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神の怒り
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「一体どうなさったのですか!?」
今まで泣いていた三人が私を振り返り、驚いた様子で見つめる。
『あ、あんた、私達が見えるのかい?』
はい、見えますがそれが何か………あっ。
「もしかして、あなた達は人間ではないのですか?」
兄様には見えなかった事、一瞬のうちに姿が見えなくなった事。
それを思えば、その可能性は多大にある。
『あんたこそ人間かい?この私達と言葉を交わせるなんて』
「はい、少々面倒な肩書を持ってはいますが、私はれっきとした人間です」
『それならなぜ私達が見えるんだい?いや、それよりもあんたはあの人間達と話が出来るのか?』
「まあ、同じ種族ですから……」
『それならばあいつらに伝えてくれ、此処に居るといずれ死んじまうと。だから早く逃げるようにと!』
「それはどうして……」
『説明している時間が無いんだ。どうかお願いだよ、それを分かっている私達には伝える術が無かった。だからこうして悲しみ泣く事しかできなかったんだ。あの命を救えるなら、どうかお願いだ、すぐに此処から離れるように伝えておくれよ』
「でも、ただ逃げろと言ったところで、あの方達が逃げ出すとは思えません。簡単でもいいんです。どうしてなのかを教えてください」
『あぁっ!まどろっこしいね!いいかい良くお聞き。あの人間達がひどく自然を傷つけたから、この地をおさめる緑の精霊が、瀕死の状態になってしまったんだよ。だから緑の精霊を愛する大地の神が怒り狂い、ここに鉄槌を下すつもりだ。それが何時なのかは分からないが、近い事は間違いないだろう。そうなれば何が起こるか分からない。大地が裂けるか、山津波が来るか。下手をすれば大地の神の友である海の神が、手下を連れてここに大津波を起こしに来るかもしれない。だからお願いだ、早く、少しでも多く、あの命達を救ってやってくれ。私達はもう、何も出来ずに泣いているだけなのは耐えられないんだよ』
何と言う事だろう。
もうすぐこの地に大規模な災害が起こる!
それを伝える事が出来るのが私だけなら、それで少しでも多くの命が救われるのであれば、私はこれを伝えなければならない。
「一体どうしたんだエレオノーラ」
「兄様!大変です兄様、この女性達が……」
そう言えば、さっき兄様には見えなかったんだ、それにこの人たちは神様?精霊?
『私達はバンシー、泣き女とも言われる精霊だよ』
「だそうで!じゃない、今ここに精霊の方がいて、もうすぐここが大きな災害に見舞われ、多くの方が亡くなるそうです。だからそうなる前に出来るだけここから避難するように伝えてほしいと仰っています!!」
「何だって!!一体どうしてそんな事に」
「この大規模な開発が原因です!そのせいで緑の妖精が弱っていて、地の神が激怒しているそうです!」
「一体どんな災害が起こるんだ!一言に避難と言ってもどこに逃げればいい」
そんな説明をしているより、一刻も早く逃げてほしいのにぃ。
先ほどのバンシーさん達の気持ちが良く分かります。
だけどめくらめっぽう逃げろと言うだけでは……。
「…………この先、カゼインへの道は清浄な空気で溢れています。出来ればカゼイン方面へ逃げて下さい。もしそれが無理な方は、なるべく緑が残っている高台へと急いで!」
「分かった!私は馬車で取って返し、道々伝えながらオルガに戻る。悪いがお前はその能力で皆に知らせてもらえるか!」
「了解しました!」
兄様は慌てて馬車に飛び込み、御者さんは急ぎ馬車の向きを変え、元来た道を突っ走っていく。
私も空に浮かぶと、人の気配を探り移動しながら叫ぶ。
「神が怒っている!ここは危ない!みんなカゼインへと向かえ!それが無理なら出来る限り高い所に!!」
ただの小娘がこんな事を言ったところで、耳を貸してくれる人などほんの一握りにも満たないだろう。
だが今は空を飛ぶという、ただの小娘には出来ない事をやっている私を見て、それをまともに受け取ってくれる人が少しでもいてくれる事を祈ろう。
もし私にこの災いを止める事が出来るのであれば、全力を掛け戦うのだが、何せ相手は神だ。
私の命を掛けようと無理だと分かっている。
だから今は、私に出来る事を精いっぱいやるだけだ。
山を切り崩す作業員に叫び、材料を運ぶ隊列を止め、作業小屋から人々を叩き出す。
一人一人、他の地に送っている暇はない。
だから皆さん早く、早く走って!!
そして私も一刻も早く、この危険をみなに知らせねば。
兄様や私の行動により、連鎖反応のようにその危険が人々に知れ渡り、みなは急ぎカゼインの方へ、高台に、緑の残った山へ向かう。
胸をなでおろしながらも、残っている者がいないか、探索を続ける。
下を見下ろせば、小屋の扉から兄様が飛び出してきた。
多分私と同じように、取り残された人がいないか確認して回っているのだろう。
「兄様!?もうこの辺にいた人たちは、全て避難を開始しています。兄様も早く逃げて……」
そう叫んだ時だった。
ドオオンンッッッ!!!と大きな音とともに、大地がひどく跳ねた。
「兄様っ!!」
私は思い切り急降下をし、兄様の手を掴むと再び空に舞い上がった!
