砂漠の国の王子は何しにニッポンに?

崎田毅駿

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言葉のお勉強

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 寒がりのように見えた二人だけれども、店の中ではさすがに防寒着を脱いでおり、すらっとした体格が一層強調されている。四人用のテーブルに座っているのはいいのだが、何故か二人とも同じサイドに横並びで収まっている。テーブルの上には、丼が八つくらいあった。レギュラーサイズが一つずつに、ミニサイズが六つ。先に入店しても、これだけの量となると男性二人でも食べ終わるのに時間を要するらしい。
(どうしよう……)
 声を掛けようか、考える結月。向こうはこっちに気付いていないみたいだし、今は消しゴム発見を優先すべき――そう素早く結論を下したところへ、
「おや、そこにいるのは最前の人」
 と、アッシャーに見付かってしまった。
 タイミングの悪さと、アッシャーの駆使するちょっぴりズレのある日本語に、つい苦笑いが浮かぶ。それをちゃんとした笑顔に成長させて、結月は応じた。
「はい、名前は結月と言います。アッシャーさん、アレッサさん、お茶漬けのお味はどうですか。お国の料理とはだいぶ違うかもしれませんけど?」
「いやいや、美味である。が、熱い。最初はたこ焼きよりも熱かった」
「お湯なのだから当然」
 隣のアレッサがやれやれと肩を落とし気味に短く言った。
 気安さを感じた結月は、いい機会だからと“取材”を試みる。尋ねるに当たって、二人のどちらに重点を置くべきか迷う。年長者は明らかにアレッサだが、この人からはアッシャーを立て、守るような雰囲気がそこはかとなく漂っている。結局、背の高い分、目が合いやすいとの理由でアレッサに。
「気になってることがあるのですが、聞いていいですか?」
「何なりとどうぞ。ただし、日本の言葉で何というのか知らない場合は、応えられないかもしれないとお含み置きを」
「分かりました。ご丁寧にどうもです。まず、食事時にお二人が横に並んで食べるのは、風習か何かですか」
「あ?」
 予想外のことを聞かれたためか、眉間にしわを作るアレッサ。アッシャーの方は食べることに復帰していて、やり取りをきちんとは聞いていなかった様子。口をもぐもぐさせながら、結月の方を見上げるばかりだ。
「おかしなこと聞きました? 聞いちゃいけないことだったら、取り消します」
「いえ。違う」
 アレッサは軽く握った右拳を口元に宛がい、わざとらしい咳払いをした。何やら笑いを堪える仕種に見える。
「失礼。違います。我々の国でもこのようなテーブルと椅子があれば、向き合うか、対角線に位置するように座ります」
「ではどうして今は、そんな位置関係に座っているのですか」
「それはお――」
 ため息交じりに言い掛けたアレッサだったが、はっとしたように口を閉じ、左隣のアッシャーの方をちらと見た。
「それはこの連れ合いが、学習をしないからでしてね」
「うん? ツレアイとは私のことか」
 目線を結月からアレッサに移したアッシャー。
「その通り」
「学習しないとは何を指して言っているのか」
「ほんの小一時間前のことを覚えておいででない?」
「ん? 今の日本語表現では分からない。母国語で言って」
 アッシャーの求めにアレッサは素直に応じ、流暢な(当たり前だけど)どこか外国の言語で言い直したようだ。
 聞き終えたアッシャーは特に怒るようなことはなく、「ああ、あれはすまなかった」と笑いながら応じる。
「本当にすまないと思っているのか、怪しく思います」
 語尾が急に丁寧語になったアレッサ。何が何やら分からない結月は、首を傾げるジェスチャーをした。
「すみません。私が当てこすりをしたせいで、時間を取ってしまった」
「いえ」
 結月が答えるのに被せて、アッシャーが「アテコスリとは何だ?」と聞く。アレッサは「あとで説明するから今は黙って」と早口で日本語、外国語で続けて言った。無論、外国語の方の意味が日本語と同じというのは結月の勘である。
「お待たせして申し訳ない。私達は最初は向き合って座っていたのだけれども、最初のお茶漬けが届いた直後、彼が――」
 アッシャーを指差す。
「――すぐに出汁を注ぎ、かき込むように食べ始めたのです。熱々のご飯に熱々の出汁をですよ」
「仕方がないであろう。美味そうに見えたんだ」
 アッシャーは“美味びみそう”と言った。結月が訂正の言葉を口にするまでもなく、アレッサが「そういうときは“美味おいしそう”と言うのだと、何度も教えたはず。若年性健忘症ですか」と、びしっと言った。
「もう分からない日本語を使わないでくれ」
 両耳を押さえるポーズをしたアッシャーが、いやいやをするみたいに首を左右に振った。こういう仕種をされると、ひどく子供っぽく見える。
 結月は不思議だった。往来で二人を初めて見たときはその言動から、どちらかというとアッシャーがアレッサを抑制していたように感じられたけれども、現在はまるっきり逆だ。
「熱がってそれでおしまいならまあよかったんですが、彼ときたらたこ焼きと同じように、吹き出してしまった。いや、もっと盛大だったかもしれませんね」
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