あなたは僕の運命の番 出会えた奇跡に祝福を

羽兎里

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航海 2

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僕が船に乗るようになって数日、
アダム様はようやく仕事をする気になってくれたみたいです。
でも、相変わらず僕を傍から放しませんでした。
と言うか、僕が傍から離れたり、離れようとすると仕事をしてくれません。
少しでも目の前から僕の姿が消えると、捜しに行こうとするそうです。
それを聞くと、とても嬉しくて、愛されていると実感しますが、それはそれ、
それでは仕事をする事も出来ませんし、
一人で用を足しに行く事すら出来ません。
僕はアダム様のお役に立ちたいのに。

「アダム様、これではアダム様の仕事に支障が出てしまいます。
アダム様のお役に立つために、お傍を離れる事だって有るはずですし、
一人で行きたい所も有ります。
僕なら大丈夫ですからちゃんとお仕事して下さい。」

「しかし、マシュー……。」

「大丈夫です。お傍を離れる時は、必ずどこへ行くか断ってから行きますし、それに、ほら。」

僕は、高い詰襟を引き、中の首のチョーカーを見せた。

「アダム様が下さったこれが有りますから、絶対大丈夫ですよ。」

「う、うむ。仕方ない。
では、俺から離れる時は必ず断ってから行く事、
それと帰りが遅いようなら、俺はすぐに探しに行くからな。」

「分りました。」

そう言ってにっこり笑った。

ジーク兄様が言うには、このチョーカーには何か細工がしてあるらしく、
噛まれることを防止する以外に、何らかの機械が仕込んであり、
僕がどこにいるのか、すぐ分かるようになっているそうです。
そこまでしなくても大丈夫だと思うんですが、
少将殿の心の平穏の為に我慢してやってくださいと言われました。

それから僕は、自分のできる仕事を探してできるだけお手伝いをするようになりました。
簡単な書類の整理や、集計などをさせてもらったり、ちょっとしたお使いにも行きます。
アダム様もだんだん慣れて来たのか、自分の仕事に集中できるようになったみたいです。
良かった。
さて、そろそろ時間もお昼になりますね。
今日は僕が食事の用意をさせてもらおう。

「アダム様、僕、食堂まで食事を取りに行って来ますね。」

一応声をかけたけれど、アダム様は他の方と打ち合わせをしているみたいで、
僕の声に気が付かなかった。
ジーク兄様も席を外しているみたいだな。
でも、もう時間になるし、
食堂までの通路も教えてもらったから一人で行っても大丈夫だよね。
僕はアダム様のお仕事の邪魔をしないように、そっとキャビンを出た。

「えーと、確かこの階段を下りて、左に曲がって、しばらく行くと……。」

うん、いい匂いがしてきた。こっちで間違いなかった。
ダイニングルームのプレートを確認してから中に入る。
昼前のせいか、中にはまだ人影はなかった。

「すいません、アダ…、少将様のお昼をいただきに来ました。」

「はい。って、お前一人か?
たしか少将殿と番様と二人分って聞いてるぞ。一人で大丈夫か?」

あ、そうか、僕の分も運ばなくちゃならなかったんだ。んー…。

「お前見ない顔だな。新入りか?まあ、俺もこの船に配属されたばかりだけどさ。
えーと、少将殿と、番様の食事となると、二人分でこれだけど、一人で運べるか?」

トレーの上には、かなり豪華な食事が沢山載っていて、それが二つ。
無理です……。

「しょうがねぇなぁ、今日は手伝ってやるから、明日からは二人で来いよ。」

「すいません。ありがとうございます。」

「そうだ、お前名前は?俺はセインってんだ。」

「あ、僕はマシューです。よろしくお願いします。」

「おうっ。こっちこそよろしくな。」

そう言って僕の肩をパンッと叩いた。
何かいいな。こういうのって、今まで無かった気がする。

「お前、生っちょろいから、一人分でも運べるか心配だな、大丈夫かよ。」

「頑張ります。」


そして僕たちは、それぞれトレーを持って、アダム様の部屋へと向かう。
道すがらセインさんと色々と話をした。

「へー、マシューはカシールの出身なんだ。俺はハブディックだ。確かカシールから4つほど離れていたな。近所じゃん。」

「そ、そうでしたっけ?ごめんなさい、僕よく覚えてなくて。」

「まぁ、俺も地理は苦手だけどな。」

僕は自分の事を、セインさんに聞かれないかとビクビクしていたけれど、幸い聞かれることは無かった。
セインさんは、道々この船の事を話をしてくれた。
本当は関係者以外通ってはいけないって言われているけれど、この階段を行くと抜け道なんだとか、
今度の金曜日のメニューBはお勧めだとか色々。

「そう言えば、お前飯はどうするんだ?食堂に喰いに来るのか?」

「いえ、……僕は持ち場からあまり離れられないので、そちらで食べることになると思います。」

「そっか。まぁ、たまには食堂に喰いに来いよ。サービスしてやるからさ。」

「ありがとうございます。ぜひ!」

嬉しいな。友達になってくれないかな。

「なあ、今度下船した時、一緒に遊びに行かないか。」

「えっ、う、嬉しいです!
でも、僕入ったばかりで、覚える事が沢山有って、いつお休みが貰えるか分からなくて……。」

「そっか。それなら俺はいつもあの食堂にいるからさ、声かけてくれよ。」

「ありがとうございます。その時はまたお話させてもらえると嬉しいです。」

そう言ってにっこり笑う。

「お、おう。」

セインさんも、笑い返してくれた。本当に嬉しい。

アダム様の部屋が近づくと、そのドアの前に誰かが立っている。
ジーク兄様だ。
セインさんも、気が付いたようでジーク兄様に丁寧に頭を下げた。

「少将殿と、番様のお食事をお持ちしました。」

「……しました。」

僕も小さな声で言った。
だってそのジーク兄様の目、怒っていますよね?絶対に。

「ご苦労様です。預かりましょう。
君はそのまま中に運んで下さい。」

「お願いします。じゃあなマシュー、またな。」

「はい、ありがとうございました。」

そう言ってセインさんは引き返していった。

「仲良くなられたんですか?」

「はい!」

僕は嬉しくて、多分笑いながら答えた。
何故かジーク兄様はため息をついてらっしゃる。


「マシュー君、約束を破りましたね。」

「え?」

「あなたは、ちゃんと断ってから出かけましたか?」

あっ、え…と。

「一応声は掛けたんですが、アダム様が忙しそうだったので、邪魔してはいけないと思って……。」

「ペナルティですよ。
あのエロ狼を止めるのは大変だったんですから。
あなたが何処に居るのかはすぐ分かったのですが、
それでも説き伏せ、閉じ込めるのは本当に大変だったんですよ。
部屋に入るのは、覚悟して入って下さいね。」

え、入るのに覚悟がいるんですか?

「で、でもご飯は……。」

「預かります。」

そう言って僕の持っていたトレーまで、ひょいっと片手で受け取った。
見かけによらず、力が有るんですね。ジーク兄様。

「どうぞお入りください。くれぐれも気を付けて。」
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