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第一章出会い

3 予定変更

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「本日はありがとうございました。」

  式典後の控えの間にて、王族が列席する名誉に感動しきりの関係者達は深くお辞儀をする。第二王子は極上の笑みでそれに応える。歳若いながらも堂々とした王子のふるまいに、そこにいたすべての者が魅了された。
  側近のハルバートは礼とねぎらいの言葉を王子の代わりに伝えた。
「ところで、今日の式典には装飾の彫金師の方々はおいでませんでしたね。」
彫金師は男性が一般的には多いのだが、担当の工房に女彫金師がいるという情報を入手していた。しかも腕がよくて美人との噂。王子の気分転換に、ちょうど良い、とハルバートは思ったのだ。
「ええ。今日は工房におります。」
「それは良かった。王子は伝統工芸にも関心がおありでして、もしよろしければ予定外ですが、制作しているところを見学できませんか?」
「き、今日?これからでございますか?」
「できませんか?」
「いや、いえ、あの、それがですね。」
「できませんか?」
これは、首を縦に振るまで、この圧力から解放されないだろうことは、明白だ。だらだらと汗をかきながら、断る口実を探すが、無駄な足掻きだった。
「わかりました。…ご案内いたします。」
彼はがっくりと肩を落とした。
「しばらくお待ちください。」
彼は慌てて工房に連絡する。電話の向こうはもう、パニック状態である。
  そこにいる者達から顔を見られない少し離れた場所にさりげなく移動していた第二王子は、その慌てぶりを見守る。それに気がついたハルバートも口角を上げる。
「困るって言われても、困るよ~急に決まった事だから、たのむよ。…もう、OKしちゃったから…怒るなよ……」
口元を手で隠しながら、冷や汗をかきながら、ゴニョゴニョとやり取りを続ける工房長 。

   少しの時間ののち、ハルバートの提案で工房見学が実現した。
  王子は工房の、普段は観光客の見学コースを見てまわった。観光客の受け入れはすでに中止にしており、内部に一般客はいない。王子は係の者が案内する説明をゆっくり聞きながら時々質問をする。
  予定を変更したものの、いつも通りの退屈な時間に、王子は内心ガッカリしつつも、ハルバートの笑みの真意を知るための我慢だと思い、いつものように熱心に説明を聞く王子を印象付ける。
  彫金師の作業場は見学コースからガラスで仕切られた少し離れた所にあった。作業をしているのは遠目にみえるのだが、近づくことはできない。
「作業しているところを近くでみられますか?  」
王子が問う。   
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