あなたは僕の運命の番 出会えた奇跡に祝福を

羽兎里

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「マシュー君、テストをしましょうか。」

僕の部屋を訪れたジーク兄様が、急にそう言いました。
何でも、僕の体調もほぼ完治したと先生に報告を受けたそうで、
今後に付いての、事前調査だそうです。

「テスト…ですか?以前の事が思い出せない僕に解けるでしょうか。」

「そんなに気負わなくても大丈夫ですよ。
あなたにどの程度の一般的な記憶が残っているのか確かめるだけですから、
テストなんて、名ばかりです。
簡単なものから難しいものまで、ランダムに出してありますから、
分からなければどんどんパスして下さい。」

そう言って、僕の前に30枚ほどの紙の束を置いた。
こんなに解くのですか?

「大変かもしれませんので、時間は1日差し上げましょう。それとこれを。」

そう言って何冊かのいろいろな本や紙の束をテスト用紙の横に置く。
見てみると、辞書やこの国の歴史を書いた本、地図、その他色々な資料でした。

「あんちょこです。参考にして構いませんよ。それと、これも。」

そう言って、サイドテーブルに、紅茶のポットとカップ、色々なお菓子の乗ったお皿を置いてくれました

「しばらくは誰にも邪魔させませんから安心して下さいね。
あなたのエロ狼殿も今日1日、船に放り込んでおきましたから。
ただ私は時々寄らせていただきます、分からない事が有ったら遠慮なく聞いて下さい。
それと、用が有るときはそこのベルを鳴らしなさい。すぐ来ますからね。」

「はい、ありがとうございます。」

「気負わず、リラックスして、出来る物だけやればいいのですからね。では、また後程伺います。」

そう言ってジーク兄様は出ていかれた。
良かった。資料を見てもいいなら、そう重要なものでもないんだろう。
とにかく一通り目を通してみようかな。


「ふふ、何かおかしい。」

取り合えず、30枚全部見てみたけれど、よくまあ、ここ迄雑多なものを作ったなと感心してしまう。
だって、小さな子供でも解けるような足し算の次に、
見たことのない数式の問題が並んでいたり、
その後に、この料理の作り方を述べよなんてあったり、何か楽しくなってしまう。

「この様子なら、分かるものだけなら半日もかからず出来そうだ。
後はゆっくり調べながらやればいいかな。」

それならまず、分かるものだけ片付けてしまおう。
そう思って、1枚目を手に取った。


ふと気が付くと、14枚ほどやり終えていた。
終えていたと言っても、分かるものをざっと記入しただけ。
分からない物や、時間のかかりそうな物は飛ばしている。

「ずいぶん集中しているようですね。」

わっ、びっくりした。いつの間にかジーク兄様が僕を見下ろしていた。

「お茶のお代わりを持ってきたんですが、
ノックをしても返事がなかったので入ってしまいました。どうですか?進み具合は。」

「取り合えず分かるものだけやってしまおうと思ってやっています。
その後残ったものを、この資料を使って調べてみようと思っています。なんか楽しいです。」

「そうですか、なるほど……。」

そう言いながら、ジーク兄様は僕のやり終えた用紙を眺めている。
ちょっと自信のない所もあるので恥ずかしい。

「あまり根を詰めるのはよくありません、少し休憩しましょう。」

そう言って、サイドテーブルのカップに暖かい紅茶を入れなおして僕に勧めてくれる。

その後も、何度か部屋を訪れ、
お昼を持ってきてくれたり、気分転換させてくれたり、答案を見ながら、資料のアドバイスしてくれたり、
いろいろ相談に乗ってくた。



「マシュー君は、この先どうされたいと思っていますか?」

これ以上、僕には解けませんと言って、30枚の用紙をジーク兄様に渡し、一息ついていると、急に聞かれた。
いえ、どうしたいかと聞かれても、逆に、僕はどうしたらいいのか聞こうかと思っていましたので……。

