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不意打ち

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 エレミアの朝は早い。
 まず寝起きにたっぷり魔法瓶2本分の聖水を生成して、身支度をして朝のお祈りをする。
 それから自室や宿・託児所の周りの掃除をして、質素な朝食を取り、聖書の勉強や仕事の準備をしたりする。

 いつも同じ繰り返しだが、今朝は違った。
 朝食後に聖書の勉強をしていると、部屋をノックする者がいた。
 誰だろうとドアを開けると、そこには笑顔のアイザックの姿があった。

「やぁ。突然来て悪いな。昨日ちゃんとお礼も言えなかったからさ」

 軽くウェーブした栗色の髪に、キリっとした眉毛と目元を持つ整った顔立ちで笑うと、爽やかさに極みがかかる。さすが街で人気の勇者というところだ。

「いえいえ。お気になさらずに。具合はいかがですか?えっと・・・」
「アイザック。アイクって呼んでくれてもいいぜ。おかげ様で体調は万全だ。本当にありがとう」
 
 アイザックはニコリと笑って右手を差し出した。

「・・・アイザックさん。私はエレミアと申します。無事に回復されて何よりです」

 エレミアは差し出された右手を握った。アイザックの日焼けした褐色の肌に対して、エレミアの青白い肌が目立つ。

「エレミア神父。お若いのに立派なことだ」
 アイザックは、エレミアの黒く艶のある髪と、大きく吊り目気味の瞳を見つめる。
 やっぱり女みたいに綺麗な顔してんな、とアイザックが無言で見つめていると、エレミアは不思議そうに見つめ返した。
 その表情もまた愛らしく思え、アイザックは慌てて手を離し、口を開く。

「あのさ、お礼に街を案内でもしようかなーと思ってさ!ここの主人に聞いたら、アンタ来て間もないって言うから」

 早口で言うと、本当はお礼というより一緒にいたいだけという下心がバレた気がして、アイザックの手は少し汗ばんだ。

「せっかくですが、私には子どもたちに授業をするという仕事が・・・」

 残念そうな表情を作り、エレミアは言う。

「それなら、託児所のシスター・マリアが代わってくれるって言ってたぜ!たまには休めってさ」

 手回しの早い人だと警戒しながらも、先日の昼間のことを口止めするチャンスかもしれないとエレミアは思った。

「分かりました。では、お言葉に甘えて一緒に観光いたしましょう」




*********


「で、ここがソフィアって姐さんがやってるパブで、魚のフライが最高なんだ」

 街のあちこちを案内しながら、アイザックは意気揚々と喋った。
 エレミアはついて回り、聞き役に徹していた。

「・・・なんか、無理させてるか?退屈?」
 
 叱られた仔犬のようにシュンとするアイザックに、エレミアは罪悪感を覚えた。

「いえ、私は元々こういう性格でして。気にされたら申し訳ありません」

 エレミアは真面目で落ち着いた性格だったが、それゆえに冷たい印象を持たれることも多かった。

「そっか・・・でも、クールなところ俺は好きだぜ。・・・取り敢えず、ここで飯でも食おうぜ!」

 アイザックは先ほど紹介したパブに入っていく。それほど空腹は感じなかったが、持っていた懐中時計を見ると午後3時を回る頃だった。
 昼食も取らずに街を案内してくれていたのか、と思いながら、エレミアも店へ入った。




*******


 アイザックは酒に弱い男だった。

「いつもは、こんなハイペースで飲まないんだけどねぇ」
 とパブの女主人のソフィアが呆れていた。
 結局、先日の口止めも出来ず、素面のエレミアがアイザックを宿まで送ることになった。

「アイザックさん、あなたの宿に着きましたよ」

 自分より数センチは背が高く、ガタイも良いアイザックを運び、息を乱しながらエレミアは言った。
 
「ん~?お家~?」
 ぼんやりとしながらアイザックは答える。
「フフ、なかなか積極的じゃん神父様」

 アイザックはフラフラしながら、部屋に入ろうとしたその時、よろけて床に倒れこんだ。
 エレミアも巻き込まれ、隣でうつ伏せにたおれてしまう。

「痛・・・飲み過ぎですよ、アイザックさ・・・」

 身体を起こそうとするエレミアの頬をアイザックが手のひらで包んだ。

「神父さんてさ、やっぱり童貞?」

 床に寝そべったアイザックはエレミアを見上げたまま言う。

「何を・・・んっ!」

 言い終わる前にエレミアはアイザックから引き寄せられ、唇を重ねられた。

 突然のことにエレミア身体が動かなくなり、腰を引き寄せられるのもされるがままにされていた。

「ん、んんっ!」

 生温かくぬるぬるして柔らかいものに口腔内を掻き乱され、混乱する。
 
「っ!・・・ん"!」

 生々しい感触と、間近で響く水音。

「・・・んっ」

 全身に電撃が走るような感覚、心臓が締め付けられるような感覚、股が熱くなるような感覚。
 初めての経験が一度に来て、エレミアはパニックになる。




「はは、やっぱ下手だね、可愛い」

 やっと唇を離したアイザックは、エレミアに笑いかけ、その後すぐに眠り込んでしまった。

 自分の唇を指で触りながらエレミアはしばらく呆然とし、アイザックに覆い被さったまま動くことが出来なかった。





















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