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5.呪文の読み方とルール
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「今から読んでみせる。ああ、録音しとこうか。練習するときにあった方が便利だろうから」
坂口君はそう言ってズボンのポケットに手を入れた。けれどもお目当ての物はなかったみたい。小さく舌打ちしてぼやく。
「まただ。家にいるときと同じつもりで、つい」
携帯端末のことを言っているんだと分かる。うちの学校では校内での使用が禁じられていて、学校に持ち込む場合は朝来たときに自分のロッカーに仕舞っておかなくちゃいけない決まり。
岸本君が尋ねる。
「あとで……下校のときにやってくれる?」
「いや、外で呪文を言うのは恥ずかしい。家に帰ったら電話してそっちで録音してもらうか、いや、データ送った方が音質ましかな」
とりあえずってことで、この場で一度、呪文を発音してくれた。けど、簡単には発音できそうにないし、日本語として書き起こせない。無理に当てはめると、先ほど坂口君が書いたような表現になるのも無理ないなーって思えたわ。
「『る』に点々て、『どぅ』に近いのね」
「そうそう。小さな『き』はかすれた感じで」
こんな風に少しレクチャーしてもらってから、帰ることになった。途中までは三人揃って下校する。
「夢の中身、あんまり覚えてないみたいだから、一応確認しとくけど、願いに条件が付いているのは覚えてる?」
「え? ううん、全然記憶にない。岸本君は?」
「いやあ、僕も何にも残ってないなあ」
「うわ、不安になってきたよ。まあ、僕だって全部覚えてはいないんだけどさ」
「条件がいくつかあるのね」
「覚えているのは三つ、いや四つだったな。でもたとえ条件に引っ掛かる願いをしても、無効扱いされるだけで、やり直しは利くとようなんだけれども」
頭をかく坂口君。頭の中で、その条件とやらを整理しているみたい。
「まず、自分と無関係な人に関係する願い事はだめ。知り合いでもない有名人と結婚したい、なんてのは無理って意味らしい」
「いきなり制限が大きいな」
「次に、死んだ人を生き返らせるとか不治の病を治すとかもできない。命に直接関係することには制約が大きいみたいだった」
「そっか」
ちょっと、ううん、だいぶ残念。ただまあ、もうこの世にいない人に甦ってもらったとして、私は涙が出るほど嬉しくても、世間的にはどうなるの?っていうのはある。
「三つ目は、日本の法律で犯罪と定められている行為は受け付けられないんだってさ」
「日本の法律と来たか。じゃあちょっと前に言った世界征服はどうなるんだろ?」
岸本君は笑いながら言った。冗談なのは分かるんだけど、確かに気になる。
「だからって試さないでくれよ」
「分かってる。一人で世界征服したって、アフターケアが大変で、とてもじゃないが保たないと思うしね。さあ、条件の四つ目は?」
「最後は、“わし”に関することを願うな、だってさ」
「“わし”って何?」
まさか鳥のわしじゃないわよねと思いながら聞き返す。
「願いを叶えてくれるって言ってた人のこと。神様か何かかな。具体的な例としては、『願い事をいくらでも叶えてくれるようにしてください』っていうのは認めない、だって」
「あはは、なるほどね」
神様、ちゃんと対策をしてるのね。
家に帰り着いてしばらくすると、坂口君から連絡があって、音声データを送ってもらった。これで呪文をマスターすれば、願い事が叶うっていうのが真実かどうか分かるわけね。
そのときが来ても願い事がなかったらお話にならない。私は下校中からずっと考えていた。そして頭に大きく思い浮かんだのが、おばあちゃんだった。
私のおばあちゃんは昔、アイドルをやっていた。亜咲香純子っていう芸名を使っていたんだけど、同級生の誰も知らなくてちょっぴり悔しい。
六十歳を過ぎた今でもとってもきれいで、自慢の祖母だ。現役の頃、大いに人気を博したと聞いて、素直にうなずける。
え? そんなおばあちゃんがいるくらいなら、私もそこそこ整った顔をしているんだろうな? ううん、残念ながら。
まあ、私の顔のことなんてどうでもいいじゃない。私が話したいのはおばあちゃんについてなんだから。
今の時代、六十歳って言ったってお年寄り!という感じじゃないでしょ。おばあちゃんも元気はつらつで過ごしてきたんだけれども、この間、ちょっと病気をしてしまって……。
おばあちゃんは二十九歳のときに芸能界を引退して、それ以来、一度も復帰しないでいたの。復帰を望む声は多数寄せられたのに、おばあちゃんは首を縦に振らないでいた。でも今年になってから、ある人に頼まれて一度だけドラマに出ると決めた。何でも、芸能界にいるときに非常にお世話になった人、言ってみれば恩人からお願いされて、一度だけならと引き受けたらしい。ただし、亜咲香純子が一作限り復帰することは公には伏せられた。世間に向けたサプライズってやつを狙ったんだって。
