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12.断る理由
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「柏葉君は怒ったり抗議したりなんて一切しなかったんだけどね。私達の前では、しょうがないかっていう態度を通してくれた。でもやっぱり悔しかったのは間違いない。仕事のとき、彼のお母様から聞いたから」
柏葉って人がピアノを断念せざるを得なくなって、隠していた悔しさを、クラスメイトの中ではおばあちゃんだけが知っていたのかもしれない。
「力になってあげたいと思った?」
「ええ。具体的に何ができるかは分からなかったけれども、少しでも元気が出るように支えたいって。そんなことを考えている頃、柏葉君から放課後、呼び出されたの」
「あ、それってもしかして」
告白?と聞こうとしたが、おばあちゃんは皆まで言わせず、首を左右に振った。
「先に注釈をしておくわね。私はそれまでにも柏葉君から呼び出されて、校舎の隅っこや校庭の隅っこで話すことは何度もあったのよ」
「ええ? そういう大事なことは早く言ってくれなきゃ、おばあちゃん!」
思わず声が大きくなった。自分で気が付き、看護師さん達に叱られないかなと、廊下の方を振り返る。――大丈夫みたい。
「思い違いをしてはだめよ」
「うん?」
「普段、私が彼から呼び出されていたのは、お仕事の話。電話だけでは伝わりにくい点を、メモ書きにして柏葉君が持って来てくれていたの」
「なーんだ。じゃあ、呼び出されてもときめかなかったのね?」
「そうね。いつものことだわって、慣れてしまっていた。もちろん、好きな人と二人だけで話をする、それもお仕事の内容というある意味、秘密の会話をすることは楽しかったけれどもね。スリルがあると言えばいいかしら」
「分かるよ。私にもいるから、そういうのがクラスに一人」
「あら。名前、教えてくれる?」
「それはまだちょっと……」
言い淀んで、おばあちゃんに話の続きを急かそうとしたが、「岸本君じゃないかしら?」と続けざまに言われ、動揺してしまった。
「な何で分かるのっ」
「分かるわよ。このところのおしゃべりで、登場してくる男子と言ったら、岸本君が断トツで多いんだから」
「う」
しまった、不覚。
「もう、私のことはいいでしょ。話、進めてよ」
「はいはい。どの辺りまで話したかしら……柏葉君からの呼び出しには慣れていたというところまでね。だからその日も特別な意識を持つことなく、待ち合わせ場所の踊り場に向かったわ。時間帯がちょっと、いつもと違っていたんだけれどね。いつもなら午前中の休み時間か昼休みがほとんどだったのに、その日は放課後だった。放課後ならわざわざ呼び出さなくても下校のときに話してくれれば済むのに。そのときは違和感に思いが至らなかった」
「ていうことは、やっぱり告白?」
「ええ」
おばあちゃんは口元で微かに笑い、すぐにまた引き締めた。
「告白されるまで、柏葉君からそこまで想われているなんて、考えもしなかった。普通よりもちょっと仲のいい男女の友達という感覚でいたから、正直言って驚いたわ」
結局びっくりしたのね。ときめきがなかった分、もったいないことをしている気がする。
「それで? おばあちゃんの返事は?」
「考えに考えて、迷いはあったけれども、断ったわ」
「えっ、どうして。両思いだって分かったんでしょ? 考えるまでもなく受けるんじゃないの」
「そうすることができていたら、今の後悔はなかったでしょうね」
「告白にオーケーの返事ができない理由があったということ?」
私の当たり前に過ぎる質問に、おばあちゃんは黙ってうなずいた。
断る理由って何だろう。受け入れたいのに断らなければいけない理由……。
「最初に出遅れたことが関係してる? 周りの友達二人が、柏葉君をいいなって言っているのにおばあちゃんは言い出せなかった」
「そうね。関係している。でもそれだけじゃなかった」
「他にもあるってことは……木佐貫さんは関係ないよね」
「ええ。あの人は無関係。だいぶあとになって、私が柏葉君からの告白を断ったと知って、物凄く憤慨していたけれども。ばかじゃないのって」
木佐貫って人にはいわゆる“お嬢様”のイメージを重ねていたけれども、意外と口が悪かったみたい。
それはさておき、木佐貫さんが無関係なら、あとは一つしかない。
「だったらプールでのことだよね。富岡さんが柏葉君の右腕に怪我をさせてしまった。それくらいしか残ってない」
「当たり」
目だけいたずらげに微笑んで、おばあちゃんは言った。
「富岡さんはプールでの一件で柏葉君の右腕に怪我を負わせたと分かって以来、彼へのアプローチをぴたっとやめたわ。落ち込んでいるのを、沖田さんや私が元気づけようとしていた。そんなタイミングで、柏葉君から告白を受けた私が、オーケーの返事をできるわけないのよ」
