6 / 74
幸せな忘却 2
しおりを挟む
「僕は一人でも大丈夫です。だからアダム様はお仕事をなさって下さい。」
お仕事が有るのは当たり前なのに、僕がすっかり甘えてしまって、アダム様は仕事に行けなかったんだ。
僕はもう、自分の事は自分で出来るだろうし、一人でも大丈夫のはずだ。
「ジーク!余計な事を言うな。」
「ああ、申し訳ありません。あなたが悪い訳では無いのですよ。
ただ、今回は健康上の問題で待てをくらった狼が、獲物の周りをウロウロするぐらいしかできず、欲求不満を溜め込んで、頭が使い物にならないだけですから。」
「ハァ……。」
「いつもでしたら、たとえ在宅でも的確な指示が出せる人なんですが、
今はすっかり、残念な狼に成り下がってしまっているだけです。」
それって、えーと、あまり意味が掴めないけれど、雰囲気的にやっぱり僕のせいなんでしょうか…?
「狼とは何だ狼とは。上官に向かって。」
「狼ではダメですか?では肝っ玉が小さいネズミにしますか?どんな動物に例えてほしいか言ってもらえれば考慮しますよ。
しかしそんな事に文句を言う暇が有ったら、さっさとお話を始めていただきたいんですけどね。」
そう言うと、ジークフリードさんは扉に行き大きく開け放った。
「さあ、ベッドなどでは話は進まないでしょ?
お加減もよさそうですし、こちらのソファでお話なさって下さい。」
「ちっ!」
するとアダム様は、薄い肌掛けのまま、僕を抱え上げた。
「あの、僕歩けますよ。」
「無理をしては駄目だよ。何より俺がこうしたいのだから。」
嬉しい。けど、ジークフリードさんがいるから恥ずかしいです。
「すでに新婚のようですね。おめでとうございます。」
「何とでも言え。」
アダム様、とてもクールでかっこよく見えるけど、お顔がまた百面相っぽくなってますよ。
僕はちょっと面白くなって、アダム様の頬にムキュッと人差し指を押し付けた。
「この小悪魔め。」
僕の指がアダム様に食べられる。
くすぐったくて、体がピクピクしてしまう。
「ンッ、ンンッ!」
キャ―、ジークフリードさんがいたんだっけ!
「そんな事ばかりしているからお話が進まないのですよ、このエロ狼殿。早くして下さい。」
「五月蠅い!」
そう言いながらもアダム様は僕を隣の部屋に運んでくれる。
何やかや言っても、お二人は仲が良さそうだな。
アダム様は、僕を抱えたままソファに腰を下ろし、肌掛けで丁寧に包みなおしてくれた。
「重くありませんか?」
「全然。」
にっこりと笑いながら答えてくれる。
ぐるっと見渡せば、一見すると広い豪華な応接間だけれど、
テーブルも広そうだし、椅子の数も多いような気がする。
まるでこのまま、会議でもできそうな雰囲気だ。
でも僕が一番目を引いたのは、大きな窓と、そこからの景色。
この部屋からも海が見えるんだ……。
「さて、まず名前の件だが、いつまでも“君”では他人行儀で仕方がない。
早く名前で呼びたいのだが。何か思い当たるものはあったかい?」
何となく胸に響くものはいくつかあった。でも、それを口に出すのが怖い。だから…。
「いいえ、思い出せません。でも僕考えたんです。
もしアダム様のご迷惑でなければ、もう思い出せないままでもいいかなって。
無理に思い出さなくても、今がとても幸せだから。」
「俺もとても幸せだ。愛しているよ。」
そう言って、またギュッと抱き締め、キスしようとしてくれる。
うん、僕アダム様のキス好き。
「ですから、いい加減にして下さいと言っているのです。」
そう言って、目の前にいきなりティーカップが差し出された。
いつの間にかいなくなっていたジークフリードさんが、
いつの間にかお茶の支度をして下さっていたのですね。何か、すごく出来る人って感じです。
「私が少しでも目を離すと、とたんにこれですか。
まあ仕方がない事とは言え、これからは少将殿ではなく、ずっとエロ狼とお呼びしましょうか。」
「この子に触れることが出来ないのなら、エロ狼だろうが何だろうが構わない。」
「ほう、あの頑固で堅物だったあなたがプライドすら手放しましたか。
運命の番とはすごい物なんですね。少し憧れます。」
え、アダム様って頑固で堅物なんですか?
