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エピソード2:かたはら 5
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オーディは、注目に値する単語を発した。
(カイン……だと?)
フランクは、一気に総毛立つのを感じた。もっとも、人造人間の彼に、体毛はあまりない。
「やはり、カインと関係があるのか!」
大声で叫びながら、ケリガンの心配をするフランク。何とか逃げてもらいたい。
「男は追わなくていいぞ……。フランク君、久しぶりだな。関係がどうこうよりも、憂慮すべき点があるだろう」
不意に、新たな声が降ってきた。聞き覚えのある、邪悪な意志を隠しきれない声音……。
「この私が、この場にいるということを!」
オーディとフランクのいる場所をちょうど二分する地点に、カインが姿を現した。コートをマントのように羽織っており、例によって帽子をかぶっている。
「カイン! 貴様がオーディを……」
「当たりだよ。薄々感づいていたようだね。偉い偉い」
それから高らかに笑うカイン。
「あの刑事は見逃してやるよ。どうせコナンとかいう警部が知っているんだろう? 秘密を知った者が二人になったからといって、さほど状況は変わらない。いつでも、奴らは殺せるのだからな」
「その傲慢さ、改めさせてやる!」
フランクは握り拳を作ると、高く掲げた。
「おっと、今夜の君の相手は、このカインではない」
カインはオーディを手で示した。
「彼が相手だ」
「オーディをこんな姿にしたのは、何故だ」
怒気を含んだ調子のフランク。
「彼が望んだからさ。知っているかね? 彼は兄想いの優しい奴だよ。ふふふ」
「知っているさ」
フランクは、オーディが哀れに思えてきた。自らその身体をカインに差し出したのか、分身という形で兄と再会するために……。
「そうかね……。ついでに教えておくとしよう。彼はオーディではない。彼には私が新たな名を授けた。ワンマン・デュオ――気を利かせたつもりだが、どうかね?」
フランクが黙っていると、オーディことワンマン・デュオが口を開いた。
「とても気に入っています。いつも兄と一緒にいられるようで、気分が清々しくなれます」
「それは何より。さあ、その感謝の念を行動で示してもらえないかね。ワンマン・デュオ!」
「はっ!」
短く受けると共に、デュオが揺れ始めた。
「……」
その様を、フランクは絶句して見守ってしまった。思えば、このとき、すぐに攻撃を仕掛けていればよかったのだが……。しかし、デュオが揺れている様子は、目を奪われても仕方がないほど、不可思議な光景であった。
確かに最初、デュオは身体を揺らしていた。月明かりによってできた影も、ゆらゆら増幅して映る。それが徐々に激しくなり、最後には……二つに割れるのだ。気が付けば、デュオは二人になっていた。
「フランク君。この二人からの攻撃、お得意の素早さでかわせるかな?」
カインの挑発が引き金となった。
フランクは強く地面を蹴って、第一撃を――。
「おっと」
身軽にかわしたのは、カインである。そう、フランクはカインへ攻撃を仕掛けたのだ。
「私ではないと言っただろう。聞き分けのない男だ」
にやりと笑って、余裕を見せるカイン。
(カイン……こちらのことを研究している。それに能力に磨きがかかったか、以前よりも身軽になっている?)
フランクは焦りを感じながらも、声を張り上げた。
「おまえを狙うのは当然だろう。ワンマン・デュオよりも、貴様が近くにいる。能力だって、手の内を知っている者の方がやり易い」
「脳みそを使うのは結構なことだ。だが、それも時と場合によるね!」
瞬間、フランクは激しい痛みを感じていた。
前方から来た鋭い刃物のような攻撃はどうにか避けられたものの、肩を襲った激しい力は避けきれなかった。
「僕と戦え。カイン様を見下すとは、許さない」
多重に聞こえる声。耳がおかしくなったかのようだ。
「どうしても、君と戦うことになるのだな」
フランクは覚悟を決めた。そして跳躍。いきなり、右の一撃を放つ!
「が!」
ヒット!
