底辺令嬢と拗らせ王子~私死んでませんけど…まあいいか

羽兎里

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ミシェル三度

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当初の兄さまのご用は、事情聴取と私の必需品の調達だそうです。

「お前は背が高いし、ドレスなどはオーダーメイドの方がいいが、それが出来上がるまでは既製品を用立てるしかないだろう?」

それって普通に手に入る物ですか?
私サイズのドレスなど、そう売っていないでしょう。

「ちょうどいい。カリオンよりもここの方が店が多いからな。ここでお前に合いそうなドレスを買っていこう」
「あらステキ。それなら2丁目のブティック・リリーがいいわ。あそこにエレオノーラに似合いそうなドレスが有ったのよ。でもあんなドレス、着る機会がないわ~って思っていたけど、今なら平気よね」

しっかり店舗情報が入っちゃいました。
これは断れませんわ。

「それなら母様も支度をしてくるから、ちょっと待っていてね」
「母様も行くんですか?」
「当然でしょう?」

まあ兄様に似合うかどうか聞いても、良いアドバイスは貰えそうもないでしょうし。
ここは母様に来てもらった方がいいでしょう。


一日では事情聴取は終わらないから、今日は私が帰ってきたお祝いに、食事やショッピングをして、事情聴取は後日に延期になるそうです。

「でも、私は今日中にカリオンに帰るのですよ?」
「そうね。でも行き来は何度でも容易に出来るでしょう?」
「………そうですね」
「だから、母様たちが納得するまで、何日でも、こちらに通って来ていいのよ?」

そう言い、にっこりと笑う母様が怖い。

「分かりました…。兄様の許可が出たら、母様達の都合のいい日に合わせ、こちらに伺わせていただきます」
「エレオノーラ、こちらはどうにでもなるから、早めに母様のご用を済ましてしまいなさい………」

おぉジーザス!

さて、シルベスタ兄様以外は、久しぶりに集まったガルディア家です。
なぜか仕事に行くはずの父様までいます。
ならばと奮発して辻馬車を1日借りて、まずはミシェルの下に向かいました。

「ミシェルはサバストで出会った友達なの。たった2日足らずだったけれど、いろいろ話したのよ。彼女は少し訳が有って旅をしていて、その途中、大雨が降った日に同室になった子なの。そう言えば彼女、海に行きたいって言っていたわ………」

あれは夢か、現実だったのか。
私自身は事実だと思えてならないのだ。

「彼女、母様たちに実の娘の様に大切にしてもらっているって、喜んでいたっけ」
「エレオノーラ?」
「えっ?あぁ、何でもないわ」

そりゃ死んだ人と話したなんて、おかしいわよね。
やっぱりあれは夢、多分私の願望だったのだろう。


家からさほど離れていない丘の上に、我が家の墓所が有ります。
ミシェルがどんな花が好きか分からないから、お星さまを集めたようなペンタスの花束を用意しました。

真新しい墓石、ここにミシェルが眠っているんだ。
そう思い、そっと花束を手向けた。

「ミシェル、久しぶり。あなたとはまた会おうって約束したのに、叶わなくなっちゃったね。あなたは今何をしているのかしら。空の上で、その魂を癒しているの?それとも海を見に、旅を続けているのかなぁ」

夢の中でああ言っていたけれど、ミシェルならきっと、海を見に行って、その水をぺろりと舐めているだろうな……。

一通りお祈りを済ませ、母様たちと代わろうと立ち上がると、墓石の向こうで見知った人が手を振っています。

………………。

『あれぇ?もしかして私の事見えないの?いや、エレオノーラなら見えているよね』

………………。

『おかしいなぁ、見えないはずないんだけどな』

そう言いながら近づくと、私の顔の前で手をひらひらと振る。
もしもしミシェルさんや。
こんな所でいったい何をしてるんですか?

