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第2章 隠居に成功(?)した魔王様
魔王様はかつての配下と出会う
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(城の中は……特に問題は無さそうだな。俺が生きてることになってたのは驚いたけど、普通に考えれば俺のすぐ後に別の魔王がその座に着いたって方が適当か。俺がまだ魔王にされてる理由までは分からないけど…下手に魔王が勇者に倒されたって話を流すよりは混乱は少なそうだしな)
ノアの隠蔽魔術は高度なこともあり、たとえ門番が守っている魔王城にも楽々侵入できてしまう。さらにこの城の持ち主だったことから罠なんかも簡単に避けられる。
しばらく城の中をノアはぐるぐると散策してみたが、どこも廃れた様子はなかった。
(新しい魔王はどうやらいい手腕をしているらしい…。それにしても…ルークにあげたチョーカーの反応がまだ城に残ってるってことはまだここにいるのか?てっきり人間の領土に帰ってるとばっかり思ってたけど…。もしかすると、新しい魔王にも仕えているのかもしれない。ルークは優秀だったからな。………ちょっと口うるさかったけど…)
「フェイロン様!」
声がした方向を見ると、かつての配下であるフェイロンが兵士らしき男に呼び止められているところだった。
「本日のご報告です!先ほど第三、第四前衛部隊の訓練が完了いたしました!訓練が終わった者から本日の業務は終了としております!」
「うむご苦労だったな、前線の様子はどうだ?」
「現在合計で二つの国と四つの町、七つの村が降伏を申し出て来ております!」
「魔王様は大人しく抵抗せずに恭順の意を示す者には保護を、と言っておいでだ。監視のための人員を何名か常駐させよう」
「はっ!」
(侵攻が進んでいるのか…?いやいや待て待て、人間側には少なくとも勇者がいる。戦力には事欠かないはず。なのになんで…)
走り去って行く兵士をフェイロンと同じく見送りながら、一体何が起こっているのか分からず、ノアは混乱していた。
「………そこにおられるのは、どなたですかな」
その声にノアはハッと我に返る。
周りを見渡しても自分とフェイロン以外の影は見えない。つまり今の言葉を向けられたのはーー。
「…返答無く…ならばこちらから出向くまでですな。なに…随分と年はとりましたが、お相手くらいはできますでしょう」
(フェイロンの気配察知の能力を侮っていた…!このままだと問答無用で戦闘になる…!)
一触即発といった空気に耐えかねて、ノアは慌てて隠蔽の魔術を解いた。
「待ってくれフェイロン!敵意は無い!隠れて見ていたことは謝る!すまなかった!」
両手をあげて敵意も武器も無いことを表す。しかし、ノアは今の自分の見た目が前と違うことに気がついて余計に焦っていた。
(そういえば俺の見た目変わったんだった!どうしよう…知らないやつから名前を呼ばれても不信感を煽るだけじゃ…!)
「魔王…殿…?」
「へ…っ?」
一方は死んだと思っていた人物が目の前に現れたことに驚き、もう一方はまさかそんなにすぐ自分が誰かをわかってもらえるとは思っておらず驚いた二人の間にはしばらくの間沈黙が流れた。
・・・・・・・・・・
「なるほど。つまりお前たちは今のところ全員息災なのだな、それならよかった。我の姿はもう前とずいぶん違うと思うが…流石にお前の目は誤魔化せなかったか」
「私はもう目で物を見てはおりませんからな。魔王殿と親交の深い者や、私のように目以外の何かで相手を読み取るような者ならばきっと魔王殿にはお気づきになるでしょう」
(じゃあルークに一目で気づいてもらうのは難しいか…。あいつは人間だからな)
「それにしても…私が生きている間に再び貴方様に相まみえることができて嬉しゅうございます。魔王殿が勇者に討たれたという報せを受けた時にはもう…」
「そうだったな…お前たちにはすまないことをしたと思っている」
「貴方様が謝ることではございません。きっと私の預かり知らぬことも大いにあるのでしょう。多くは聞きませぬ」
きっと聞きたいことも山ほどあるだろうに、フェイロンは黙って何も聞かないことを選択した。それが今のノアにとって何よりありがたかった。
「本当にありがとうフェイロン…。ところで、ルークがどこにいるかは知っているか?おおかた新しい魔王に仕えているのかと思っているのだが、少し話したいことがあってな…。できれば仕事の邪魔をしたくは無いのだが」
途端にフェイロンの顔がわかりやすく曇る。その様子にノアは違和感を覚えた。
「そうですね…。あの方の居場所を言うのは簡単ですが、その前に一つ魔王殿にお聞きしたい。もしあの方と引き換えに貴方様の大切なものがなくなるとしたら…貴方様はどこまで耐えられますかな」
「大切なもの……。あぁ、構わないぞ。その定義はわからないが、例えばそれが金銀財宝でも、身体でも、記憶でも、知識でも。我の何かでルークの無事が保証されるならば構わない。…まさか……ルークは今の魔王に囚われているのか…!?」
「いいえ、あの方は息災ですよ。今も。そうですな…では魔王殿が使っておられた部屋に向かわれるとよいと思いますぞ。そこに貴方様の求めるものはきっとございますでしょうな」
「我の…?わ、わかった。お前がそう言うならきっとそうなのだろう。礼を言うぞ、フェイロン」
「いえいえ、これしきのこと造作もございません」