ワンマン・デュオの片割れが、叩きつけられるように地面に倒れた。胸の辺りに強い衝撃が走ったはず。
「手応えは充分だ。もはや一人だ、ワンマン・デュオ。いや、ワンマン・ソロかな?」
「気取っている暇はあるのかね」
カインの声。殺気は感じられぬからカイン自らが襲ってくるのではない。だが、自信に溢れている。
「何だと? 一人が相手なら、この素早さで圧倒してやる。例え、カイン、貴様が相手でも」
「その暴言、許せぬところだが……強がりも今の内だ。せいぜい、いきがりたまえ」
そうこうしている間に、デュオが奇妙な行動に出た。打ち倒された瀕死の片割れに近付くと、その手を取った。かと思うと、強く抱きしめ始めるではないか。
「あ、あ」
再び、フランクは呆然と見送ってしまった。
ワンマン・デュオはすぐに一人に戻った。そして再び揺れ始めたのだ。
「兄さん、すぐに生き返らせてあげるね……」
そんなことをつぶやきながら、揺れは激しくなる。
「まさか」
フランクは恐れた。その恐れは、すぐに現実のものとなった。
――目の前の敵は、再度、二つに分かれた。
「さあ、試合再開だよ、フランク君」
楽しくてたまらない様子のカイン。拳闘の試合でも観戦しているつもりか。
フランクは考えていた。同じ攻撃をしても無駄だろう。いや、同じ奴を攻撃しても無駄。もう片方の、弟の方を倒せばいいに違いない、と。
そう決めて、敵を見据えるフランク。
(うっ)
フランクは焦った。いささか喜劇的ではあるが……。
「見分けがつかない……」
思わず、そんな台詞が口をついた。
「ほう!」
カインがわざとらしく言った。
「君のその言葉から推測するに、元々のワンマン・デュオ……ウィレム・オーディを殺せばいいと考えているらしいな。まあ、やってみたまえ。確率は二分の一だ。いつかは当たるかもしれない」
ふん、と鼻を鳴らし、フランクは言われた通りにしてやった。先ほどと同じように、片割れが倒れる。出血が激しい。
だが……。今度も、片割れは復活した。これも先ほどと同様に、一度、片割れの身体を取り込み、再生して外に吐き出す。そんな感じだ。
「うーん、残念。外れだねえ」
笑いながら、カイン。
「くそ!」
それからもフランクは得意のスピードに乗せ、拳を放ったが、ワンマン・デュオはいつまでも二人組を保ち続けた。
「おやおや、君の運のなさにも呆れるな。二分の一の確率を何度、外しているんだね?」
カインはいつまでも笑みを浮かべている。だが、その目つきは鋭さをたたえたままだ。
「ワンマン・デュオよ。そろそろ、片をつけていいぞ。見ろ、フランクは最初に受けた肩の傷で、ふらふらになりかけだ」
「承知」
ワンマン・デュオは二手に分かれると、その間にフランクをとらえた。
「覚悟せよ、フランク・シュタイナー!」
叫ぶと同時に、一気に間合いを詰めるデュオ。中間で彼ら二人がすれ違うとき、フランクは……。
しかし、フランクには考える時間があった。今は負傷でやや落ちているものの、素早く動けるだけに、時間をゆっくりと感じることができる。
(本当に運がない。ずっと弟の方を外すなんて……)
フランクは、敵が二人とも視界に入るように姿勢を調節した。
(待て。ずっと外し続けるなんて、あるだろうか。いや、ない。確率的にはあるとしても、それが現実に起こるなんて、信じない。ということは、敵は常にこちらの攻撃を見切り、兄の方を殺させていたのか?)
二つの影が迫ってきた。各人までの距離に、わずかの違いもない。
(いや。僕の身上は素早さだけ。これを見切れるなんて、絶対にない! だったら……ワンマン・デュオはどちらを倒されても、復活できる? そうだ、相手は元々、弟一人なのだから、兄はいないのだ。ならば、どうすれば倒せるのか……?)
そして結論が出た。
フランクは上半身を沈めると、肩の痛みをこらえ、両腕を地面に対して突っ張る。そう、倒立の姿勢を取る。そして足を左右に開くと、腕と腰の力で、まるで扇風機のごとく足を回転させた!
