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僕の置いてきた場所 2

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「なぜ嘘をついたのです。
エリックはマティアス様の所に居ると仰ったではないですか。
私はそれを…あなたを信じていたのに………。
ではエリックは、エリックは今どこにいるのです!
帰らなくなってからもう1週間もたっているのですよ。
それを…あなたは心配では無いのですか!」

泣き叫びながら、クロエが私を問い詰める。
私は、クロエに刺された腹を押さえながら、必死に答えた。

「さっきまで私も、エリックはマティアス殿の所に居ると思っていたんだ。
今どこにいるなど知る訳が無いだろう。
この際エリックの事など、どうでもいいではないか。
私達にはまだ3人も優秀なαの子供達がいるのだから。」

「あなたは…、あなたと言う人は……。ああ、エリック!」

クロエは狂ったように部屋から走り去っていった。

「奥様!お待ち下さい!」

その後を
モーガンが追って行く。

「何故だ、クロエ……。」

「あなたには分からないのですか?」

「あなたには分かると言うのですか?妻が狂ってしまった訳が!」

「狂った…。
そう、私も所詮α。断言はできません。
しかし今のあなたほど愚かではないつもりだ。
さて、その状態で話を聞く気はありますか?
そして、エリック君に謝罪する気はありますか?」

「謝罪?何故だ。
私がエリックに何をした。
それに私はαだ。なぜΩであるエリックに謝らなければならない。
たかがΩに、我々αが謝る必要などないでしょう。」

「そう、あなたは何もしなかった。父親だと言うのに。
それが問題なのですよ。
それすらも分からないのですか?
あなたはすでに人間性を手放したと見える。
ああ、モーガンさん、ご苦労様です。」

見ればモーガンがクロエを連れ、扉の所に立っていた。

「どうやら今のあなたの言葉を、奥様達は聞かれてしまったようですね。
もう覚悟なさった方がいいようですよ。」

「覚悟、何の事だ。」

あぁ、畜生、傷が痛む。

「モーガン!ぼさっと突っ立っていないで、さっさと医者を呼べ!」

「すでに使いの者を出してあります。」

くそっ!

「では、時間が惜しいですが、医者が来るまで、少しお話をしましょうか。」

傷を押さえ、床にうずくまる私をしり目に、マティアス殿は番の手を引きソファへ掛ける。
そして、愛おしそうに肩を抱き寄せ、話し始めた。

「あなたはお気づきですか?あなたの愛する奥様がΩだと言う事を。」

そんな事は百も承知だ。
それでも愛し、結婚したのだから。

「そんな目で私を見るなら、いい加減気が付きなさい。
あなたが蔑ろにし、放置しようとしているエリック君も、
私の愛するシャルルも、あなたの愛している奥方と同じΩだと言う事を。」

しまった!マティアス殿は運命の番を得たばかりだ。
その番はΩ、それを否定されたとなれば、怒りを買うのは必至。

「いえ!私はシャルル殿の事を言ったつもりは有りません。
ただ、当家のエリックの事を言ったまで。」

「しかし、私が先ほどから聞いていると、あなたは何度もΩの事を蔑んだ発言をなさっていましたね。
御覧なさい、奥様のお顔を。」

クロエは、真っ青な顔に涙を浮かべていた。
そして、今まで見たことのない、憎しみを浮かべた表情で私を睨み付けている。
何故そんな顔で私を見る?
やめてくれ、愛するお前にそんな目で見られるなど、耐えられない。

「今回のエリック君の件。たとえ運命の番が現れたとは言え、私にもかなりの責任があります。
婚約破棄の件も含め、十分な償いはさせていただきたいと思っています。
でもそれはエリック君に対してです。」

「エリックなど行方不明で、いないでは有りませんか!」

「あなたはまだそんな事を仰しゃるのですか。
私はエリック君とエリック君の事に心を痛めている人に対して、詫びをしなければいけないが、
あなたに対しては、何ら責を負わなくてもいいようですね。
これ以上のお付き合いも一切お断りしたい。分かりましたか?」

「そんな!あなたに見限られたら、この先わが社は……。」

「私の愛する運命の番、シャルルはΩです。
Ωであるエリック君を否定すると言う事は、シャルルを否定されたと同じ。
私の気持ちは変わることは有りません。」

「……。」

すると、玄関から、慌ただしく人の声と足音がしてきた。

「あぁ、医者が到着したようですね。ではあなたは医者に診てもらえばいい。
エリック君はいったい今どうしているのでしょうね。
辛い思いをしていなければいいのですが。
まぁ、あなたにこんな嫌味を言っても通じないかもしれませんね。
とにかく私は、早々に私のできうる限りの手を打ちましょう。」

そう言うと、マティアス殿は番と共に扉に向かい歩きだした。

「マティアス様!」

クロエがマティアス殿を呼び止める。

「どうぞエリックの事、よろしくお願いします。」

そして横に並んでいたモーガンも、クロエと一緒に深々と頭を下げた

「お任せ下さい、とは言えません。
何せあれから1週間も経つのに何の動きもかったと言う事は、
多分身代金誘拐の線は薄いでしょう。
しかし、それも視野に入れ、事件、事故、あらゆる専門の方々に依頼します。
とにかく時間が惜しい。失礼します。」

そう言い残すと足早に出ていこうとする。
しかし番のシャルル殿は、つないでいた手を振り切り、こちらを振り返った。
そして、小さいが、はっきりとわかる声で

「ごめんなさい。」

そう言い、しっかりと頭を下げてから、マティアス殿の後を追って行った。


何故、こんな事になったんだ。
たかかΩが一人いなくなっただけで。

「クロエ……。」

このままではクロエを幸せにしてやることが出来なくなってしまう。
一体どうすればいいのだ。
私は寝室に運ばれ、医者の手当てを受ける事になった。
でも、傍らには何時もいてくれたクロエはいない。
今は気が高ぶっているのだろう。そのうちに冷静に戻るさ。

「旦那様。私も坊ちゃんの捜索を依頼してまいります。」

「マティアス殿がすると言ったのだから、そんなみっともない真似はしなくてもいい!」

そうだ、すべてはあのエリックが悪いんだ。

「あなたはまだそんな事を……。」

モーガンはそうつぶやくと、踵を返し出て行った。
その後に、扉が閉まる音と車の走り去る音。
ふん、捜索の依頼にでも行ったか。
まあいい、私の言いつけを聞かぬ奴などいらぬ。首だ。
それよりこの先の事を考えねば。
明日は無理をしてでもマティアス殿の所に窺って、ご機嫌を直していただかなくては。
いや、2,3日置いた方がいいかもしれない。
シャルル殿の気に入りそうなものを土産に持っていけば何とかなるか。
そうだ、クロエにも何か買ってやろう。新しいドレスか?いや、ネックレスがいいか。
早速に外商を呼び寄せよう。

しかし、すでに時は遅く。
クロエの愛は失われ、没落へのカウントダウンは始まっていた。
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