てっきり使用人に充てられた一部屋なんかを言うと思っていたノアは、首を傾げながらもかつての自分の部屋へと向かう。その後ろ姿を眺めながら、フェイロンは呟いた。
「今のあの子を正気に戻せるのはきっと貴方様だけでしょう。どうか…どうかあの子を助けてあげてくださいませ、魔王殿…。」
ノアの隠蔽魔術は高度なこともあり、たとえ門番が守っている魔王城にも楽々侵入できてしまう。さらにこの城の持ち主だったことから罠なんかも簡単に避けられる。
しばらく城の中をノアはぐるぐると散策してみたが、どこも廃れた様子はなかった。
(新しい魔王はどうやらいい手腕をしているらしい…。それにしても…ルークにあげたチョーカーの反応がまだ城に残ってるってことはまだここにいるのか?てっきり人間の領土に帰ってるとばっかり思ってたけど…。もしかすると、新しい魔王にも仕えているのかもしれない。ルークは優秀だったからな。………ちょっと口うるさかったけど…)
「フェイロン様!」
声がした方向を見ると、かつての配下であるフェイロンが兵士らしき男に呼び止められているところだった。
「本日のご報告です!先ほど第三、第四前衛部隊の訓練が完了いたしました!訓練が終わった者から本日の業務は終了としております!」
「うむご苦労だったな、前線の様子はどうだ?」
「現在合計で二つの国と四つの町、七つの村が降伏を申し出て来ております!」
「魔王様は大人しく抵抗せずに恭順の意を示す者には保護を、と言っておいでだ。監視のための人員を何名か常駐させよう」
「はっ!」
(侵攻が進んでいるのか…?いやいや待て待て、人間側には少なくとも勇者がいる。戦力には事欠かないはず。なのになんで…)
走り去って行く兵士をフェイロンと同じく見送りながら、一体何が起こっているのか分からず、ノアは混乱していた。
「………そこにおられるのは、どなたですかな」
その声にノアはハッと我に返る。
周りを見渡しても自分とフェイロン以外の影は見えない。つまり今の言葉を向けられたのはーー。
「…返答無く…ならばこちらから出向くまでですな。なに…随分と年はとりましたが、お相手くらいはできますでしょう」
(フェイロンの気配察知の能力を侮っていた…!このままだと問答無用で戦闘になる…!)
一触即発といった空気に耐えかねて、ノアは慌てて隠蔽の魔術を解いた。
「待ってくれフェイロン!敵意は無い!隠れて見ていたことは謝る!すまなかった!」
両手をあげて敵意も武器も無いことを表す。しかし、ノアは今の自分の見た目が前と違うことに気がついて余計に焦っていた。
(そういえば俺の見た目変わったんだった!どうしよう…知らないやつから名前を呼ばれても不信感を煽るだけじゃ…!)
「魔王…殿…?」
「へ…っ?」
一方は死んだと思っていた人物が目の前に現れたことに驚き、もう一方はまさかそんなにすぐ自分が誰かをわかってもらえるとは思っておらず驚いた二人の間にはしばらくの間沈黙が流れた。
・・・・・・・・・・
「なるほど。つまりお前たちは今のところ全員息災なのだな、それならよかった。我の姿はもう前とずいぶん違うと思うが…流石にお前の目は誤魔化せなかったか」
「私はもう目で物を見てはおりませんからな。魔王殿と親交の深い者や、私のように目以外の何かで相手を読み取るような者ならばきっと魔王殿にはお気づきになるでしょう」
(じゃあルークに一目で気づいてもらうのは難しいか…。あいつは人間だからな)
「それにしても…私が生きている間に再び貴方様に相まみえることができて嬉しゅうございます。魔王殿が勇者に討たれたという報せを受けた時にはもう…」
「そうだったな…お前たちにはすまないことをしたと思っている」
「貴方様が謝ることではございません。きっと私の預かり知らぬことも大いにあるのでしょう。多くは聞きませぬ」
きっと聞きたいことも山ほどあるだろうに、フェイロンは黙って何も聞かないことを選択した。それが今のノアにとって何よりありがたかった。
「本当にありがとうフェイロン…。ところで、ルークがどこにいるかは知っているか?おおかた新しい魔王に仕えているのかと思っているのだが、少し話したいことがあってな…。できれば仕事の邪魔をしたくは無いのだが」
途端にフェイロンの顔がわかりやすく曇る。その様子にノアは違和感を覚えた。
「そうですね…。あの方の居場所を言うのは簡単ですが、その前に一つ魔王殿にお聞きしたい。もしあの方と引き換えに貴方様の大切なものがなくなるとしたら…貴方様はどこまで耐えられますかな」
「大切なもの……。あぁ、構わないぞ。その定義はわからないが、例えばそれが金銀財宝でも、身体でも、記憶でも、知識でも。我の何かでルークの無事が保証されるならば構わない。…まさか……ルークは今の魔王に囚われているのか…!?」
「いいえ、あの方は息災ですよ。今も。そうですな…では魔王殿が使っておられた部屋に向かわれるとよいと思いますぞ。そこに貴方様の求めるものはきっとございますでしょうな」
「我の…?わ、わかった。お前がそう言うならきっとそうなのだろう。礼を言うぞ、フェイロン」
「いえいえ、これしきのこと造作もございません」
てっきり使用人に充てられた一部屋なんかを言うと思っていたノアは、首を傾げながらもかつての自分の部屋へと向かう。その後ろ姿を眺めながら、フェイロンは呟いた。
「今のあの子を正気に戻せるのはきっと貴方様だけでしょう。どうか…どうかあの子を助けてあげてくださいませ、魔王殿…。」
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