「ぶげーっ!」
フランクの耳に、表し難い悲鳴が二重に届いた。
次にフランクは身体を起こし、身構える。が、その必要はなかった。すでにワンマン・デュオの二人は打ちのめされ、地に倒れていたのである。よほどの不意を突かれたらしく、異様なうめき声を発し、血を吐いていた。よくよく見れば、片方は口が頬まで裂けており、もう一人は首が奇妙な方向に曲がっている。
「……一瞬の内に見破るとはな」
そう言うカインの表情に、もはや笑みはない。鋭い眼差しが残るのみ。
「二人とも、『本体』だったんだろう? ならば、二人同時に倒せばいい。彼らが別々に攻撃してくるのなら、同時に倒すのも難しかったかもしれない。が、うまい具合に同時に突っ込んできてくれたからな。蹴りで充分だった」
フランクが言っている内に、ワンマン・デュオの肉体は徐々に崩れていった。それは灰のような砂のような、とにかく細かい粒となり、風に流され始める。ついには、何もなかったかのように、下の地面が顔を出し始めた。
「死ねば……こうなるのか」
フランクは、目の前の光景を自らに当てはめ、薄ら寒くなった。
「魔玉の者とて、死ねばゴミと同じよ!」
言い放つカイン。
「ゴミだと?」
聞き咎めたフランクだったが、カインはそれに答えるつもりはないらしい。
「ワンマン・デュオは、役に立ってくれた。フランク、君はまさか、私がただ、見物していただけとは思っていまい」
カインは、珍しくもフランクの名を呼び捨てにした。本気になっている証拠であろ。
「……」
カインの自信ありげな様子に、フランクは直感した。
(やばいぜ、これは……。カインはこちらの動きを観察していたに違いない。今はまずい)
カインは、そんなフランクの心の動きを見透かしたか、にやりと笑った。
「君の蹴りの威力も、おおよそ分かった。その素早さは厄介だが、ほぼパターンは読めたよ。どんな達人にも、癖があるものだ」
「……今日は、僕の相手は貴様じゃなかったんだよな」
フランクが言った。もちろん、本気ではない。少しでも時間を稼ぎたかった。
「さて、どうするかな」
カインは、焦らすように言う。
「これまで私が見てきたのが、君の全てだとすれば、勝てる可能性は十二分にある」
「貴様に奥の手があるように、僕にもあるぜ」
「ほほう。少しは駆け引きを使うようになったか。だが、この前の君のくそ度胸に敬意を表して、今回は私から突っ込んでやってもいいんだよ」
カインは、フランクのはったりを簡単に見破った。アベルの研究が進めば分からないが、今のフランクに何も隠している技などない。
「フランク!」
不意に、アベルの声が聞こえた。
ケリガン警部補の連れて来た応援部隊だ。コナン警部の姿はもちろん、大勢の警官がいる。
時間を稼いだ甲斐があった。と、フランクは安堵した。コナン警部、よく、アベルを連れて来てくれたものだ。このときを待っていた!
「アベル! 例の物を!」
あたかもあらかじめ打ち合わせておいたかのように、合図を送るフランク。
アベルはカインの姿を認めたせいか、すぐに察してくれた。こうでなくては、困る。
「分かった。そらっ!」
アベルはポケットに手を突っ込むと、何かをフランクに投げてよこした。フランクはそれをしっかりと受け止め、両手で構えを作る。
「これで完璧だ。いつでも来い! カイン!」
フランクの気迫に圧倒されたか、カインは表情を固くした。
「アベル……おまえはいつもこうだ。私に先んじて、何かを見つけたようだな」
「あいにくだったな、カイン」
アベルは強く言い切った。
「おまえが突っ込んで来さえすれば、フランクの勝ちだ。さあ、カインよ。選択しろ。あきらめて投降するか? それとも一か八かの勝負に出るか?」
「うむ……」
カインはほとんど時間をかけずに、回答を出した。
「今夜は引き下がるとしよう。逃げる折に格好をつけても始まらないな」
カインはいつの間に身に着けたのか、フランク張りの素早さと跳躍力とで、家の屋根に飛び上がった。それを目で追っている間もなく、その姿は月明かりの向こう、小さく消えていった。
「アベル!」
「フランク、無事か?」
二人は強く、互いの手を握り合った。
彼らの手の中では、アベルが投げてよこした、ただのマッチ箱がからからと音を立てていた。
――「かたはら」.終
(カイン……だと?)
