あなたは僕の運命の番 出会えた奇跡に祝福を

羽兎里

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エリック達のとても幸せそうな様子に安堵し、彼の頬を撫でる。

「ごめんなさい。今まであなたに酷い事をしてしまって。辛かったでしょう?」

しかしエリックは、言われた意味が分からないとでも言うように、キョトンとした目をした。

「お姉さまは、僕に酷い事などしたことなんて有りませんでしたよ。」

「でも、私はあなたの言葉を無視したり、避けたりしてきたわ。」

「だってそれは、お仕事をなさっているから当然の事です。
それなのに、それも分からず僕はお姉さまに纏わりついていた。
さぞかし鬱陶しかったはずです。
でもお姉さまは、僕を怒鳴ったり、嫌な事を言った事など一回も有りませんでした。
だから、お姉さまの迷惑を考えなかった僕の方こそごめんなさい。」

ずっと仲よく遊んできた姉弟なのに、いきなり冷たくされた。
それでも自分でそれなりに考え、理解してきた。
なんて健気でいい子なの。
私は改めて、若かったとはいえ周りの者に屈服してしまった自分を恥ずかしく思う。
すると、エリックがふと私の手を見て目を見張った。

「お姉さま、…指輪。」

あぁ、そうだったわ。

「実はね、私結婚したの。何時だと思う?」

するとエリックは少し悲しそうな顔をした。

「アっ…、ごめんなさい、あなたにとって意地悪な言い方をしたわ。」

「そんな。」

私は傍らのイアンの手を引き寄り添った。。

「エリック、彼の名はイアン・エヴァレットと言います。
ついさっき…ここに来る前に役所に寄って婚姻届けを出してきたのよ。」

「えっ!それなら、結婚したばかりなんですか?」

「そうなの。新婚ホヤホヤ。最もお付き合いは、もう何年も前からだったから。」

するとエリックは、少し考えてから、

「え…と、イアン様…、たしかお姉さまのお仕事を時々手伝っていた方…で合っていますか?」

「そう、そうよエリック。」

正式に紹介した事は無かったはずだけど、きっとどこかでイアンの名を聞いていたのでしょう。
そしてそれを覚えていてくれた。
ただそれだけでも、今の私にはとても嬉しい。

「おめでとうございます、お姉さま。末永くお幸せに。」

「ありがとうエリック。」

「では、あなたはシルビア・エヴァレットに?」

ランセルさん。それにはいろいろな質問が含まれているのでしょう?
私がライザー家に見切りをつけたのかどうか。
この先、残っている残債について、どう対処するかも。
そして私は、この後の私の返事にあなたがどんな顔をするのか興味があるわ。

「いえ、残念ながら、私はシルビア・ライザーのままです。」

「ほぉ。」

それは、賛辞と取ってもいいのかしら。
あら、いけない。人の裏を読んだり、分析をする事は控えるって、イアンと約束したばかりなのに。

「ギランさん、一つだけお願いがありますの。」

そう、これだけは、絶対に叶えていただかなくては。

「難題でない事を期待しますが。」

「母の事はご存じ…ですよね。」

「ええ。」

「ぜひ、母をエリックと会わせてあげたいのです。
母はエリックの事を凄く心配しています。
そしてとても心を痛めていると思うのです。
お願いします。二人を会わせてもらえないでしょうか。」

私自身は、運命の番の独占欲や地理的な距離も考え、
もうエリックに頻繁に会う事は叶わないと思っている。
もしかすると、もう二度と会えない可能性もある。
だけど、せめて一度だけでも母とエリックを会わせてほしいという確約が欲しい。

「大丈夫ですよお姉さま。
だって僕たち、イスパルダに帰る途中カシールに寄って、お母様達に会うのですから。」

えっ?エリック、お母様は今カシールに居るの?
いえ、そんなはずはないわ。お母様はまだ、メイルシュトに居るはず。
………もしかしてあなた、記憶が混濁している?

