。途中、そこそこの高さに踊り場があって、そこから右に折れてまだステップが続いている。手すりの下が格子状になっているから、ある程度は見通せるのだけれども、光が届いていないところが多くて全容は掴めない。唯一、踊り場のこちら向きの壁に、大きな肖像画?が掛けられているのは分かる。私は身体の向きを一八〇度換えて、しっかりと目を凝らした。うん、やっぱり絵だわ。写実的というか本物っぽいというか、写真みたいに見えていたのだ。
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