フランクは、一気に総毛立つのを感じた。もっとも、人造人間の彼に、体毛はあまりない。
「やはり、カインと関係があるのか!」
大声で叫びながら、ケリガンの心配をするフランク。何とか逃げてもらいたい。
「男は追わなくていいぞ……。フランク君、久しぶりだな。関係がどうこうよりも、憂慮すべき点があるだろう」
不意に、新たな声が降ってきた。聞き覚えのある、邪悪な意志を隠しきれない声音……。
「この私が、この場にいるということを!」
オーディとフランクのいる場所をちょうど二分する地点に、カインが姿を現した。コートをマントのように羽織っており、例によって帽子をかぶっている。
「カイン! 貴様がオーディを……」
「当たりだよ。薄々感づいていたようだね。偉い偉い」
それから高らかに笑うカイン。
「あの刑事は見逃してやるよ。どうせコナンとかいう警部が知っているんだろう? 秘密を知った者が二人になったからといって、さほど状況は変わらない。いつでも、奴らは殺せるのだからな」
「その傲慢さ、改めさせてやる!」
フランクは握り拳を作ると、高く掲げた。
「おっと、今夜の君の相手は、このカインではない」
カインはオーディを手で示した。
「彼が相手だ」
「オーディをこんな姿にしたのは、何故だ」
怒気を含んだ調子のフランク。
「彼が望んだからさ。知っているかね? 彼は兄想いの優しい奴だよ。ふふふ」
「知っているさ」
フランクは、オーディが哀れに思えてきた。自らその身体をカインに差し出したのか、分身という形で兄と再会するために……。
「そうかね……。ついでに教えておくとしよう。彼はオーディではない。彼には私が新たな名を授けた。ワンマン・デュオ――気を利かせたつもりだが、どうかね?」
フランクが黙っていると、オーディことワンマン・デュオが口を開いた。
「とても気に入っています。いつも兄と一緒にいられるようで、気分が清々しくなれます」
「それは何より。さあ、その感謝の念を行動で示してもらえないかね。ワンマン・デュオ!」
「はっ!」
短く受けると共に、デュオが揺れ始めた。
「……」
その様を、フランクは絶句して見守ってしまった。思えば、このとき、すぐに攻撃を仕掛けていればよかったのだが……。しかし、デュオが揺れている様子は、目を奪われても仕方がないほど、不可思議な光景であった。
確かに最初、デュオは身体を揺らしていた。月明かりによってできた影も、ゆらゆら増幅して映る。それが徐々に激しくなり、最後には……二つに割れるのだ。気が付けば、デュオは二人になっていた。
「フランク君。この二人からの攻撃、お得意の素早さでかわせるかな?」
カインの挑発が引き金となった。
フランクは強く地面を蹴って、第一撃を――。
「おっと」
身軽にかわしたのは、カインである。そう、フランクはカインへ攻撃を仕掛けたのだ。
「私ではないと言っただろう。聞き分けのない男だ」
にやりと笑って、余裕を見せるカイン。
(カイン……こちらのことを研究している。それに能力に磨きがかかったか、以前よりも身軽になっている?)
フランクは焦りを感じながらも、声を張り上げた。
「おまえを狙うのは当然だろう。ワンマン・デュオよりも、貴様が近くにいる。能力だって、手の内を知っている者の方がやり易い」
「脳みそを使うのは結構なことだ。だが、それも時と場合によるね!」
瞬間、フランクは激しい痛みを感じていた。
前方から来た鋭い刃物のような攻撃はどうにか避けられたものの、肩を襲った激しい力は避けきれなかった。
「僕と戦え。カイン様を見下すとは、許さない」
多重に聞こえる声。耳がおかしくなったかのようだ。
「どうしても、君と戦うことになるのだな」
フランクは覚悟を決めた。そして跳躍。いきなり、右の一撃を放つ!
「が!」
ヒット!
