あなたは僕の運命の番 出会えた奇跡に祝福を

羽兎里

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旅 1

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「1月ほど旅行に出ようと思うんだが、マシューは大丈夫か?」

マシュー君も、仕事にもだいぶ慣れてきたある日、少将殿が突然そう言った。

「えっ、旅行に行かれるのですか?」

マシュー君が面食らったような顔をしている。
それもそうでしょう。いきなり1月も旅行に行くなどと言われれば戸惑ってしまいますよ。

「アダム様、旅行に行かれるんですか?
それも1ヶ月もだなんて……。
でも、アダム様はとても偉い方だから、それぐらい普通にあった筈ですよね。
もしかして、今まで行かれなかったのは、僕が傍にいるようになったせいですか?
…大丈夫です。少し寂しいけど、僕はアダム様がいない間、しっかり留守をお守りします!」

「……マシューの気持ちは嬉しいが、この旅行はマシューも一緒に行かなくては、意味が無いんだよ。」

「えっ?」

「今考えているおおよその予定は、ソレイユのジークの実家に行き、マシューの家族を紹介してくれた礼をする。
それからリーエンツの俺の実家に顔を出し、一応姉の所にも行こうと思っている。
それから色々観光しながら、カシールに、マシューの家族に会いに行こう。
本当は一番先に連れて行ってやりたかったが、工程を考えるとどうしてもこの順番になってしまうんだ。
すまないな。」

「えっ、そ…それって……。」

「あぁ、前からの約束だっただろう?
ハネムーンのつもりで、この際色々なところを回ってこよう。
純粋なバカンスではなくなってしまうが、
何せ時間が無い身なんだ。
マシューにとっては不服かもしれないが、ちゃんとしたハネムーンは、
俺が引退したら、ゆっくりと連れて行くから我慢してくれ。
何、あと数年の我慢だ。」

そんな、とても嬉しいです。
ずっと、皆さんに会ってお礼が言いたいと思っていたんです。
やっと夢がかないます。

「少将殿、あと数年って、あなたそんなに早く引退するつもりですか?
そんな事出来るとお思いですか?出来る訳有りませんよね。分かっていますよね。」

「ふんっ、いつ引退するかなど俺の勝手だろう。」

「ほうっ、まあ、やれる物ならやって見て下さい。」

挑戦なら受けて立ちますよ。

「しかし、全て回るとなると、やはり1月はかかるとは思いますが、そんなに時間が取れるかどうか……。」

「時間とは捻り出す物だろう?」

そう言い少将殿はニヤリと笑った。
そのスケジュール調整は、いったい誰がするのですか?とは言うまい。
お前に決まっているだろうと言うのは目に見えていますから。

「それと、せっかくの旅行なのに、野暮用で、ノルディスカスにも行かなければならなくなった。
すまないマシュー。」

「そんな!僕の為に連れて行っていただくんです。
ノルディスカス?と言うところでは、僕は大人しく待っています。
お仕事頑張って下さい。」

良かった。その地名を聞いても、マシュー君に動揺は無い様です。
取り合えず、こちらも予定通り、用事をこなせそうですね。

ライザー家の船の捜索依頼が出てから、既に5日経った。
いなくなった時の状況がはっきりしていたので、
形式上すぐに警察は動きはしたけれど、未だに船は発見されてはいない。
外洋に流れ出てしまったか、もしくは運良くどこかに流れ着いたのか。
まあ流れ着いたとしても、あの半島の可能性のある場所は、
殆どが手つかずの未開発地帯ですから、無事人里まで辿り着くには、かなりのラックが必要でしょう。


「しかし少将殿、ハネムーンより前に式を挙げるべきでは無いのですか?
心待ちにしている人は何人もいるのですよ。」

「体裁ばかり気にしている奴に祝ってほしくはないな。
それに、マシューを見世物にしたくはない。」

だと思いましたよ。
番の独占欲は、かなりの物らしいですからね。

「しかし私の実家にも行くと言う事は、
まさかそのハネムーンに、私も同行しろとは言いませんよね?」

「安心しろ、ハリーも同行させる。」

「…………。」

私はいいのです。もう諦めていますから。
しかし、つまりは1月近く、ハリーを番から引き離すつもりですか?
たしかに彼の伴侶は、運命の番では有りませんが、夫婦仲はかなり良かったはずです。
鬼ですか貴方は。
分かりました。
その時間作り、私が何とかしましょう。
その代わり、どんなに忙しくなろうとも覚悟しておいてくださいね。