『久しぶりにエレオノーラに会いたくなって!』
「だめでしょ!さっさと天国に行って、しっかり休んで、また生まれ変わってきなさいよ!」
『でもさぁ~天国でフワフワしてばかりだと退屈で』
「退屈なんて我慢しなさい!大体あなた病気なんだから、しっかり休まなきゃダメでしょ!」
『私、死んでるから、もう病気じゃじゃないし~』

ミシェルはへらへらと楽しそうに笑うけど、それならそれで私は悲しいんだよ。
ああ、もうミシェルは死んでこの世にいないんだ、だから病気は関係ないんだ。
そう実感しちゃうから。

「エ、エレオノーラ……?一体どうしたの?」
「あぁ母様、ミシェルが私に会いに来てくれたの」

それを聞いた父様と兄様は顔を青くし、母様は呆れた様子で私の前を見つめた。

「そこにミシェルさんがいるの?」
「ええ」

すると母様は、その空間に向かって話しだした。

「ミシェルさん、あなたをエレオノーラの代わりにしてしまってごめんなさい。この子にもいろいろな事情があって、生きている事を公に出来なかったの。でももうそろそろバレそうだから、あなたを自由にしてあげられると思うわ」
『やだなぁ叔母さん、私は縛られている訳じゃないのよ。叔母さん達が、見ず知らずの私の事を大事にしてくれてる。その気持ちが嬉しくて、ここが居心地がいいから、ついここまで遊びに来ちゃうんです』

ダメだよミシェル、母様の事を叔母さん言ったら、不機嫌になるんだよ。
それを言うと、ミシェルったら、てへぺろしてました。

「エレオノーラ、彼女は何て?」
「え~、お……母様達がとても良くしてくれるから、居心地が良くてつい遊びに来ているだけで、縛られている訳じゃないと言ってます」
「まあそう、それなら良かった。そうだ、あなたミシェルさんの故郷がどこだか知ってる?」
「あっ!」

それから私達三人は、いろいろな事を話しました。
ミシェルの故郷は北の山岳地にある小さな町のクルーム。
そこに有る聖アンヌ教会併設の孤児院で育ったそうです。
名前を付けてくれたのはシスターカトリア。
ミシェルはその人を本当の母親のように思っていたらしいです。
それから年が経ち、ミシェルは自活する事になって隣町のバンウルフのランツ男爵家に住み込みで働く事になったそうです。
後は私に話した通りだって。

「了解。ミシェルの思いは必ず伝えるし、ミシェルは責任を持って、故郷に連れ帰るからね」
『え~、心配している人に、私の事を伝えてもらうのは嬉しいけれど、それを持って行くなんて、そんなのどうでもいいよ』
「よくないよ、だってミシェルなんだよ」

ミシェルは自分の墓石をチラッと見てから大きなため息をつき、私に言う。

『私、こうなったから言うけれど、あそこに有る物はもう私じゃないの』
「ミシェルはミシェルだよ!」
『じゃあさぁ、ここでエレオノーラと話している私は私じゃないの?それとも私、二人になっちゃった?』

あ~~~?
それは無いな……。

『私って死んじゃったんだよね。だから私という魂はそれを離れたの。そしてあれは魂が抜けた抜け殻。だから魂の無くなった物は、いずれ自然のまま朽ちていくんだよ。確かに私だったものを大切にしてくれるのは嬉しいけれど、それが好きな人の負担になるのは嫌だな』
「抜け殻?」

まあ確かに、生きていればその形を保てるけれど、死んでしまえば腐敗が始まる。
人は人間だからと大事にして、ゴキブリだから軽視する。
でも確かにそれらにはそれぞれ命が宿っている。
自然の摂理と哲学だな。

『命ってさ、みんな同じなんだよ。ただその種に宿った時点で在り方が変わるだけ。植物に宿れば1年で終える命も在れば、千年以上生き永らえる者も在る。それらは他の者の生きる糧になったり、その反対もある。虫だって動物だって同じだよ。現にエレオノーラだって色々な命を食べて生き永らえているでしょう?まあ人間は、生きている者をそのまま食べるなんて事は、そうしないでしょうけれど』
「そりゃそうかもしれないけれど、でも…ミシェルを粗末には出来ないよ」
『ありがとう。やっぱりエレオノーラだね。それはエレオノーラの気持ちだから、有り難く受け取っておくよ。でも、それが負担になったなら、いつでもその気持ちを捨ててしまっていいからね。』

そうか、きっと抜け殻って、生きている人にとっての心の拠り所なんだ。

『それから、私が急に現れなくなっても、それは私が生まれ変わる準備に入ったって事だから、心配しないでね』
「…分かった」

でもミシェルさんや、それって時々私の所に遊びに来るって事でしょうか。

んで、久しぶりの家族水入らずだろうから、私は邪魔をしないよって、墓石の上で手を振っているミシェルに別れを告げ、私達はショッピングに向かいました。



「父上…女性とは、かくも肝が据わった存在なんですね」
「いや、あれは我が家限定だと思うが………」
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