「とにかく、エロ狼殿は済ませたと思いますが、あなたはまだ朝食を召し上がって無いでしょう?
簡単なものを用意しましたから、お話をしながらでも召し上がって下さい。」
そう言いながら、サンドイッチと紅茶をテーブルに並べてくれた。
「さて、まず名前からでしたね?
私はその隅の椅子で空気になって居ますのでチャッチャと片付けてください。
いいですね。空気になって、い、ま、す、からね。エロ狼殿。」
そう言うと、自分のカップを手に部屋の隅にあるサイドテーブルのセットに移動していった。
「どうぞ。」
椅子に腰かけたジークフリードさんが、アダム様を促す。
「わ、分かった。だが、まず少しでも食べた方がいい。」
そう言いながら、アダム様がサンドイッチを一つ手に取り、僕の口へ運ぶ。
まぁ、いつもの事だから、今更抵抗しても無駄な事は分かっていたので、僕は大人しく口を開けた。
結局僕はサンドイッチを一つしか食べられなかったので、
もう一つは、僕がアダム様にアーンして、とても喜んでいただいた。
「さて、名前の件だが、君が思い出せないのであれば、
この際新しい名前を付け、戸籍を作ってしまおうと思ってね。どうだろう。」
「うれしいです。僕も、いつも“君”ではちょっと寂しかったから。
アダム様が付けて下さいますか?」
「俺でいいのか?自分で好きな名が有れば付けてもいいんだぞ。」
「いえ、アダム様に付けてほしいんです。
何て言うか、名付け親と言うか。」
「………。」
「え、いえいえいえ、違います!言い間違えました!
僕はアダム様の物って感じで嬉しいんです。」
「よかった、一瞬どうしようかと思った。」
隅の方で、押し殺したような笑い声が聞こえたけど、
ジークフリードさんも呆れちゃいましたよね、きっと。
お仕事が有るのは当たり前なのに、僕がすっかり甘えてしまって、アダム様は仕事に行けなかったんだ。
僕はもう、自分の事は自分で出来るだろうし、一人でも大丈夫のはずだ。
「ジーク!余計な事を言うな。」
「ああ、申し訳ありません。あなたが悪い訳では無いのですよ。
ただ、今回は健康上の問題で待てをくらった狼が、獲物の周りをウロウロするぐらいしかできず、欲求不満を溜め込んで、頭が使い物にならないだけですから。」
「ハァ……。」
「いつもでしたら、たとえ在宅でも的確な指示が出せる人なんですが、
今はすっかり、残念な狼に成り下がってしまっているだけです。」
それって、えーと、あまり意味が掴めないけれど、雰囲気的にやっぱり僕のせいなんでしょうか…?
「狼とは何だ狼とは。上官に向かって。」
「狼ではダメですか?では肝っ玉が小さいネズミにしますか?どんな動物に例えてほしいか言ってもらえれば考慮しますよ。
しかしそんな事に文句を言う暇が有ったら、さっさとお話を始めていただきたいんですけどね。」
そう言うと、ジークフリードさんは扉に行き大きく開け放った。
「さあ、ベッドなどでは話は進まないでしょ?