「マシュー君、シルビアさんは、どこに住んでいるのかご存じですか?」

「え?お姉さまは、ここノルディスカスに住んでいますよ。
大丈夫です。僕ちゃんと思い出しましたよ。」

そう言ってエリックは、私を見てほほ笑んだ。
そう、エリックは、私の事は認識してくれている。
では母の事は…。

「カシールのご家族の事は覚えてらっしゃいますか?」

「えっと。」

暫く不安そうに考えている様子だったエリックは、やがて晴々とした顔で話し出した。

「カシールには、僕の、エイムズの家族が住んでいます。
お父様の名はクロード、お母様の名はミディア、そしてケネス兄様。」

ね。ちゃんと覚えているでしょう。そう言うように誇らしげに笑っている。

「ではもう一つ聞きます。あなたのご家族はどこに住んでいますか?」

「ジーク兄様、それは、僕が記憶を失う前の家族の事ですね?
………お姉さまは、家は違いますが、このノルディスカスにずっと住んでいます。」

「ええそうよ。そしてあなたにもここに家族がいた。覚えている?」

私は恐るおそる聞いてみた。

「ええ、僕は此処で生まれ育って、此処に住んでいた。当然家族がいる筈。お姉さま以外の家族が……。」

そう言うと、眉を寄せしばらく考えていたエリックは、
やがてアダムさんを振り向くと困ったような顔をして、彼に両手を差し出した。

「マシュー。」

彼はエリックを抱き寄せると、そのままの膝に乗せるようにソファに座り込んだ。

「アダム様、アダム様……。」

微かに震えるように彼の名を呼ぶエリック。

「マシュー、無理に思い出そうとしなくてもいい。」

そう言いながら、そっとエリックの髪を撫でている。

「いえ、多分ほとんどの事は思い出しました。お父様や、ベネットお兄様、ロバートお兄様の事を。」

そう言うと、体をぶるっと震わせる。
たぶん自分がされてきた事も思い出したのでしょうか。

「でも、お母様がいないのです。家族だから当然いる筈なのに。お母様の事が思い出せない。何故!?」

そう言ってアダムさんに、必死にしがみ付くエリック。
たぶん自分でも、いる筈の存在が記憶から抜け落ちてしまっている事が、歯痒くて仕方がないのでしょう。

「大丈夫よエリック。お母様に会えば、きっと思い出すわ。」

「そうで…しょうか。」

「心配しないで、お母様はとてもやさしい人で、エリックの事をとても心配していらっしゃったわ。」

それを聞いたエリックは、不安そうな顔を少し緩め、微かにほほ笑んだ。

「マシュー、カシールに行けば、義父上がいる。きっといいアドバイスをくれる。だから安心しておいで。」

「そうですね。お父様に会って話を聞いてもらって……。うん、きっと大丈夫ですよね。」

カシールの、にわか作りの家族。
でもそれはエリックにとって、今は本物以上の家族になっている。
私の心には寂しさと、羨ましさが襲ってくる。
私の周りには今は……。

「シルビア。」

そう私を呼ぶ声とともに、後ろから抱きすくめられた。

「イアン、私にはあなたがいる。これからずっと…。そうよね?」

「あぁ、その通りだ。君の傍にずっと一緒にいるよ。」

そう言うと、イアンはちょっと待っていて、と言い、私から離れギランさんの方へ歩いていく。

「という訳で、大変申し訳ありませんが、これをカトリーヌ様にお渡し願えますか?」

そう言って、一通の封書をギランさんに差し出した。

「退職願い…ですか。」

「はい。多分これから、私用で忙しくなりますので、
この仕事を続けていけるほどの暇は無くなります。
カトリーヌ様には、よろしくお伝え下さい。」

「だが、あなたにとって、この仕事を続けていた方が利点があるのでは?」

「まあ、そうでしょうが、私もそう器用では有りませんから。
研究の方は、この件が片付きましたらまた少しずつでも始めますよ。」

そう言って笑う。
ごめんなさい。私の為にあなたの仕事を奪ってしまって。
でも、私が今更何を言っても、あなたは自分の考えを変える気はないのでしょう?
それを分かっているから、私はもう、これ以上何も言わない。

「取り合えずこれはお預かりしましょう。
この件については後日姉の方から連絡が行くと思いますが、
それ以外にも楽しい事がいろいろと起こると思いますよ。」

「楽しい事ですか?それは誰に取ってでしょうか。
あまり聞きたくは有りませんね。」

まあそう言わずに。
エリックを抱きしめたまま、ギランさんが言う。

「とにかく、お母様の方には連絡を取ってもよろしいでしょうか。
連絡が取れ次第、何時どこで会うのかをご相談できればと思います。」

「分りました。連絡をお待ちします。マシュー、それでいいかい?」

「はい、アダム様。」

そう言ってエリックは頷いた。



その場を辞した私は、帰りの車の中でイアンに聞いてみた。

「あんなに辛い目に遭わせられたお父様達の事を覚えていたのに、
何故エリックは、お母様の事だけ忘れたままなのかしら。」

「それは分からないな。………。
たしかお母さんは、メイルシュトの港でエリック君に会っているんだろ?」

「そう、お母様自体は、エリックによく似た子に会ったと思っていらっしゃるけど、
本当は、エリック本人だったはずよ。」

「その時何かあったのかな?」

「さあ、手紙にはこれと言って書かれていなかった気がするけれど。」

「そうか…。まあ、医者であるクロード様が、解決策を見つけてくれることを祈るしかないな。」

「そうね。」

そう言って、私は運転中のイアンにそっと触れた。

「運転中なんだけど。」

「ふふ、そうね、ごめんなさい。」

でも、新婚中の妻ですもの。少しは甘えさせて。
そして、帰ったら、たっぷり可愛がってね。
そんな私の気持ちを、知ってか知らずか信号待ちの時、イアンは私の頭に素早くキスをし、笑っていた。
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