「富岡さんを傷つけないため……」
「ん。そういうことなの。ただね、最後まで迷っていた私を決心させたのは、一枚の葉っぱなのだけれど」
「葉っぱ?」
柏葉って人がピアノを断念せざるを得なくなって、隠していた悔しさを、クラスメイトの中ではおばあちゃんだけが知っていたのかもしれない。
「力になってあげたいと思った?」
「ええ。具体的に何ができるかは分からなかったけれども、少しでも元気が出るように支えたいって。そんなことを考えている頃、柏葉君から放課後、呼び出されたの」
「あ、それってもしかして」
告白?と聞こうとしたが、おばあちゃんは皆まで言わせず、首を左右に振った。
「先に注釈をしておくわね。私はそれまでにも柏葉君から呼び出されて、校舎の隅っこや校庭の隅っこで話すことは何度もあったのよ」
「ええ? そういう大事なことは早く言ってくれなきゃ、おばあちゃん!」
思わず声が大きくなった。自分で気が付き、看護師さん達に叱られないかなと、廊下の方を振り返る。――大丈夫みたい。
「思い違いをしてはだめよ」
「うん?」
「普段、私が彼から呼び出されていたのは、お仕事の話。電話だけでは伝わりにくい点を、メモ書きにして柏葉君が持って来てくれていたの」
「なーんだ。じゃあ、呼び出されてもときめかなかったのね?」
「そうね。いつものことだわって、慣れてしまっていた。もちろん、好きな人と二人だけで話をする、それもお仕事の内容というある意味、秘密の会話をすることは楽しかったけれどもね。スリルがあると言えばいいかしら」
「分かるよ。私にもいるから、そういうのがクラスに一人」
「あら。名前、教えてくれる?」
「それはまだちょっと……」
言い淀んで、おばあちゃんに話の続きを急かそうとしたが、「岸本君じゃないかしら?」と続けざまに言われ、動揺してしまった。
「な何で分かるのっ」
「分かるわよ。このところのおしゃべりで、登場してくる男子と言ったら、岸本君が断トツで多いんだから」
「う」
しまった、不覚。
「もう、私のことはいいでしょ。話、進めてよ」
「はいはい。どの辺りまで話したかしら……柏葉君からの呼び出しには慣れていたというところまでね。だからその日も特別な意識を持つことなく、待ち合わせ場所の踊り場に向かったわ。時間帯がちょっと、いつもと違っていたんだけれどね。いつもなら午前中の休み時間か昼休みがほとんどだったのに、その日は放課後だった。放課後ならわざわざ呼び出さなくても下校のときに話してくれれば済むのに。そのときは違和感に思いが至らなかった」
「ていうことは、やっぱり告白?」
「ええ」
おばあちゃんは口元で微かに笑い、すぐにまた引き締めた。
「告白されるまで、柏葉君からそこまで想われているなんて、考えもしなかった。普通よりもちょっと仲のいい男女の友達という感覚でいたから、正直言って驚いたわ」
結局びっくりしたのね。ときめきがなかった分、もったいないことをしている気がする。
「それで? おばあちゃんの返事は?」
「考えに考えて、迷いはあったけれども、断ったわ」
「えっ、どうして。両思いだって分かったんでしょ? 考えるまでもなく受けるんじゃないの」
「そうすることができていたら、今の後悔はなかったでしょうね」
「告白にオーケーの返事ができない理由があったということ?」
私の当たり前に過ぎる質問に、おばあちゃんは黙ってうなずいた。
断る理由って何だろう。受け入れたいのに断らなければいけない理由……。
「最初に出遅れたことが関係してる? 周りの友達二人が、柏葉君をいいなって言っているのにおばあちゃんは言い出せなかった」
「そうね。関係している。でもそれだけじゃなかった」
「他にもあるってことは……木佐貫さんは関係ないよね」
「ええ。あの人は無関係。だいぶあとになって、私が柏葉君からの告白を断ったと知って、物凄く憤慨していたけれども。ばかじゃないのって」
木佐貫って人にはいわゆる“お嬢様”のイメージを重ねていたけれども、意外と口が悪かったみたい。
それはさておき、木佐貫さんが無関係なら、あとは一つしかない。
「だったらプールでのことだよね。富岡さんが柏葉君の右腕に怪我をさせてしまった。それくらいしか残ってない」
「当たり」
目だけいたずらげに微笑んで、おばあちゃんは言った。
「富岡さんはプールでの一件で柏葉君の右腕に怪我を負わせたと分かって以来、彼へのアプローチをぴたっとやめたわ。落ち込んでいるのを、沖田さんや私が元気づけようとしていた。そんなタイミングで、柏葉君から告白を受けた私が、オーケーの返事をできるわけないのよ」
「富岡さんを傷つけないため……」
「ん。そういうことなの。ただね、最後まで迷っていた私を決心させたのは、一枚の葉っぱなのだけれど」
「葉っぱ?」
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