「そうですね、
たとえば、あなたは少将殿の妻として、屋敷で少将殿の帰りを待つ間、
趣味を持ち、他の方々との交友を深めたりする。
いわゆる普通の主婦業をなさるという選択が一つ。」

「嫌です。多分僕には合いません。
せめてお屋敷の中のお仕事をさせて下さい。」

「多分そう言うと思っていました。後は、どこかに職を見つけ、働く。
できればあなたはそうしたいのでしょう?」

「はい!」

「しかし、それは少将殿が許さないと思いますよ。」

僕もそんな気がします…。

「そこで私の提案です。このテストは、あなたの基礎知識を知ることはもちろんですが、
理解力、応用力、分析力、やる気を知る為だったんですが、あなたには十分その力が有ると思います。」

「はぁ…。」

ジーク兄様が何を言いたいのか良く分かりません。

「マシュー君、運命の番とは、αにとって片割れが傍に居てくれるだけで、いつも以上の能力が発揮されるのですよ。
ですから、こういう言い方をしては大変失礼ですが、
あなたにはいつも少将殿の傍に居ていただいた方が、こちらとしても都合がいいのです。」

「そうなんですか……?」

「ええ、そうすれば少将殿はいつも以上に働くはずですからね。」

でも、何かいやだな。
それって、僕は仕事をしているアダム様の傍にいつもくっ付いて居るだけで、何もしなくていいって事ですよね…。

「あなたの考えている事は分かりますよ。
自分は傍に居るだけの役立たずだと思ってしまうのでしょ?」

「……はい。」

「マシュー君、あなたは以前海が少し怖いと言っていましたね。今はどうですか?」

「そう…ですね。前よりは平気になってきました。
最近はアダム様も何日か海に出られるようになったでしょ?そんな日は、海を見ているほうが落ち着くんです。」

「そうですか…。
ねえマシュー君、例えば、今から新しい事を勉強する気は有りますか?
例えば船の航行に関しての基礎知識や、星の読み方、法律など。
かなり専門的で、覚えることも沢山あります。
全部覚えろとは言いません。
マシュー君がやりたいのであれば、出来る限りの事をお教えします。
そして少将殿の、特別補佐官として、船に乗る気はありますか?」

「そんな…。僕などに出来るでしょうか。」

「テストを見る限り十分可能だと思いますよ。」

「でも…、勉強している最中は、やはりアダム様と一緒には居られないですよね……。
でも、その後、ずっとアダム様の傍に居られるなら、僕は頑張ります。」

「いえいえ、もしマシュー君がその気であれば、
あのエロ狼はあなたをすぐに船に連れ込んで、仕事の合間に率先して教師になると思いますよ。
もちろん私も分からない事が有ればお教えします。」

本当ですか?
もし僕がアダム様のお仕事を手伝うことが出来れば、堂々とアダム様の隣に立っていられる……。

「当然です。そうでなくてもあなたは既に少将殿の奥様なんですから、胸を張っていなさい。
もっとも誰一人、あなたに冷たい目を向ける人はいないと思いますよ。」

(そんな命知らずは一人もいませんとも。
あのエロ狼が許しませんし、当然私も許しません。)

「もしマシュー君にその気が有れば、すぐにでも少将殿にお話ししましょう。
実はそうなるであろうと、船の少将殿の私室は既に改装を計画中なんですよ。
後はGOサインを出せば二日ほどの工事で出来上がってしまう状態です。」

そう言って、ジーク兄様はにっこり笑った。
それっていつ頃から計画を立てていたんだろう…。
相変わらず凄いなぁ、ジーク兄様は。
でも船のアダム様の私室ってどんな感じなのかな。
僕も船に乗せてもらえるのなら、今度見学させてもらおう。

「マシュー君が船に乗ったら、口実をつけて、色々なところに行きましょうね。
例えば、あなたの新しい家族に会いに行くのもいいでしょう。
南の港町に住んでいるんですよ。」

本当ですか!?嬉しい!ありがとうジーク兄様。


でもまさか船のアダム様の私室が、夫婦の部屋になっているとは思いもよりませんでした。
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