「大丈夫ですか兄様!」
「あぁ、私は大丈夫だ。エレオノーラは?無理をしていないか!?」
「まだ大丈夫ですよ?」
そう言い微笑む。
まだ大丈夫。
こんな所でへたばる訳にはいかない。
今まで泣いていた三人が私を振り返り、驚いた様子で見つめる。
『あ、あんた、私達が見えるのかい?』
はい、見えますがそれが何か………あっ。
「もしかして、あなた達は人間ではないのですか?」
兄様には見えなかった事、一瞬のうちに姿が見えなくなった事。
それを思えば、その可能性は多大にある。
『あんたこそ人間かい?この私達と言葉を交わせるなんて』
「はい、少々面倒な肩書を持ってはいますが、私はれっきとした人間です」
『それならなぜ私達が見えるんだい?いや、それよりもあんたはあの人間達と話が出来るのか?』
「まあ、同じ種族ですから……」
『それならばあいつらに伝えてくれ、此処に居るといずれ死んじまうと。だから早く逃げるようにと!』
「それはどうして……」
『説明している時間が無いんだ。どうかお願いだよ、それを分かっている私達には伝える術が無かった。だからこうして悲しみ泣く事しかできなかったんだ。あの命を救えるなら、どうかお願いだ、すぐに此処から離れるように伝えておくれよ』
「でも、ただ逃げろと言ったところで、あの方達が逃げ出すとは思えません。簡単でもいいんです。どうしてなのかを教えてください」
『あぁっ!まどろっこしいね!いいかい良くお聞き。あの人間達がひどく自然を傷つけたから、この地をおさめる緑の精霊が、瀕死の状態になってしまったんだよ。だから緑の精霊を愛する大地の神が怒り狂い、ここに鉄槌を下すつもりだ。それが何時なのかは分からないが、近い事は間違いないだろう。そうなれば何が起こるか分からない。大地が裂けるか、山津波が来るか。下手をすれば大地の神の友である海の神が、手下を連れてここに大津波を起こしに来るかもしれない。だからお願いだ、早く、少しでも多く、あの命達を救ってやってくれ。私達はもう、何も出来ずに泣いているだけなのは耐えられないんだよ』
何と言う事だろう。
もうすぐこの地に大規模な災害が起こる!
それを伝える事が出来るのが私だけなら、それで少しでも多くの命が救われるのであれば、私はこれを伝えなければならない。
「一体どうしたんだエレオノーラ」
「兄様!大変です兄様、この女性達が……」
そう言えば、さっき兄様には見えなかったんだ、それにこの人たちは神様?精霊?
『私達はバンシー、泣き女とも言われる精霊だよ』
「だそうで!じゃない、今ここに精霊の方がいて、もうすぐここが大きな災害に見舞われ、多くの方が亡くなるそうです。だからそうなる前に出来るだけここから避難するように伝えてほしいと仰っています!!」
「何だって!!一体どうしてそんな事に」
「この大規模な開発が原因です!そのせいで緑の妖精が弱っていて、地の神が激怒しているそうです!」
「一体どんな災害が起こるんだ!一言に避難と言ってもどこに逃げればいい」
そんな説明をしているより、一刻も早く逃げてほしいのにぃ。
先ほどのバンシーさん達の気持ちが良く分かります。
だけどめくらめっぽう逃げろと言うだけでは……。
「…………この先、カゼインへの道は清浄な空気で溢れています。出来ればカゼイン方面へ逃げて下さい。もしそれが無理な方は、なるべく緑が残っている高台へと急いで!」
「分かった!私は馬車で取って返し、道々伝えながらオルガに戻る。悪いがお前はその能力で皆に知らせてもらえるか!」
「了解しました!」
兄様は慌てて馬車に飛び込み、御者さんは急ぎ馬車の向きを変え、元来た道を突っ走っていく。
私も空に浮かぶと、人の気配を探り移動しながら叫ぶ。
「神が怒っている!ここは危ない!みんなカゼインへと向かえ!それが無理なら出来る限り高い所に!!」
ただの小娘がこんな事を言ったところで、耳を貸してくれる人などほんの一握りにも満たないだろう。
だが今は空を飛ぶという、ただの小娘には出来ない事をやっている私を見て、それをまともに受け取ってくれる人が少しでもいてくれる事を祈ろう。
もし私にこの災いを止める事が出来るのであれば、全力を掛け戦うのだが、何せ相手は神だ。
私の命を掛けようと無理だと分かっている。
だから今は、私に出来る事を精いっぱいやるだけだ。
山を切り崩す作業員に叫び、材料を運ぶ隊列を止め、作業小屋から人々を叩き出す。
一人一人、他の地に送っている暇はない。
だから皆さん早く、早く走って!!
そして私も一刻も早く、この危険をみなに知らせねば。
兄様や私の行動により、連鎖反応のようにその危険が人々に知れ渡り、みなは急ぎカゼインの方へ、高台に、緑の残った山へ向かう。
胸をなでおろしながらも、残っている者がいないか、探索を続ける。
下を見下ろせば、小屋の扉から兄様が飛び出してきた。
多分私と同じように、取り残された人がいないか確認して回っているのだろう。
「兄様!?もうこの辺にいた人たちは、全て避難を開始しています。兄様も早く逃げて……」
そう叫んだ時だった。
ドオオンンッッッ!!!と大きな音とともに、大地がひどく跳ねた。
「兄様っ!!」
私は思い切り急降下をし、兄様の手を掴むと再び空に舞い上がった!
「大丈夫ですか兄様!」
「あぁ、私は大丈夫だ。エレオノーラは?無理をしていないか!?」
「まだ大丈夫ですよ?」
そう言い微笑む。
まだ大丈夫。
こんな所でへたばる訳にはいかない。
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