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第2章 隠居に成功(?)した魔王様
魔王様は再会する
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考え事をしていると目的の場所に辿り着くのは案外早い。
ノアは勝手知ったる様子で扉をゆっくりと開けた。
部屋の中はシンと静まり返っていた。
外は太陽がほとんど暮れかけているが、部屋の中には明かりもない。
家具の配置もノアが最後に見たものとほとんど変わっていない。
そして窓際にあるベッドには、誰かが横たわっていた。
魔族にしか生まれない黒髪にはツノらしきものは見当たらない。羽も尻尾もベッドから出てはいないが、もしかすると隠れているだけかもしれない。
(なんだルークじゃないのか。フェイロンのことだから変な嘘はつかないと思うけれど…。ルークは一体どこにいるんだ…?)
近づいてみればどうやら眠っているらしい。規則正しい呼吸と共に布団が上下しているのがわかる。
フェイロンがノアをここに導いたのは、事情を話してルークの居場所を聞けということかと解釈し、とりあえず起こしてみようと手を伸ばした時だった。
「うぉ…っ!?」
突然掴まれる手首に驚く暇もなくベッドへと引き摺り込まれる。
反転する視界、背中は思い切りベッドに押し付けられて両腕は抵抗する間もなくのしかかられて拘束された。
「い、たたた…っおい!急に何を…」
顔の知らない不届き者にそう怒鳴った、はずだった。
黒く短い髪、まるで光を通さず濁った深海のような青い瞳、その整った顔立ちは幼さを全て削ぎ落とし、怜悧さすら感じる。
見た目は自分の記憶にあるものと全く違う。
しかしその瞳の色に、ノアは見覚えがあった。自らの役割に絶望し、命すらも投げうった、その瞳。
「まさか…ルーク…なの、か…?」
ノアがそう問うと、目の前の青年は昏い目を細めると、嬉しそうに笑った。
「ええ、今日もお待ちしておりましたよ。ノア様」
「お、大きくなったなぁ…!前はあれだけ小さかったのにまさか背丈まで越えられるとは!髪はどうしたんだ?染めたのか?今はどうしている?新しい魔王に仕えているのか?不自由はないか?」
「嫌ですねノア様。あなたはもうご存知のはずでしょう?それとも、今日はそういった趣向がよろしいのですか?」
「え…って、えぇっ!?おい、ルーク!その手はなんだ!何してんだこら!待て!」
「何って、いつものことでしょう?それとも、本日はそういった気分なのでしょうか」
「気分って…」
そこでノアは気づいた。ルークの目が自分を見ていないということに。
正確には『目は合っているが認識されていない』といった方が正しいのかもしれない。
きっと今のルークの目の前には、ノアの姿は幻のように映っているのだろう。目の前で死んだ本人なのだ、そう思うのも無理はない。
ルークにとってノアが目の前で死んだという事実は、己の半身を奪われるよりも辛いことだった。
最初こそ復讐という目的に突き動かされて身体を無理矢理にでも動かしていたが、時間が経つにつれ蓄積された疲労と襲い来る絶望は幻覚を生んだ。ノアは自分の隣にいるという幻覚を。
そして今ノアが目の前に本当に現れてしまったことで、ついに現実と幻覚の区別がつかなくなってしまったのだ。
「お前が…そうなったのは…俺のせい、なのか…?」
「なぜそんな悲しい顔をなさるのですか?僕はノア様、あなたがいれば他に何もいりません。あなたは僕の全てなのですから。あなたしか見えない今が何よりも僕にとっては幸せなのです」
「そうか………。お前は今までの俺ともこうしていたんだな」
「…??変なことを言いますね。ノア様はこの世界に1人だけでしょう?」
「そうだよな…うん、そうだな…」
ルークの心を壊してしまったのは自分なのだと、ノアは痛いほどに理解した。
そしてその贖罪は自分が果たすべきだと、そう思った。
「…おいで、ルーク」
「はい、ノア様」
ノアが手を広げれば、ルークは喜んでその中に飛び込んでくる。
そのまま服の合わせ目からルークの手が入り込み不埒な意図を持ってノアの身体の上を滑るが、たとえ服を脱がされても今度は抵抗しなかった。
まるでそこにあることを確かめるかのように、額から首筋を通り下へ下へとルークはノアの身体に口付けを落としていき、最後についばむように唇へと軽く口付けをする。
「お慕いしております、ノア様。僕は今日もあなたのために頑張りました。だから、いつものように褒めてください」
「あぁ…いい子だな、ルーク…」
そのまま唇が重なり、割り開かれ、舌が絡み合ったその瞬間、ノアは静かに目を閉じた。
ノアは勝手知ったる様子で扉をゆっくりと開けた。
部屋の中はシンと静まり返っていた。
外は太陽がほとんど暮れかけているが、部屋の中には明かりもない。
家具の配置もノアが最後に見たものとほとんど変わっていない。
そして窓際にあるベッドには、誰かが横たわっていた。
魔族にしか生まれない黒髪にはツノらしきものは見当たらない。羽も尻尾もベッドから出てはいないが、もしかすると隠れているだけかもしれない。
(なんだルークじゃないのか。フェイロンのことだから変な嘘はつかないと思うけれど…。ルークは一体どこにいるんだ…?)