坂口君はそう言ってズボンのポケットに手を入れた。けれどもお目当ての物はなかったみたい。小さく舌打ちしてぼやく。
「まただ。家にいるときと同じつもりで、つい」
携帯端末のことを言っているんだと分かる。うちの学校では校内での使用が禁じられていて、学校に持ち込む場合は朝来たときに自分のロッカーに仕舞っておかなくちゃいけない決まり。
岸本君が尋ねる。
「あとで……下校のときにやってくれる?」
「いや、外で呪文を言うのは恥ずかしい。家に帰ったら電話してそっちで録音してもらうか、いや、データ送った方が音質ましかな」
とりあえずってことで、この場で一度、呪文を発音してくれた。けど、簡単には発音できそうにないし、日本語として書き起こせない。無理に当てはめると、先ほど坂口君が書いたような表現になるのも無理ないなーって思えたわ。
「『る』に点々て、『どぅ』に近いのね」
「そうそう。小さな『き』はかすれた感じで」
こんな風に少しレクチャーしてもらってから、帰ることになった。途中までは三人揃って下校する。
「夢の中身、あんまり覚えてないみたいだから、一応確認しとくけど、願いに条件が付いているのは覚えてる?」
「え? ううん、全然記憶にない。岸本君は?」
「いやあ、僕も何にも残ってないなあ」
「うわ、不安になってきたよ。まあ、僕だって全部覚えてはいないんだけどさ」
「条件がいくつかあるのね」
「覚えているのは三つ、いや四つだったな。でもたとえ条件に引っ掛かる願いをしても、無効扱いされるだけで、やり直しは利くとようなんだけれども」
頭をかく坂口君。頭の中で、その条件とやらを整理しているみたい。
「まず、自分と無関係な人に関係する願い事はだめ。知り合いでもない有名人と結婚したい、なんてのは無理って意味らしい」
「いきなり制限が大きいな」
「次に、死んだ人を生き返らせるとか不治の病を治すとかもできない。命に直接関係することには制約が大きいみたいだった」
「そっか」
ちょっと、ううん、だいぶ残念。ただまあ、もうこの世にいない人に甦ってもらったとして、私は涙が出るほど嬉しくても、世間的にはどうなるの?っていうのはある。
「三つ目は、日本の法律で犯罪と定められている行為は受け付けられないんだってさ」
「日本の法律と来たか。じゃあちょっと前に言った世界征服はどうなるんだろ?」
岸本君は笑いながら言った。冗談なのは分かるんだけど、確かに気になる。
「だからって試さないでくれよ」
「分かってる。一人で世界征服したって、アフターケアが大変で、とてもじゃないが保たないと思うしね。さあ、条件の四つ目は?」
「最後は、“わし”に関することを願うな、だってさ」
「“わし”って何?」
まさか鳥のわしじゃないわよねと思いながら聞き返す。
「願いを叶えてくれるって言ってた人のこと。神様か何かかな。具体的な例としては、『願い事をいくらでも叶えてくれるようにしてください』っていうのは認めない、だって」
「あはは、なるほどね」
神様、ちゃんと対策をしてるのね。
家に帰り着いてしばらくすると、坂口君から連絡があって、音声データを送ってもらった。これで呪文をマスターすれば、願い事が叶うっていうのが真実かどうか分かるわけね。
そのときが来ても願い事がなかったらお話にならない。私は下校中からずっと考えていた。そして頭に大きく思い浮かんだのが、おばあちゃんだった。
私のおばあちゃんは昔、アイドルをやっていた。亜咲香純子っていう芸名を使っていたんだけど、同級生の誰も知らなくてちょっぴり悔しい。
六十歳を過ぎた今でもとってもきれいで、自慢の祖母だ。現役の頃、大いに人気を博したと聞いて、素直にうなずける。
え? そんなおばあちゃんがいるくらいなら、私もそこそこ整った顔をしているんだろうな? ううん、残念ながら。
まあ、私の顔のことなんてどうでもいいじゃない。私が話したいのはおばあちゃんについてなんだから。
今の時代、六十歳って言ったってお年寄り!という感じじゃないでしょ。おばあちゃんも元気はつらつで過ごしてきたんだけれども、この間、ちょっと病気をしてしまって……。
おばあちゃんは二十九歳のときに芸能界を引退して、それ以来、一度も復帰しないでいたの。復帰を望む声は多数寄せられたのに、おばあちゃんは首を縦に振らないでいた。でも今年になってから、ある人に頼まれて一度だけドラマに出ると決めた。何でも、芸能界にいるときに非常にお世話になった人、言ってみれば恩人からお願いされて、一度だけならと引き受けたらしい。ただし、亜咲香純子が一作限り復帰することは公には伏せられた。世間に向けたサプライズってやつを狙ったんだって。
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