ワンマン・デュオの片割れが、叩きつけられるように地面に倒れた。胸の辺りに強い衝撃が走ったはず。
「手応えは充分だ。もはや一人だ、ワンマン・デュオ。いや、ワンマン・ソロかな?」
「気取っている暇はあるのかね」
カインの声。殺気は感じられぬからカイン自らが襲ってくるのではない。だが、自信に溢れている。
「何だと? 一人が相手なら、この素早さで圧倒してやる。例え、カイン、貴様が相手でも」
「その暴言、許せぬところだが……強がりも今の内だ。せいぜい、いきがりたまえ」
そうこうしている間に、デュオが奇妙な行動に出た。打ち倒された瀕死の片割れに近付くと、その手を取った。かと思うと、強く抱きしめ始めるではないか。
「あ、あ」
再び、フランクは呆然と見送ってしまった。
ワンマン・デュオはすぐに一人に戻った。そして再び揺れ始めたのだ。
「兄さん、すぐに生き返らせてあげるね……」
そんなことをつぶやきながら、揺れは激しくなる。
「まさか」
フランクは恐れた。その恐れは、すぐに現実のものとなった。
――目の前の敵は、再度、二つに分かれた。
「さあ、試合再開だよ、フランク君」
楽しくてたまらない様子のカイン。拳闘の試合でも観戦しているつもりか。
フランクは考えていた。同じ攻撃をしても無駄だろう。いや、同じ奴を攻撃しても無駄。もう片方の、弟の方を倒せばいいに違いない、と。
そう決めて、敵を見据えるフランク。
(うっ)
フランクは焦った。いささか喜劇的ではあるが……。
「見分けがつかない……」
思わず、そんな台詞が口をついた。
「ほう!」
カインがわざとらしく言った。
「君のその言葉から推測するに、元々のワンマン・デュオ……ウィレム・オーディを殺せばいいと考えているらしいな。まあ、やってみたまえ。確率は二分の一だ。いつかは当たるかもしれない」
ふん、と鼻を鳴らし、フランクは言われた通りにしてやった。先ほどと同じように、片割れが倒れる。出血が激しい。
だが……。今度も、片割れは復活した。これも先ほどと同様に、一度、片割れの身体を取り込み、再生して外に吐き出す。そんな感じだ。
「うーん、残念。外れだねえ」
笑いながら、カイン。
「くそ!」
それからもフランクは得意のスピードに乗せ、拳を放ったが、ワンマン・デュオはいつまでも二人組を保ち続けた。
「おやおや、君の運のなさにも呆れるな。二分の一の確率を何度、外しているんだね?」
カインはいつまでも笑みを浮かべている。だが、その目つきは鋭さをたたえたままだ。
「ワンマン・デュオよ。そろそろ、片をつけていいぞ。見ろ、フランクは最初に受けた肩の傷で、ふらふらになりかけだ」
「承知」
ワンマン・デュオは二手に分かれると、その間にフランクをとらえた。
「覚悟せよ、フランク・シュタイナー!」
叫ぶと同時に、一気に間合いを詰めるデュオ。中間で彼ら二人がすれ違うとき、フランクは……。
しかし、フランクには考える時間があった。今は負傷でやや落ちているものの、素早く動けるだけに、時間をゆっくりと感じることができる。
(本当に運がない。ずっと弟の方を外すなんて……)
フランクは、敵が二人とも視界に入るように姿勢を調節した。
(待て。ずっと外し続けるなんて、あるだろうか。いや、ない。確率的にはあるとしても、それが現実に起こるなんて、信じない。ということは、敵は常にこちらの攻撃を見切り、兄の方を殺させていたのか?)
二つの影が迫ってきた。各人までの距離に、わずかの違いもない。
(いや。僕の身上は素早さだけ。これを見切れるなんて、絶対にない! だったら……ワンマン・デュオはどちらを倒されても、復活できる? そうだ、相手は元々、弟一人なのだから、兄はいないのだ。ならば、どうすれば倒せるのか……?)
そして結論が出た。
フランクは上半身を沈めると、肩の痛みをこらえ、両腕を地面に対して突っ張る。そう、倒立の姿勢を取る。そして足を左右に開くと、腕と腰の力で、まるで扇風機のごとく足を回転させた!
