あなたは僕の運命の番 出会えた奇跡に祝福を

羽兎里

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僕の置いてきた場所 1

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「旦那様、お坊ちゃまがまだ戻られないのですが。」

仕事から戻ると、執事のモーガンがそう報告してきた。

「エリックか?」

「はい。」

たしか今日は、マティアス殿と出かけたはずだ。

「大方、マティアス殿の屋敷に連れ込まれでもしたのだろう。式も間近だ。そう騒ぐことではない。」

「しかし、今までこのような事は有りませんでした。」

「下手に騒ぎ立てて、マティアス殿のご機嫌を損ねてはまずい。放っておけ。」

「ですが、万が一……。」

「しつこいぞモーガン。それより腹が空いた。食事の支度は出来ているのか。」

「…はい。すでに皆様お揃いになっております。」

そうか、ならばすぐ、私も向かわなければ。
愛するクロエを待たせる訳にはいかない。
クロエはただ一人と誓えるほどに愛している妻だ。
どうして彼女が運命の番では無ないのか不思議なぐらいだ。
彼女は私に4人もの子供を与えてくれた。
ただ残念だったのは、その子供の内、末の息子がΩだったことだ。
エリックさえαであったなら何も問題は無かったのだが、
あれもそれなりに役に立ってくれるようだから上出来だろう。
エリックは、取引先であり大株主でもあるマティアス殿の下に嫁ぐ事になった。
お陰で我が社はこの先も揺らぐことは無いだろう。

「待たせてすまなかった。」

そう言いながらクロエに口づけをしてから席に着く。
食事を始めてしばらくすると、クロエが心配そうに話しかけてきた。

「エリックがまだ戻らないそうです。」

「大丈夫だ、マティアス殿が一緒なのだ、心配する事はない。」

「でも、今までこんな事一度もなかったのに。」

「式まで後1月ほどだ。色々と話がはずんでいるのだろう。」

「でも……。」

「クロエ、私たちの時の事を思い出してごらん?」

するとクロエは、真っ赤になって恥ずかしそうに俯いてしまった。
幾つになっても変わらず可愛い人だ。

その日はとうとうエリックは帰って来なかったようだ。
嵐になったようだし、きっとマティアス殿の屋敷にそのまま泊めてもらったのだろう。
しかし、次の日もエリックは帰って来ないと報告が有った。

「困った奴だ。我儘を言ってマティアス殿に迷惑をかけてなければいいが。」

「念の為、マティアス様に、ご連絡を取ってもよろしいでしょうか。」

「やめておけ、もしマティアス殿のご機嫌を損ねるようなことになったら、どうするつもりだ。彼も常識のある人物だ。悪いようにはなさらないだろう。」

「でも旦那様、確認を取るだけでも。」

「もし何かあったとしても、それはそれで好都合ではないか。とにかく私は忙しいんだ。こんな事にかかわっている暇などない。」

「しかし、奥様も大変ご心配しているご様子ですし。」

「あれには、マティアス殿から連絡が来たとでも、うまく言っておけ。」

「……畏まりました。」

「何か不満がありそうだな。私のいう事が聞けないのか?」

「いえ、決してそんな事は。」

まあ、モーガンにとってエリックは孫同然に育ててきたのだから、心配なのは当たり前か。
とにかくそう騒ぎ立てて、事を大きくする必要も無いだろう。
もし何か間違いが有っても、それはそれで好都合かもしれない。
ヒートでも起きていて、項を噛まれれば1週間は離してもらえないだろう。
それならそれで、早めに肩の荷が下りると言うものだ。

「とにかく、マティアス殿からの連絡が有るまで待て。この話はこれで終わりだ。」

もしかしたら、もうエリックは、この屋敷に帰って来ないかもしれんな。フフフ……。



結局私達はとんでもない思い違いをしていたようだ。
たしかにエリックが家を空けてから1週間後、マティアス殿が我が家を訪れた。
しかしその傍らにはエリックではなく、見知らぬ一人の少年が肩を抱かれ立っていた。

「運命の番ですと?」

「はい、エリック君には大変申し訳ない事をしてしまいました。」

「いえ、そんな……、運命の番に出会ってしまったのであれば…仕方の無い事……。」

それならエリックは一体……。

「本来であれば、すぐにでもお詫びに窺わなければいけなかったはずなのですが、
なにせシャルル、私の番である彼の事ですが、シャルルに会ったことで私も何も考えられない状態になってしまいまして、
こちらに伺うのが遅くなってしまいました。」

「いえ、それに関しては、お気遣いなく。
エリックはもうマティアス殿の所へ嫁す事は叶わないとあきらめます。
ですが、取引の方は今まで通り……。」

「それは当然の事、いえ、今迄以上の尽力をするとお約束しましょう。」

「それはありがたい。それならばこちらからは、もう何も言う事は有りません。」

「それで、エリック君は?直に会ってお詫びを言いたいのですが。」

「いえ、それには及びません。あなた様のお気持ちは、私の方からちゃんと伝えておきます。」

「それでは私の気が済みません。あの日も画廊でシャルルに会ってから、エリック君の事がすっかり頭から抜け落ちてしまいまして、今考えれば誠に以て申し訳ない限りです。」

「……。」

「で、エリック君は?」

すると、傍で控えていたクロードが、1歩前に出ると、徐に口を開いた。

「エリック様は、マティアス様とお会いになると出かけた日より、屋敷の方に帰っておりません。」

モーガンが張り詰めたような声を絞り出す。

「そ、それは一体…。」

「あの…、私共としましては、てっきり、マティアス殿の所に泊まっていると思っておりまして……。」

仕方がなく、真実を告げた。
まったく何を言い出すんだモーガン。
マティアス殿に、いらぬ心配を掛けてしまうではないか。

「大変な事では有りませんか!ではエリック君は一体何処に、あれから1週間もたっている。
あの日の夜は確か嵐だったはず。もし彼の身に何かあったら。」

「いえ、そんなに気になさらないで下さい。所詮はΩ、そう騒ぎ立てる事でも無し。」

「あなたは何を言っているのです!仮にも自分の子でしょう!それを何てことを言うのですか!」

「そうムキにならずともいいでしょう。
取り合えず捜索届けは出しておきますから、あなたは何も心配なさらずに。
まぁ、Ωですから、捜索は後回しになる可能性もありますが。」

「何という事を……。」

「あ…、あぁ……、うわあぁぁぁぁぁ……。」

「奥様!」

クロエ、聞いていたのか!
クロエは泣き叫びながら、近くにあったペーパーナイフを手に取り、私に向かって突進してきた。
一体どうしたんだクロエ。
何をそんなに興奮している。
エリックか?エリックの事か?
お前には私がいるではないか。
いつだってお前を愛し、お前の事を思って、何でも買い与えていたではないか。
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