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13.願い事、決めた
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「告白されて、『どうしよう、受け入れてしまおうか』という思いが頭をよぎって、半歩踏み出そうとしたとき、急に強い風が吹いてね。多分、笹か何かだと思うのだけれど私の右耳から頬にかけてすっとなでるように飛んでいったわ。少し遅れて、痛みを感じた。あ、さっきの葉っぱで切れたんだって感じた。そしてその痛みは、私が告白を受けようとしたことに対する警告なのかなって解釈したの。そうでも考えないと、決断できなかったかもしれない」
これでおしまいと言わんばかりに両腕を開くおばあちゃん。顔色は――よかった、適度に赤みを帯びている。後悔は消えていないんだろうけれど、すっきりしたというのは雰囲気で伝わってきた。
私は少し迷ったけれども、予め用意しておいた質問をしてみた。そう、願い事が叶うのが本当なら、ここで使うつもりなの。
「ねえ、おばあちゃん。もしもやり直せるとしたら、告白されたときに戻ってやり直してみたい?」
「え、どういうこと?」
おばあちゃん世代には突飛もない問い掛けだったかな? 私も普段はたいして空想めいたこと口にしない方だしね。
「だから仮の話。そう思って聞いて。もし仮に、今の記憶を持ったまま、柏葉君から告白されたときに戻れたとしたら、イエスの返事をする?」
「ああ、そういう意味の質問だったのね。それならまず条件があるわ」
目が輝いている。面白がっている証拠だ。
「何なに、条件て」
「イエスの返事をして告白を受け入れたあと、すぐに今の私に戻るのかしら」
「うーん……」
どうなんだろう。そんなのどうなるか分からない。ここは話が途切れないように、おばあちゃんが望んでいる方にしよう。
「決めてなかったから、今決めるね。おばあちゃんの口ぶりだと――戻らない方がいいのかしら?」
「そうね。実を言うと、私自身まだ決めかねているところ。ただ、やっぱりね。あの人とあの時点からともに歩めていたらとは思うから。そう、もう一度、青春を謳歌したいといった気分が強いわね」
「そっか、分かった。戻らずにそのまま中学生からやり直すことになっても、好きな人と一緒に歩む方を選ぶと」
おばあちゃんの気持ちを確かめられた。これでいつ願いを叶えてもらっても大丈夫。心置きなく、“タイムスリップ”に行ける。
「だ、大丈夫か、吾妻さん?」
私の願い事をざっと話して聞かせたところ、岸本君は動揺まじりに心配して来た。えっと、そんなおかしなことを言ったつもりはないのだけれど。制約に引っ掛からない限り何でも叶えてくれるのなら、過去に行くことだってできるはずよ。
「それはそうかもしれない。だけど、それよりも、現実的な性格だと思ってたのに、いったいどうしたんだい?」
「あ、私? 醒めた性格になったといっても、端から不思議な出来事を否定するつもりはないの。試せるものなら試すし、メルヘンチックな設定もそうと分かっていたら受け入れる。岸本君だって嫌でしょ、あのいわゆる“夢の国”にデートに行って、着ぐるみを見た女子が『あれってどうせ中に人がいるのよね』って言ったら」
「……それは真理だな」
腕を組んだ岸本君は、うんうんとしっかり首肯した。
今日もまた学校の放課後、図書室横の会議室兼フリースペースが珍しく空いていたから、使わせてもらっている。申し込み手続きをして一時間、誰にも邪魔されずに使える。ただし、出入り口付近には防犯カメラが設置されていて、多分、司書の先生か誰かがモニター越しに見ているはず。私からすれば、第三者に見られているという意識があるからこそ、こうして岸本君と部屋に二人きりでも、さほどどぎまぎせずにいられるのだけれども。それに部屋も広いのよね。少なくとも二十人は一度に集まって会議を開けるわ。
「ある人を元気にするために、過去の後悔の種をなくしてしまおうっていう目的で、何年も前に行くんだね」
「ええ」
「行かずに後悔の念だけきれいに消してもらうっていうのでは、だめなのかな」
「……それは気付かなかった。けれど、神様的な何かに解決を任せるより、本人がもう一度過去を体験する方がいいじゃない。後悔の念が消えるのを肌で実感できると思う」
「そういうものなのかな」
腕組みをしたまま、今度は首を傾げる岸本君。
「もういいじゃない。それよりも、岸本君の方は何を思い付いたのよ、願い事?」
私は胸の内で、心臓の鼓動がとっとっとっという風に早くなるのを感じた。
もし岸本君の願い事が、「誰それさん(他の女子の名前)と仲よくなる、付き合う、将来結婚する」とかだったらどうしよう? で、でも、仮にそういう願いだったとして、女子である私の前で発表するとは考えにくい。別の答を用意している気がする。