お加減もよさそうですし、こちらのソファでお話なさって下さい。」
「ちっ!」
するとアダム様は、薄い肌掛けのまま、僕を抱え上げた。
「あの、僕歩けますよ。」
「無理をしては駄目だよ。何より俺がこうしたいのだから。」
嬉しい。けど、ジークフリードさんがいるから恥ずかしいです。
「すでに新婚のようですね。おめでとうございます。」
「何とでも言え。」
アダム様、とてもクールでかっこよく見えるけど、お顔がまた百面相っぽくなってますよ。
僕はちょっと面白くなって、アダム様の頬にムキュッと人差し指を押し付けた。
「この小悪魔め。」
僕の指がアダム様に食べられる。
くすぐったくて、体がピクピクしてしまう。
「ンッ、ンンッ!」
キャ―、ジークフリードさんがいたんだっけ!
「そんな事ばかりしているからお話が進まないのですよ、このエロ狼殿。早くして下さい。」
「五月蠅い!」
そう言いながらもアダム様は僕を隣の部屋に運んでくれる。
何やかや言っても、お二人は仲が良さそうだな。
アダム様は、僕を抱えたままソファに腰を下ろし、肌掛けで丁寧に包みなおしてくれた。
「重くありませんか?」
「全然。」
にっこりと笑いながら答えてくれる。
ぐるっと見渡せば、一見すると広い豪華な応接間だけれど、
テーブルも広そうだし、椅子の数も多いような気がする。
まるでこのまま、会議でもできそうな雰囲気だ。
でも僕が一番目を引いたのは、大きな窓と、そこからの景色。
この部屋からも海が見えるんだ……。
「さて、まず名前の件だが、いつまでも“君”では他人行儀で仕方がない。
早く名前で呼びたいのだが。何か思い当たるものはあったかい?」
何となく胸に響くものはいくつかあった。でも、それを口に出すのが怖い。だから…。
「いいえ、思い出せません。でも僕考えたんです。
もしアダム様のご迷惑でなければ、もう思い出せないままでもいいかなって。
無理に思い出さなくても、今がとても幸せだから。」
「俺もとても幸せだ。愛しているよ。」
そう言って、またギュッと抱き締め、キスしようとしてくれる。
うん、僕アダム様のキス好き。
「ですから、いい加減にして下さいと言っているのです。」
そう言って、目の前にいきなりティーカップが差し出された。
いつの間にかいなくなっていたジークフリードさんが、
いつの間にかお茶の支度をして下さっていたのですね。何か、すごく出来る人って感じです。
「私が少しでも目を離すと、とたんにこれですか。
まあ仕方がない事とは言え、これからは少将殿ではなく、ずっとエロ狼とお呼びしましょうか。」
「この子に触れることが出来ないのなら、エロ狼だろうが何だろうが構わない。」
「ほう、あの頑固で堅物だったあなたがプライドすら手放しましたか。
運命の番とはすごい物なんですね。少し憧れます。」
え、アダム様って頑固で堅物なんですか?
「とにかく、エロ狼殿は済ませたと思いますが、あなたはまだ朝食を召し上がって無いでしょう?
簡単なものを用意しましたから、お話をしながらでも召し上がって下さい。」
そう言いながら、サンドイッチと紅茶をテーブルに並べてくれた。
「さて、まず名前からでしたね?
私はその隅の椅子で空気になって居ますのでチャッチャと片付けてください。
いいですね。空気になって、い、ま、す、からね。エロ狼殿。」
そう言うと、自分のカップを手に部屋の隅にあるサイドテーブルのセットに移動していった。
「どうぞ。」
椅子に腰かけたジークフリードさんが、アダム様を促す。
「わ、分かった。だが、まず少しでも食べた方がいい。」
そう言いながら、アダム様がサンドイッチを一つ手に取り、僕の口へ運ぶ。
まぁ、いつもの事だから、今更抵抗しても無駄な事は分かっていたので、僕は大人しく口を開けた。
結局僕はサンドイッチを一つしか食べられなかったので、
もう一つは、僕がアダム様にアーンして、とても喜んでいただいた。
「さて、名前の件だが、君が思い出せないのであれば、
この際新しい名前を付け、戸籍を作ってしまおうと思ってね。どうだろう。」
「うれしいです。僕も、いつも“君”ではちょっと寂しかったから。
アダム様が付けて下さいますか?」
「俺でいいのか?自分で好きな名が有れば付けてもいいんだぞ。」
「いえ、アダム様に付けてほしいんです。
何て言うか、名付け親と言うか。」
「………。」
「え、いえいえいえ、違います!言い間違えました!
