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一章 出逢い編

過去と現在。

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理事長室に戻ってきた愛華、宮ノ内、桜崎の三人の間で妙な緊張感が漂っていた。愛華は何故か黙り込んでいる二人を見て首を傾げる。

「二人ともどうしたの?」

問われた二人は顔を見合わせ、暫く黙っていたが先に口を開いたのは宮ノ内優斗だった。

「愛華⋯。先程の事ですが、貴女が私に言った事を覚えていますか?」

「言った事?急に頭が痛くなったのは覚えているけど⋯」

考えている愛華を見ていた桜崎はそれを止めるように手を叩く。

「まぁ、良いじゃないか!こうして元気なのが一番だ!」

「ですが⋯!」

「やめんか。今は無理に“思い出しても”良いことなどない」

桜崎に睨まれた宮ノ内は、何かに耐えるように辛そうな顔をしながらも口をつぐんだ。

「そんな事よりさぁ⋯あの先輩どうしちゃったの?山河先生が死んだとか、私の事なんて化け物って言ってたし⋯急にイカれちゃったの?」

愛華の疑問に苦笑いする桜崎と宮ノ内。

「あの子か。ここでも山河先生と酷く言い合っていたからな」

「そうですね。まぁ一番は華野崎蓮に振られた事が大きいんじゃないですか?」

宮ノ内の発言で華野崎の存在を思い出した愛華。

「そうだ!その先輩はどこに行ったの?」

「私がお前の鞄を取りに行くように頼んだ」

驚く愛華を他所に優雅に紅茶を飲む桜崎。それに合わせた様にタイミング良く鞄を持った華野崎と香坂が部屋に入って来た。華野崎はバツが悪そうに愛華の元までやって来て急に頭を下げる。

「すみませんでした。愛華を巻き込む形となった事は俺の不覚です。」

「⋯⋯え!?どうしたんですか?頭でも打ちましたか!?」

愛華の反応を見てつい吹き出してしまう香坂だが、何故か様子がおかしい宮ノ内を見て場の空気を読み、咳払いをして自分で自分を収めた。華野崎も場の空気がおかしい事に気付いて桜崎を見る。

「ああ、君には関係ない事だ」

バッサリと言われてしまった華野崎はそれ以上は何もいう事なく黙ってしまう。また訪れたなんとも言えない気まずい空気。

「あの~⋯この気まずい空気は何なの?」

愛華が苦笑いしながら、多分気まずさの元凶であろう宮ノ内を見て言う。だが、宮ノ内が口を開く前に廊下が騒がしくなり、激しい口論が聞こえてきたので愛華達が様子を見に部屋から出て行くと、そこには錯乱した夕梨花を必死に取り押さえる教師達の他に泣き崩れる女性と、怒り狂う男性がいた。

「いい加減にしろ!!お前はなんて事をしてくれたんだ!!」

男性は錯乱する夕梨花の頬を殴りつけて怒鳴り散らしている。

「何よ!!本当にあいつらは化け物なのよ!!桜崎誠一郎が山河を殺したのよ!!」

「まだ言うか!!お前のような娘はうちにはいらん!!」

その様子を唖然と見つめるしかない愛華。自分の祖父を殺人者のように言う夕梨花も、そんな娘を殴りつけて怒鳴る多分父親だろう男性もここが学校と分かっているのだろうか?次々とやって来た生徒達は面白そうにどうなるのかを見守っている。

怒鳴りつけていた男性、相澤冬也の視界に今一番会いたくない人物が見えてしまい足がすくむのが分かる。

「ああ⋯桜崎会長⋯⋯この度は娘の無礼の数々⋯誠に申し訳ありません!!」

相澤は頭を床につける勢いの土下座で詫びるが、桜崎の空気は重く視線も冷たい。

「君達が最初に詫びるのは私の孫じゃないのか?」

桜崎が愛華を見ながら指摘すると、相澤は愛華の方に向き直り土下座して謝ろうとするが、そこに錯乱している夕梨花が割り込んでくる。

「化け物ども!!血を飲む化け物が!!死ね!!」

夕梨花の異常な行動や普通の家庭だと思っていた愛華が桜崎の孫と知り騒つく生徒達。


愛華は自分達を睨みつけて化け物と叫ぶ夕梨花を見て、自分の中で何かわからないが悲しさと怒りが込み上げてくるのを感じた瞬間に、先程のように激しい頭痛と共にある顔が浮かぶ。

「うぅ⋯母様⋯ごめんなさい⋯化け物で⋯ごめんなさい⋯」

頭を抱え蹲ったまま涙を流す愛華を見て錯乱していた夕梨花も、土下座していた相澤冬也も唖然としてしまう。だが、横にいた宮ノ内優斗だけはすぐに愛華を抱きしめて優しく背中を摩りながら、彼女と同じく苦しそうに悲しそうにしていた。

「”愛“⋯貴女は化け物なんかじゃありません。誰よりも優しくて尊い人です。」

「でも私は⋯母様と父様を⋯ごめんなさい⋯」

そんな愛華と宮ノ内の異様な光景を見ていた生徒達だが、チャイムが鳴ったので教師達から教室に促されて行く。華野崎と香坂も訳が分からずにただ見ている事しかできない。

桜崎は泣いている愛華を見て悔しそうに拳を強く握る。“昔”の出来事を嫌でも思い出してしまった桜崎は、その原因である相澤親子にその悍ましい程の憎しみを向ける。それは宮ノ内も同じで、涙を流す愛華を見て“昔”のあの激しい怒りが沸々と湧き上がってくる。

宮ノ内の腕の中で意識を無くしたように倒れた愛華を大切そうに横抱きに抱える。

「愛華は連れて行きます。桜崎⋯いや“城”、何も言うな。今彼女と離されたら⋯私は何をするか分からない」

「⋯はい、将太郎様。」

そう言って深々と頭を下げる桜崎。

「⋯何なんだ?」

そんなやり取りを意味も分からないまま見ているしかない華野崎。決してふざけている雰囲気でも無いが、別人格のような愛華や宮ノ内に対して急に頭を下げる桜崎も異様そのものだ。

それは香坂も同じだが、主人である宮ノ内の後をただついて行く事しか出来なかった。









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