「そうだね……時間を掛けてじっくり考えたんだけど、なかなかこれっていうのに絞れなくてさ」
「絞れなくて? どうしたの。まだ決まってないとか言うんじゃないわよね。私に言わせておいて」
私ははやる気持ちをごまかすために、腰を浮かせて彼に詰め寄るような仕種をした。
「吾妻さんのだって、すべてを明かしてくれたことにはなってないと思う。誰の後悔を取り除くために行くのか、全然、具体的じゃない」
「ま、まあ、それはいいじゃない。岸本君も私と同じくらいは話してよ」
これでおしまいと言わんばかりに両腕を開くおばあちゃん。顔色は――よかった、適度に赤みを帯びている。後悔は消えていないんだろうけれど、すっきりしたというのは雰囲気で伝わってきた。
私は少し迷ったけれども、予め用意しておいた質問をしてみた。そう、願い事が叶うのが本当なら、ここで使うつもりなの。
「ねえ、おばあちゃん。もしもやり直せるとしたら、告白されたときに戻ってやり直してみたい?」
「え、どういうこと?」
おばあちゃん世代には突飛もない問い掛けだったかな? 私も普段はたいして空想めいたこと口にしない方だしね。
「だから仮の話。そう思って聞いて。もし仮に、今の記憶を持ったまま、柏葉君から告白されたときに戻れたとしたら、イエスの返事をする?」
「ああ、そういう意味の質問だったのね。それならまず条件があるわ」
目が輝いている。面白がっている証拠だ。
「何なに、条件て」
「イエスの返事をして告白を受け入れたあと、すぐに今の私に戻るのかしら」
「うーん……」
どうなんだろう。そんなのどうなるか分からない。ここは話が途切れないように、おばあちゃんが望んでいる方にしよう。
「決めてなかったから、今決めるね。おばあちゃんの口ぶりだと――戻らない方がいいのかしら?」
「そうね。実を言うと、私自身まだ決めかねているところ。ただ、やっぱりね。あの人とあの時点からともに歩めていたらとは思うから。そう、もう一度、青春を謳歌したいといった気分が強いわね」
「そっか、分かった。戻らずにそのまま中学生からやり直すことになっても、好きな人と一緒に歩む方を選ぶと」
おばあちゃんの気持ちを確かめられた。これでいつ願いを叶えてもらっても大丈夫。心置きなく、“タイムスリップ”に行ける。
「だ、大丈夫か、吾妻さん?」
私の願い事をざっと話して聞かせたところ、岸本君は動揺まじりに心配して来た。えっと、そんなおかしなことを言ったつもりはないのだけれど。制約に引っ掛からない限り何でも叶えてくれるのなら、過去に行くことだってできるはずよ。
「それはそうかもしれない。だけど、それよりも、現実的な性格だと思ってたのに、いったいどうしたんだい?」
「あ、私? 醒めた性格になったといっても、端から不思議な出来事を否定するつもりはないの。試せるものなら試すし、メルヘンチックな設定もそうと分かっていたら受け入れる。岸本君だって嫌でしょ、あのいわゆる“夢の国”にデートに行って、着ぐるみを見た女子が『あれってどうせ中に人がいるのよね』って言ったら」
「……それは真理だな」
腕を組んだ岸本君は、うんうんとしっかり首肯した。
今日もまた学校の放課後、図書室横の会議室兼フリースペースが珍しく空いていたから、使わせてもらっている。申し込み手続きをして一時間、誰にも邪魔されずに使える。ただし、出入り口付近には防犯カメラが設置されていて、多分、司書の先生か誰かがモニター越しに見ているはず。私からすれば、第三者に見られているという意識があるからこそ、こうして岸本君と部屋に二人きりでも、さほどどぎまぎせずにいられるのだけれども。それに部屋も広いのよね。少なくとも二十人は一度に集まって会議を開けるわ。
「ある人を元気にするために、過去の後悔の種をなくしてしまおうっていう目的で、何年も前に行くんだね」
「ええ」
「行かずに後悔の念だけきれいに消してもらうっていうのでは、だめなのかな」
「……それは気付かなかった。けれど、神様的な何かに解決を任せるより、本人がもう一度過去を体験する方がいいじゃない。後悔の念が消えるのを肌で実感できると思う」
「そういうものなのかな」
腕組みをしたまま、今度は首を傾げる岸本君。
「もういいじゃない。それよりも、岸本君の方は何を思い付いたのよ、願い事?」
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「絞れなくて? どうしたの。まだ決まってないとか言うんじゃないわよね。私に言わせておいて」
私ははやる気持ちをごまかすために、腰を浮かせて彼に詰め寄るような仕種をした。
「吾妻さんのだって、すべてを明かしてくれたことにはなってないと思う。誰の後悔を取り除くために行くのか、全然、具体的じゃない」
「ま、まあ、それはいいじゃない。岸本君も私と同じくらいは話してよ」
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