「ぶげーっ!」
フランクの耳に、表し難い悲鳴が二重に届いた。
次にフランクは身体を起こし、身構える。が、その必要はなかった。すでにワンマン・デュオの二人は打ちのめされ、地に倒れていたのである。よほどの不意を突かれたらしく、異様なうめき声を発し、血を吐いていた。よくよく見れば、片方は口が頬まで裂けており、もう一人は首が奇妙な方向に曲がっている。
「……一瞬の内に見破るとはな」
そう言うカインの表情に、もはや笑みはない。鋭い眼差しが残るのみ。
「二人とも、『本体』だったんだろう? ならば、二人同時に倒せばいい。彼らが別々に攻撃してくるのなら、同時に倒すのも難しかったかもしれない。が、うまい具合に同時に突っ込んできてくれたからな。蹴りで充分だった」
フランクが言っている内に、ワンマン・デュオの肉体は徐々に崩れていった。それは灰のような砂のような、とにかく細かい粒となり、風に流され始める。ついには、何もなかったかのように、下の地面が顔を出し始めた。
「死ねば……こうなるのか」
フランクは、目の前の光景を自らに当てはめ、薄ら寒くなった。
「魔玉の者とて、死ねばゴミと同じよ!」
言い放つカイン。
「ゴミだと?」
聞き咎めたフランクだったが、カインはそれに答えるつもりはないらしい。
「ワンマン・デュオは、役に立ってくれた。フランク、君はまさか、私がただ、見物していただけとは思っていまい」
カインは、珍しくもフランクの名を呼び捨てにした。本気になっている証拠であろ。
「……」
カインの自信ありげな様子に、フランクは直感した。
(やばいぜ、これは……。カインはこちらの動きを観察していたに違いない。今はまずい)
カインは、そんなフランクの心の動きを見透かしたか、にやりと笑った。
「君の蹴りの威力も、おおよそ分かった。その素早さは厄介だが、ほぼパターンは読めたよ。どんな達人にも、癖があるものだ」
「……今日は、僕の相手は貴様じゃなかったんだよな」
フランクが言った。もちろん、本気ではない。少しでも時間を稼ぎたかった。
「さて、どうするかな」
カインは、焦らすように言う。
「これまで私が見てきたのが、君の全てだとすれば、勝てる可能性は十二分にある」
「貴様に奥の手があるように、僕にもあるぜ」
「ほほう。少しは駆け引きを使うようになったか。だが、この前の君のくそ度胸に敬意を表して、今回は私から突っ込んでやってもいいんだよ」
カインは、フランクのはったりを簡単に見破った。アベルの研究が進めば分からないが、今のフランクに何も隠している技などない。
「フランク!」
不意に、アベルの声が聞こえた。
ケリガン警部補の連れて来た応援部隊だ。コナン警部の姿はもちろん、大勢の警官がいる。
時間を稼いだ甲斐があった。と、フランクは安堵した。コナン警部、よく、アベルを連れて来てくれたものだ。このときを待っていた!
「アベル! 例の物を!」
あたかもあらかじめ打ち合わせておいたかのように、合図を送るフランク。
アベルはカインの姿を認めたせいか、すぐに察してくれた。こうでなくては、困る。
「分かった。そらっ!」
アベルはポケットに手を突っ込むと、何かをフランクに投げてよこした。フランクはそれをしっかりと受け止め、両手で構えを作る。
「これで完璧だ。いつでも来い! カイン!」
フランクの気迫に圧倒されたか、カインは表情を固くした。
「アベル……おまえはいつもこうだ。私に先んじて、何かを見つけたようだな」
「あいにくだったな、カイン」
アベルは強く言い切った。
「おまえが突っ込んで来さえすれば、フランクの勝ちだ。さあ、カインよ。選択しろ。あきらめて投降するか? それとも一か八かの勝負に出るか?」
「うむ……」
カインはほとんど時間をかけずに、回答を出した。
「今夜は引き下がるとしよう。逃げる折に格好をつけても始まらないな」
カインはいつの間に身に着けたのか、フランク張りの素早さと跳躍力とで、家の屋根に飛び上がった。それを目で追っている間もなく、その姿は月明かりの向こう、小さく消えていった。
「アベル!」
「フランク、無事か?」
二人は強く、互いの手を握り合った。
彼らの手の中では、アベルが投げてよこした、ただのマッチ箱がからからと音を立てていた。
――「かたはら」.終
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