近づいてみればどうやら眠っているらしい。規則正しい呼吸と共に布団が上下しているのがわかる。
フェイロンがノアをここに導いたのは、事情を話してルークの居場所を聞けということかと解釈し、とりあえず起こしてみようと手を伸ばした時だった。
「うぉ…っ!?」
突然掴まれる手首に驚く暇もなくベッドへと引き摺り込まれる。
反転する視界、背中は思い切りベッドに押し付けられて両腕は抵抗する間もなくのしかかられて拘束された。
「い、たたた…っおい!急に何を…」
顔の知らない不届き者にそう怒鳴った、はずだった。
黒く短い髪、まるで光を通さず濁った深海のような青い瞳、その整った顔立ちは幼さを全て削ぎ落とし、怜悧さすら感じる。
見た目は自分の記憶にあるものと全く違う。
しかしその瞳の色に、ノアは見覚えがあった。自らの役割に絶望し、命すらも投げうった、その瞳。
「まさか…ルーク…なの、か…?」
ノアがそう問うと、目の前の青年は昏い目を細めると、嬉しそうに笑った。
「ええ、今日もお待ちしておりましたよ。ノア様」
「お、大きくなったなぁ…!前はあれだけ小さかったのにまさか背丈まで越えられるとは!髪はどうしたんだ?染めたのか?今はどうしている?新しい魔王に仕えているのか?不自由はないか?」
「嫌ですねノア様。あなたはもうご存知のはずでしょう?それとも、今日はそういった趣向がよろしいのですか?」
「え…って、えぇっ!?おい、ルーク!その手はなんだ!何してんだこら!待て!」
「何って、いつものことでしょう?それとも、本日はそういった気分なのでしょうか」
「気分って…」
そこでノアは気づいた。ルークの目が自分を見ていないということに。
正確には『目は合っているが認識されていない』といった方が正しいのかもしれない。
きっと今のルークの目の前には、ノアの姿は幻のように映っているのだろう。目の前で死んだ本人なのだ、そう思うのも無理はない。
ルークにとってノアが目の前で死んだという事実は、己の半身を奪われるよりも辛いことだった。
最初こそ復讐という目的に突き動かされて身体を無理矢理にでも動かしていたが、時間が経つにつれ蓄積された疲労と襲い来る絶望は幻覚を生んだ。ノアは自分の隣にいるという幻覚を。
そして今ノアが目の前に本当に現れてしまったことで、ついに現実と幻覚の区別がつかなくなってしまったのだ。
「お前が…そうなったのは…俺のせい、なのか…?」
「なぜそんな悲しい顔をなさるのですか?僕はノア様、あなたがいれば他に何もいりません。あなたは僕の全てなのですから。あなたしか見えない今が何よりも僕にとっては幸せなのです」
「そうか………。お前は今までの俺ともこうしていたんだな」
「…??変なことを言いますね。ノア様はこの世界に1人だけでしょう?」
「そうだよな…うん、そうだな…」
ルークの心を壊してしまったのは自分なのだと、ノアは痛いほどに理解した。
そしてその贖罪は自分が果たすべきだと、そう思った。
「…おいで、ルーク」
「はい、ノア様」
ノアが手を広げれば、ルークは喜んでその中に飛び込んでくる。
そのまま服の合わせ目からルークの手が入り込み不埒な意図を持ってノアの身体の上を滑るが、たとえ服を脱がされても今度は抵抗しなかった。
まるでそこにあることを確かめるかのように、額から首筋を通り下へ下へとルークはノアの身体に口付けを落としていき、最後についばむように唇へと軽く口付けをする。
「お慕いしております、ノア様。僕は今日もあなたのために頑張りました。だから、いつものように褒めてください」
「あぁ…いい子だな、ルーク…」
そのまま唇が重なり、割り開かれ、舌が絡み合ったその瞬間、ノアは静かに目を閉じた。
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