アダム様が、急に旅行に行くと言った時はとても驚いたけれど、でもとてもうれしかった。
だって、今まで会いたかった人たちに、ようやく会いに行けるのだから。

アダム様の仕事がようやく一息ついたのは、それから1月半ほどたったころだった。
船で移動したり、陸路で列車などに乗ったり、とっても楽しかった。
ジーク兄様のご家族にお会いして、歓迎されたり、アダム様のお屋敷にお邪魔して、とても良くしてもらって、皆様本当にいい人たちばかりで僕は、ただお礼を言うだけしかできず、とても心苦しかった。
でも、驚いたのは、アダム様のご実家の屋敷の大きかった事。

「まあ、彼は一応侯爵ですからね。これ位は普通でしょう。」

「アダム様は、侯爵様……!?それでは、
アダム様のお嫁さんの僕も侯爵になるんですか…?」

「当たり前では有りませんか。」

何か、とんでもない展開で、頭の中が付いて行けない……。  

アダム様のお姉さまはとても面白い方で、
“アダムを消してあげるから、私のお嫁さんになりなさい”なんて冗談を言ったりして、本当に楽しい日々でした。
そして今日はとうとう、僕の家族に初めて会うため、カシールの港に着きました。

「どうした、マシュー?」

「僕、大丈夫でしょうか?気に入っていただけるでしょうか…。」

「大丈夫ですとも、皆心待ちにしてましたよ。さ、車を待たしてありますから、早く行きましょう。」

そうして僕たちは、止まっていた黒塗りの大きな車に乗り、僕の家族の待つ家に向かった。

「大きなお屋敷ですね…。」

「まぁ、子爵の家柄ですからね、これぐらいは普通でしょう。」

子爵様なんですか?そ、それでは僕は子爵様の子供なんでしょうか。

「そうですよ。お伝えしていませんでしたか?まあ少将殿が、侯爵ですので丁度いいのではないですかね。」

益々とんでもない展開になってきた。


僕たちが玄関に降り立つと、扉が開き中から執事らしき人が出てきた。

「お帰りなさいませ、マシュー坊ちゃま。」

微笑みながらそう言ってその人は迎えてくれた。
お帰りなさい。
この家は、僕が帰って来てもいい場所なのですか?
振り返り、アダム様や、ジーク兄様に聞いてみたかった。

