あなたは僕の運命の番 出会えた奇跡に祝福を

羽兎里

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幸せな忘却 2

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「僕は一人でも大丈夫です。だからアダム様はお仕事をなさって下さい。」

お仕事が有るのは当たり前なのに、僕がすっかり甘えてしまって、アダム様は仕事に行けなかったんだ。
僕はもう、自分の事は自分で出来るだろうし、一人でも大丈夫のはずだ。

「ジーク!余計な事を言うな。」

「ああ、申し訳ありません。あなたが悪い訳では無いのですよ。
ただ、今回は健康上の問題で待てをくらった狼が、獲物の周りをウロウロするぐらいしかできず、欲求不満を溜め込んで、頭が使い物にならないだけですから。」

「ハァ……。」

「いつもでしたら、たとえ在宅でも的確な指示が出せる人なんですが、
今はすっかり、残念な狼に成り下がってしまっているだけです。」

それって、えーと、あまり意味が掴めないけれど、雰囲気的にやっぱり僕のせいなんでしょうか…?

「狼とは何だ狼とは。上官に向かって。」

「狼ではダメですか?では肝っ玉が小さいネズミにしますか?どんな動物に例えてほしいか言ってもらえれば考慮しますよ。
しかしそんな事に文句を言う暇が有ったら、さっさとお話を始めていただきたいんですけどね。」

そう言うと、ジークフリードさんは扉に行き大きく開け放った。

「さあ、ベッドなどでは話は進まないでしょ?
お加減もよさそうですし、こちらのソファでお話なさって下さい。」

「ちっ!」

するとアダム様は、薄い肌掛けのまま、僕を抱え上げた。

「あの、僕歩けますよ。」

「無理をしては駄目だよ。何より俺がこうしたいのだから。」

嬉しい。けど、ジークフリードさんがいるから恥ずかしいです。

「すでに新婚のようですね。おめでとうございます。」

「何とでも言え。」

アダム様、とてもクールでかっこよく見えるけど、お顔がまた百面相っぽくなってますよ。
僕はちょっと面白くなって、アダム様の頬にムキュッと人差し指を押し付けた。

「この小悪魔め。」

僕の指がアダム様に食べられる。
くすぐったくて、体がピクピクしてしまう。

「ンッ、ンンッ!」

キャ―、ジークフリードさんがいたんだっけ!

「そんな事ばかりしているからお話が進まないのですよ、このエロ狼殿。早くして下さい。」

「五月蠅い!」

そう言いながらもアダム様は僕を隣の部屋に運んでくれる。
何やかや言っても、お二人は仲が良さそうだな。

アダム様は、僕を抱えたままソファに腰を下ろし、肌掛けで丁寧に包みなおしてくれた。

「重くありませんか?」

「全然。」

にっこりと笑いながら答えてくれる。
ぐるっと見渡せば、一見すると広い豪華な応接間だけれど、
テーブルも広そうだし、椅子の数も多いような気がする。
まるでこのまま、会議でもできそうな雰囲気だ。
でも僕が一番目を引いたのは、大きな窓と、そこからの景色。
この部屋からも海が見えるんだ……。

「さて、まず名前の件だが、いつまでも“君”では他人行儀で仕方がない。
早く名前で呼びたいのだが。何か思い当たるものはあったかい?」

何となく胸に響くものはいくつかあった。でも、それを口に出すのが怖い。だから…。

「いいえ、思い出せません。でも僕考えたんです。
もしアダム様のご迷惑でなければ、もう思い出せないままでもいいかなって。
無理に思い出さなくても、今がとても幸せだから。」

「俺もとても幸せだ。愛しているよ。」

そう言って、またギュッと抱き締め、キスしようとしてくれる。
うん、僕アダム様のキス好き。

「ですから、いい加減にして下さいと言っているのです。」

そう言って、目の前にいきなりティーカップが差し出された。
いつの間にかいなくなっていたジークフリードさんが、
いつの間にかお茶の支度をして下さっていたのですね。何か、すごく出来る人って感じです。

「私が少しでも目を離すと、とたんにこれですか。
まあ仕方がない事とは言え、これからは少将殿ではなく、ずっとエロ狼とお呼びしましょうか。」

「この子に触れることが出来ないのなら、エロ狼だろうが何だろうが構わない。」

「ほう、あの頑固で堅物だったあなたがプライドすら手放しましたか。
運命の番とはすごい物なんですね。少し憧れます。」

え、アダム様って頑固で堅物なんですか?

「とにかく、エロ狼殿は済ませたと思いますが、あなたはまだ朝食を召し上がって無いでしょう?
簡単なものを用意しましたから、お話をしながらでも召し上がって下さい。」

そう言いながら、サンドイッチと紅茶をテーブルに並べてくれた。

「さて、まず名前からでしたね?
私はその隅の椅子で空気になって居ますのでチャッチャと片付けてください。
いいですね。空気になって、い、ま、す、からね。エロ狼殿。」

そう言うと、自分のカップを手に部屋の隅にあるサイドテーブルのセットに移動していった。

「どうぞ。」

椅子に腰かけたジークフリードさんが、アダム様を促す。

「わ、分かった。だが、まず少しでも食べた方がいい。」

そう言いながら、アダム様がサンドイッチを一つ手に取り、僕の口へ運ぶ。
まぁ、いつもの事だから、今更抵抗しても無駄な事は分かっていたので、僕は大人しく口を開けた。
結局僕はサンドイッチを一つしか食べられなかったので、
もう一つは、僕がアダム様にアーンして、とても喜んでいただいた。


「さて、名前の件だが、君が思い出せないのであれば、
この際新しい名前を付け、戸籍を作ってしまおうと思ってね。どうだろう。」

「うれしいです。僕も、いつも“君”ではちょっと寂しかったから。
アダム様が付けて下さいますか?」

「俺でいいのか?自分で好きな名が有れば付けてもいいんだぞ。」

「いえ、アダム様に付けてほしいんです。
何て言うか、名付け親と言うか。」

「………。」

「え、いえいえいえ、違います!言い間違えました!
僕はアダム様の物って感じで嬉しいんです。」

「よかった、一瞬どうしようかと思った。」

隅の方で、押し殺したような笑い声が聞こえたけど、
ジークフリードさんも呆れちゃいましたよね、きっと。
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