あなたは僕の運命の番 出会えた奇跡に祝福を

羽兎里

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幸せな忘却 1

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目が覚めると、僕は知らない部屋に一人でいた。
たしか昨日までいたのは、普通の病室だったはずなのに。
今寝ている部屋は、とてもじゃないけど、病室には見えない。

「一人なんだ……。」

慣れているはずなのに、なぜかとても心細い。
僕が入院してからは、誰かしら傍にいてくれた。
病院の先生、看護師さん、そしてアダム様。

「ここは一体どこなんだろう。
アダム様は、お忙しいのかな。」

知らない部屋にいきなり一人にされると、とても心細い。

締め切ったカーテンに手を伸ばし、外の様子を窺ってみる。
日はすでに高く、空は晴れている様子だ。

「海が見える……。」

海は好きだ、でも…怖い。
相反する気持ち。
僕は海を漂流していたらしいから、多分その時怖い事があったのかな…。

そうだ、僕は名前を思い出さなくちゃ。
思い出して、アダム様にお伝えしなければ。
未だに前の事は思い出せない。
だから、アダム様に名前すら伝えることが出来ていないんだ。
僕は思い浮かぶ限りの名前を拾い出す事にした。
ロバート、グレイアム、ベンジャミン、マティアス、

「他には何かあるかな、エリック、モーガン……。」

「君の口から、他の男の名が出るなど、やはりいい気がしないね。」

「アダム様!」

あぁ、アダム様。
僕は思わず両手を差し出し、ベッドから身を乗り出した。

「目を覚ましていたんだね、寂しかったかい?」

そう言いながら僕を抱きしめ、覆いかぶさるようにキスをしてくれる。

「はい、とても。」

「何か思い出したのか?」

「いえ、思い出せないかと、
今は頭に浮かんだ名前を挙げてみたのですが……。」

「そうか。」

そう言いながら、何度もキスをするアダム様の重さが心地いい。
なんて幸せなんだろう。

「あぁ、くそっ、ダメだ。」

そう言って、急にベッドから上体を起こしたアダム様。

「ど…うしたんですか?」

僕はアダム様のご機嫌を悪くさせてしまったのだろうか。

「ち、違う、このままでは君の体を気遣うことが出来なくなりそうだから、
決して君が悪い訳では無いんだ。

「僕なら……大丈夫ですよ?」

だって、アダム様に抱きしめられるの、とても気持ちがいいもの。

「君は何も分かっていない。」

アダム様は少し困ったような顔をしながら額にキスをしてくれた。

「さて、今日の気分はどうだい?もしよければ少し話をしようか。」

「はい。」

するとアダム様は、部屋のカーテンをすべて開けて放ってくれた。

「君が寝ている間に、私の家に運ばせてもらった。此処は君の部屋だよ。気に入ればいいのだが。」

僕の…部屋なんだ……。
そうだよね、アダム様に気に入ってもらえたからと言って、結婚してもらえるとは限らないものね…。
僕はてっきり、アダム様の家に住むなら、きっと一緒のベッドで眠れると勘違いしていたんだ。

「広くて、とてもきれいなお部屋ですね。」
僕は微笑みながらそう言った。
若草色を基調とした落ち着いた室内。
広い窓からは港が見え、海鳥が飛んでいる。
僕のいるベッドからも海が見えるように配置されていて、開け放たれた窓からは、涼しい風が通り抜けていく。

「海は好きなはずなんです。でも、今は少し怖い。」

「すまない、漂流していた時の恐怖が有るのだろう。俺が無神経だった。すぐに別の部屋を用意しよう。」

「いえ、そんなことしないで下さい。僕、此処からの眺めが好きです。此処に居れば、あなたがお仕事をしている時もあなたのいる海を見ていられるから。」

アダム様は、きっと海軍の方なんでしょう?大きな船で助けに来てくれたし、制服も着ていらっしゃった。

「ただ、こんな広い部屋に一人は、ちょっと寂しいですね。」

そんな僕の言葉を聞いたアダム様は、何かを考えこんでいるようだった。
その表情を見ていると、まるで百面相のようで、ちょっと面白い。

「よし、決めた!海軍をやめる!」

えっ!何言ってるんですか。もしかして僕が寂しいっていったから?
駄目ですよそんな事。

「俺も君と一時も離れていたくはない。
でも、俺には仕事が有る。
しかし、君を一人にしておくのは心配だ。
だからと言って、君の傍に他の奴を付き添わせるのも嫌だ。
幸いにして、私は海軍をやめても他の仕事もあるし、甲斐性もある。
だから俺は海軍はやめる。」

「ばかも休み休み言って下さい。」

気が付くと、いつの間にか一人の男性が、アダム様の近くに立っていた。

「この部屋に立ち入る事を許可した覚えはないが。」

「そうですね。求めた覚えも有りませんし。」

どなただろう。アダム様とはとても親しそうだ。

「初めまして、私は少将殿の副官を務めております。ジークフリード・ランセルと申します。
よろしくお願いしますね。」

そう言って、にっこりと笑ってくれる。

「すいません、僕は名前をまだ思い出せないので、名乗ることが出来ません。ごめんなさい。
でも僕の方こそよろしくお願いします。」

そう言って頭を下げた。

「あなたはいい子ですね。おまけにとても礼儀正しい。アダム様の番になど勿体ない。」

「お前!何を言っているんだ!」

「とにかく、あなたに運命の番が現れたと聞いた時から、海軍をやめると言い出す事は予想が付いていました。」

「それなら話が早い。すぐに退役届を提出して……。」

「この後の事はすべて計画済みであり、手配もしてあります。
それよりもあなたは肝心の話が全然済んでいないのでしょう?」

「何の事だ。」

「この方のお名前の事、今後の事、色々です。彼の体を気遣うのも結構ですが、
進めなければならない事は少しずつでも片付けておいた方がよろしいかと。」

「お前、誰に向かって口をきいて…。」

「あなたは、言われないと面倒な事はすぐ後回しにする癖がありますからね。
大方イチャイチャ、ベタベタが忙しくて、肝心な事が進んでいないと判断してここに伺った次第です。
私だって、あなたが休んでいる分、とんでもなく忙しいのですからね。」

「あっ…、ご、ごめんなさい。」

そうか、そうだった。
いつもアダム様が一緒に居てくれたのは、仕事を休んでいたからだよね。
今頃気が付くなんて、僕は何てぼけてるんだろう。
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