「彼は、あなたの家の執事、名前はモーガンです。」

「どうしたマシュー、挨拶を忘れてしまったわけでは無いだろう?」

僕はモーガンを見つめた。そして笑いながら彼に伝える。

「ただいま、モーガン。」

ただいまと、久しぶりに言った気がする。
そのせいなのか、とても懐かしい。

「ずっとお待ちしておりましたよ、ご主人様や、ご家族の皆様。そして私も。」

「ありがとう、モーガン。」

「さ、こちらへどうぞ。」

そして通された先には、優しそうな人たちが僕を待っていてくれた。
小柄で綺麗な夫人が、両手を広げゆっくり歩いてくる。
そしてふんわりと僕を抱きしめた。

「おかえりなさい、マシュー。会いたかったわ。」

そう言うと、僕の額に暖かいキスをしてくれる。

「お…母様?」

「そうよ。可愛いマシュー。私の名前は知っていて?」

「えっ、ミディア…。」

「そう、ミディアお母様ですよ。良く出来ました。」

そう言って僕の頭を撫でる。
何かこそばゆいけど、ものすごく嬉しい。

「さ、あなたのお父様と、兄様も待っているわ。」

そう言って、僕の手を引き、二人の下に僕を連れて行く。
この人が僕のお父様。この人が僕のお兄様。

「良く帰って来たね、マシュー。体はもう大丈夫かい?」

そう言って、僕を抱きしめてくれる。

「はい、すっかり。クロードお父様。」

この方は、何故か僕に少し似てらっしゃる。
きっとジーク兄様がご自分の親戚の中で、似ている方を探して下さったのかもしれない。

「お前結婚したんだって?いじめられてないか?何か有ったらすぐ家に帰って来いよ。」

そう言って、僕の頭をワシャワシャとかき回すのはお兄様なのでしょう。

「有難うございます、ケネス兄様。大丈夫ですよ。」

そう言って笑いかける。
この人たちは僕を家族としてちゃんと受け入れてくれている。
僕をΩとしてさげすまない。無視などしない。
ジーク兄様達も、アダム様達も、こちらの人達みんな優しくて、暖かい……。
こちらの人たち…、では違う人たちは?どうなんだろう……。
もう思い出さないと約束したのに、一瞬過去へと思いをはせる。

「いけませんよ。マシュー坊ちゃま。今はもう前をお向きになって、ご自身のこれからを、幸せになる事だけ考えればよろしいのですから。」

それでいいのでしょうか、モーガン。
それでは僕だけが幸せになるような気がして、心苦しいのです。

「そんな事は有りません。
アダム様や、他の皆様はあなたの心からの笑顔をご覧になり、
あなたの幸せそうな様子を見る事がとても嬉しい筈です。」

「本当に?」

「本当だとも、お前が幸せでないと俺も不幸になってしまう。
だから俺はお前が幸せになるよう、思い切り愛するから覚悟しておけ。」

そう言って僕を腕の中に閉じ込め、抱き締めてくれる。
アダム様。僕はもう、とても幸せですよ。
これ以上幸せになるには、どうやればいいのか分からないぐらいに。


「さあさあ、今はそれぐらいにして、今日はゆっくりしていけるのでしょう?
お食事の用意もしてあるのよ。行きましょうマシュー。」

僕はお母様の、暖かくて柔らかい手を繋いで、ダイニングに通された

ダイニングは、べージュを基調とした、温かい雰囲気の食堂だった。
片隅には、季節の花が生けられている。
席に着き、次々に出される食事を堪能する。

「これは…アスパラガスですか?でも、白いアスパラガスって僕初めて見ます。」

「あぁ、珍しいな。」

「そうですね。めったに手に入らない物ですが、
たまたま馴染みの商人が手に入ったのでぜひにと持って来たのですよ。」

「そうですか。不思議ですね。」

「何でも太陽の光に当てないように栽培するそうです。
柔らかくておいしいそうですよ。ぜひ食べてみてください。」

初めて食べる物に、恐る恐る口に運んでみる。

「本当だ!いつも食べるのよりずっと柔らかくて美味しい。
でもちゃんとアスパラガスの味がします。」

「喜んでいただき何よりです。」

嬉しい、楽しい、何もかもが素敵。

「マシュー様、本当にようございました。」

そう言ってくれるモーガンも、とてもうれしそうです。
でもとても感激屋さんなんですね。
目元に涙をためて、ハンカチで拭っていらっしゃいました。

デザートにはゼリーが出されました。
何てことはない、見た目も普通のゼリーです。
でも一口食べると、なぜか不思議と涙が出てきた。
中にはダイスに切ったリンゴのコンポ-トが入っています。

「美味しい。とても……。」

そして懐かしい。
何故かそう思った。

「し、失礼しました。マシュー様、他のものとお取替えします。」

なぜ?とても美味しいのに。
どうして僕から取り上げるの?モーガン。

「ま、マシュー!どうした?何故泣いている。」

「えっ……。」

僕は知らぬ間に涙を流していたようです。

「分かりません。あまりにも幸せで、
このゼリーがとても美味しいからでしょうか?」

そう言って僕は笑った。




「申し訳ございません。エリック様がお好きだったリンゴのゼリーを食べさせてあげたくて、
つい出してしまいました。
本当は、過去を思い出すものなど、一切触れぬようにしなければならなかったものを……。」

「仕方ありません。あなたはマシューの事を誰よりも知っている人です。マシューの事を思ってしたことでしょう?
でもこれからは気を付けて下さいね、モーガン。」

「はい。奥様。本当に申し訳ございませんでした。」
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