底辺令嬢と拗らせ王子~私死んでませんけど…まあいいか

羽兎里

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ブティック・リリー。
確かに私に合いそうなドレスを置いてあるお店でした。
看板の一番先頭に”特別なあなたの店”って書かれています。
確かに特別な店でしたよ。
”横に大きなあなた用コーナー”
”前に大きなあなた用コーナー”
”上に高いあなた用コーナー”
”上と横に大きなあなた用コーナー”
…………。
私は三番目ですね。
それでも母様の認めた店です、かなりステキなデザインが揃っていました。

「まーまーまー、当店にようこそ!」

店員さん?に、熱烈な歓迎を受けました。

「(コソッ)この人、私がショーウインドウを覗いていたら、品が落ちるって追っ払ったのよ!」
「(コソッ)よくいますよね、人の外見で差別する人」

今の母様は、貴婦人然としていますし、私も一応それなりに見えるだろうし。
父様と兄様は問題ありません。
きっと母様はこんな店来たくはなかったのだろうけど、私のために我慢してくれているのですね。

「娘の為に、急ぎドレスが必要となったので、仕方なく来たましたの。私達に納得 出来るものは有りまして?」

数年に一度、出るか出ないかの高飛車モードの母様です。

「ぜひお任せください。お嬢様のような100年に一人出るような、素晴らしい方のお手伝いをさせていただけるなど、光栄の極みです」
「100年に一人?私の娘も随分と軽いのですね」
「いえいえ、申し訳ございません、私も寿命の関係上、100年以上の事は聞き及んでおりませんので。しかしお嬢様ならば、この世が誕生してからこのかた、比べられる方などいらっしゃらない事でしょう」

ずいぶん、よいしょが上手ですね。

「急ぎドレスが必要とのこと、ちょうどお嬢様にお似合いになりそうな物が入ったばかりでございます。どうぞこちらへ」

そう言われ案内されたのは、売り場の一角ではなく、その向こうの扉の奥でした。
そこは、センスの良さそうな応接セットと、大きな姿見。
そしてその奥に、また扉が有ります。


ソファに座り、一息ついている私達の下に、何人もの店員さんが、ドレスを着たマネキンをいくつも押しながら現れました。

「大変お待たせしました。お嬢様に合う、いえいえ、着ていただきたい物を持ってまいりました、どうぞご覧になってください」

「凄い!綺麗…」

そこには、小さい頃に憧れた、お姫様のようなドレスが何点も並んでいました。

「どう?あなたが気に入りそうなものは有る?」
「はい!どれもステキで、私一人で決める事なんて出来ないわ!」

バラのような光沢のある赤。コスモスのように軽やかなピンク。木漏れ日のような儚いグリーン。夕焼けのような、美しいオレンジ。そして、雪のように光り輝く純白。
全てが私の目を捕らえる。

「なんて綺麗なの………」
「お気に入りになった様子で、何よりです」
「私この身長でしょ?これらを着れるなんて夢の様です。でも、これらにはあまり飾り気が無くて……出来れば私の痩せた体を隠せるような、フリルがたくさん付いているようなデザインがいいのだけれど」
「何を仰っているのですか。お嬢様のようなスタイルは、全ての女性が憧れるそのものです!」

そんな訳、無いじゃない。

「ならば試しに着て見ればいいじゃないの」
「母様……」
「それがよろしゅうございます。では………」

店員さんの指示で、他の女性がまた数着のドレスを持って来た。

「お嬢様の言われるのは、この様なお品でしょう?」

そう言い広げたのは、確かに私の考えていたデザインだ。
胸元にはたくさんのフリルをあしらい、袖はパフスリーブでボリュームを持たせている。
ウエストはキュッとリボンで絞め、たくさんのギャザーで膨らんだスカート。
そうそう!これなら私の体をカバーしてくれるはず。

「随分と子供っぽいデザインね」
「えー、とても可愛いじゃないですか、母様」

一度ぐらい、こんな素敵な物を着て見たいと思ってたんですよ。

「エレオノーラは何を着てもかわいいよ」
「その通りだよ」

ほらほら、父様達もそう言ってくれてます。

取りあえず、そのドレスを持った女性と共に、奥の扉に向かいます。
隣の部屋は、ふかふかのラグと大きな鏡が備え付けられた更衣室でした。

「お手伝いしますね」

そう言われた途端、手慣れた手つきで身ぐるみ剥されました。
まあ背中に並んだ、たくさんのクルミボタンは、外すの大変だからとても助かりましたが。
それから私押しのドレスを着てみました。

「ん~~~?」

完全に視力が戻った訳ではないので、やはりよく見えません。
昨日はましだったんだけどなぁ、仕方が無い。
私はバッグから眼鏡を取り出し、掛けようとしたら彼女に止められました。

「レディは自分の美しさの為なら、多少の事はがまんするものです」

魅力を振りまく為には、相手の顔がぼやけようと、我慢しろという事ですね。
めんどくさっ。

「もっと良く見えればいいのに」

そうつぶやいた途端、まるで目の前の霧が晴れるように、はっきりと周りが見えてくる。
世界ってこんなに美しかったのね。
そして鏡に映った私も美しく見える……気がする。

「お似合いだと思いますよ」

でしょ~、それにこのドレス可愛いし、何たってフリルたっぷりでやっせっぽちが隠せるもの。

「では、一度皆様にご覧になっていただきましょうか?」

そう言われ、手を引かれて扉を出た。
兄様や父様は、とても褒め称えてくれたけれど、母様の反応は今一。

「んー、やっぱりね」

母様はマネキンの林をうろつき、店員さんと何か話している。
やがて指定されたドレスと共に、もう一度試着室に戻った私でした。



はい、結果は母様の勝利でした。
マーメイドだか、Aだか、スリムだとか言うスタイルのドレスを着せられて、母様の目の確かさを感じました。

「補いたい所が有りましたなら、フリルなどでこの様にほんの少し足せす事も出来ます」
「では、このドレスの胸のレースを足して、バッスルラインの組み合わせるってどうですか?」

そうすれば、胸のレースと腰の膨らみで、ボン・キュ・ボンのお姉さんみたいになりませんか?

「くどくなり過ぎます。目を引きたいのならば一か所だけを強調した方がいいのです」

ダメか~~。
つまり私はこの先も、ボン・キュ・ボンのお姉さんにはなれないのだ。


今、私の前には母様の選んだドレスの中から、5着のドレスとインナーだの、バッグだの靴などが山積みになってます。

「私こんなにお金を出せません!」

髪を売ったお金がかなり残っているとはいえ、これを買うには少なすぎる。

「エレ、そんな事は心配しなくてもいい。これぐらいの物、私がプレゼントするから」
「兄様にそんな事をしていただく訳にはいきません」
「いや、私が仕事を始めてから、ずっと送りたかったのだが、母上から止められていて……」

母様か、母様ね、うん、母様には逆らえないものね………。
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