僕はアダム様の物って感じで嬉しいんです。」
「よかった、一瞬どうしようかと思った。」
隅の方で、押し殺したような笑い声が聞こえたけど、
ジークフリードさんも呆れちゃいましたよね、きっと。
82
あなたにおすすめの小説
巣ごもりオメガは後宮にひそむ【続編完結】
晦リリ@9/10『死に戻りの神子~』発売
BL
後宮で幼馴染でもあるラナ姫の護衛をしているミシュアルは、つがいがいないのに、すでに契約がすんでいる体であるという判定を受けたオメガ。
発情期はあるものの、つがいが誰なのか、いつつがいの契約がなされたのかは本人もわからない。
そんななか、気になる匂いの落とし物を後宮で拾うようになる。
第9回BL小説大賞にて奨励賞受賞→書籍化しました。ありがとうございます。
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
うそつきΩのとりかえ話譚
沖弉 えぬ
BL
療養を終えた王子が都に帰還するのに合わせて開催される「番候補戦」。王子は国の将来を担うのに相応しいアルファであり番といえば当然オメガであるが、貧乏一家の財政難を救うべく、18歳のトキはアルファでありながらオメガのフリをして王子の「番候補戦」に参加する事を決める。一方王子にはとある秘密があって……。雪の積もった日に出会った紅梅色の髪の青年と都で再会を果たしたトキは、彼の助けもあってオメガたちによる候補戦に身を投じる。
舞台は和風×中華風の国セイシンで織りなす、同い年の青年たちによる旅と恋の話です。
運命だなんて言うのなら
riiko
BL
気が付いたら男に組み敷かれていた。
「番、運命、オメガ」意味のわからない単語を話す男を前に、自分がいったいどこの誰なのか何一つ思い出せなかった。
ここは、男女の他に三つの性が存在する世界。
常識がまったく違う世界観に戸惑うも、愛情を与えてくれる男と一緒に過ごし愛をはぐくむ。この環境を素直に受け入れてきた時、過去におこした過ちを思い出し……。
☆記憶喪失オメガバース☆
主人公はオメガバースの世界を知らない(記憶がない)ので、物語の中で説明も入ります。オメガバース初心者の方でもご安心くださいませ。
運命をみつけたアルファ×記憶をなくしたオメガ
性描写が入るシーンは
※マークをタイトルにつけますのでご注意くださいませ。
物語、お楽しみいただけたら幸いです。
【完結済】極上アルファを嵌めた俺の話
降魔 鬼灯
BL
ピアニスト志望の悠理は子供の頃、仲の良かったアルファの東郷司にコンクールで敗北した。
両親を早くに亡くしその借金の返済が迫っている悠理にとって未成年最後のこのコンクールの賞金を得る事がラストチャンスだった。
しかし、司に敗北した悠理ははオメガ専用の娼館にいくより他なくなってしまう。
コンサート入賞者を招いたパーティーで司に想い人がいることを知った悠理は地味な自分がオメガだとバレていない事を利用して司を嵌めて慰謝料を奪おうと計画するが……。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される
秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました!
最終17位でした!応援ありがとうございます!
あらすじ
魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。
ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。
死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――?
傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。
Ωの不幸は蜜の味
grotta
BL
俺はΩだけどαとつがいになることが出来ない。うなじに火傷を負ってフェロモン受容機能が損なわれたから噛まれてもつがいになれないのだ――。
Ωの川西望はこれまで不幸な恋ばかりしてきた。
そんな自分でも良いと言ってくれた相手と結婚することになるも、直前で婚約は破棄される。
何もかも諦めかけた時、望に同居を持ちかけてきたのはマンションのオーナーである北条雪哉だった。
6千文字程度のショートショート。
思いついてダダっと書いたので設定ゆるいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる