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全ては起こるべくして起こり、収まる所に納まる 1
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自分自身が情けない。
切ない、もどかしい。
自分の感情にやりきれなくなった僕は、
助けを求めるようにアダム様に縋りついた。
どうして僕は、ノルディスカスのお母様の事を忘れてしまったのだろう。
自分を生んでくれた母親なのに、名前すら思い出せなかったなんて。
お母様はとても優しい人で、僕の事を気にかけてくれているとお姉さまが言っていた。
そんな人を僕は忘れてしまうなんて、なんて薄情な息子なんだろう。
もしかして、他にもまだ思い出せないことが沢山あるのかもしれない。
人だけではなく、約束や仕事など僕の成さなくてはならない事がまだ有るのかもしれない。
「アダム様、僕は…。」
「いっそのこと、俺の事以外全部忘れてしまえばいいのに。」
「はい?」
「そうすれば、マシューは余計な事に悩まなくて済む。
俺の事しか考えなくなるだろ?
万々歳じゃないか。」
「そんな、乱暴な…。
でもそうだったら本当に楽だったかも知れませんね。
だけどそうなると、僕はアダム様だけの人形になってしまいます。
ただの人形なんてつまらないでしょう?」
アダム様は微笑みながら僕を見つめている。
「そうか…、人間って、人形じゃないんですもの。
色々なことが有って当然なんですね。」
「そうだな。切っ掛けはいくらでも有る。
いずれ母親の事を思い出せるかもしれない。
そう悩んでばかりいると疲れてしまうよ、もっと気長に構えた方がいい。」
「そうします。ありがとうございますアダム様。」
やはり気にはなるけれど、忘れている物を気付く度に、
こんなことを繰り返していては、アダム様に心配をかけてしまう。
アダム様の言う通り、もっとゆったりと余裕を持たなければ。
「ありがとうございます。大好きです、アダム様。」
「俺も愛しているよ。だが、さっきの事は少し本音が入っているんだがな。」
「それって、アダム様の人形…の事ですか?
えっと、たしかに僕はアダム様のものだからそれもいいかなって思いますが、
やっぱりジーク兄様や、お父様やお母様や、優しくしてくれた人の事は、忘れたくない…と思います。」
するとアダム様は、分かっているよと笑いながら抱きしめてくれる。
僕は今、ちゃんと生きている。
だからこんなに幸せな事も辛い事も有るんだ。
でもそれが生きている事の証だから。
もしあの時、僕の命が尽きていたら、僕はアダム様に会えなかったのだから。
「マシュー。」
「はい。」
「実は明日、人に会う約束が有るんだ。
だが、もしマシューが気が進まないようだったらお前は会わなくてもいい。」
「僕も一緒に会う予定だったのですか?」
「ああ、だがそれはマシューが記憶を取り戻す前の予定で進めていた事だ。
今はもう、反って会わない方がいいかも知れない。」
「どなた…ですか?」
「こちらの大手の企業で、以前から我が家の会社と提携してもらえないかと申し込まれていた会社の代表だ。
つい最近、と言っても数か月前だが、やはり運命の番を得たと聞いている。」
「運命の番…、それはもしかして……。」
「マシュー、奴に会う約束をしたのは、お前の記憶が戻る前の話だ。
奴と会って、お前がどう反応をするかを確認したかったのだ。
だが記憶が戻った今となっては、その必要は無くなった。
俺も、もう会う必要も無いかと思っているが、
ただ、それでも会う約束をそのままにしていたのは、
奴がマシューの事をどう思っているのかを知りたいだけなんだ。
だがそれは俺の考えであって、お前はその事を気にしなくていい。
お前の気が進まないのであれば会う必要は無い。いや、会わない方がいいだろう。」
「いえ、会います。会わせて下さい。ご迷惑はおかけしませんから。」
「何故…と聞いてもいいか?」
「僕が愛しているのはアダム様ただ一人です。
でも、あの時の気持ちが…、
それを引きずったままではいけないと思うんです。
僕の中で決着を付けたいんです。」
「そうか…、えらいなマシューは。」
そう言ってアダム様は僕の頭を撫でる。
アダム様って、よく僕の頭を撫でますけど、
僕はそうされると、アダム様が僕を子供扱いしているような気持になります。
でも、僕の事を子供だと思っていたら、きっとあんな事するはずないし、
好きだと何度も言ってくれる。
だからこれは、アダム様の愛情表現なんだろうな。
まっ、いいか。
嬉しいから。
「マシュー、もしお前が昔の名を名乗りたいのであれば俺は反対はしない。
だが、マシューは俺の唯一だ。それだけは忘れないでくれ。」
それを聞いた僕は、ちょっと腹が立ったんですけど。
「アダム様。」
「ん…?」
「僕言いましたよね。」
「……。」
「僕の記憶が戻った時、はっきりと言いました。
僕の名前はマシュー・ギランだと、あなたの妻だと言いました。
まさか聞いていなかったなんて言わないで下さいね。
もし聞いていなかったなんて言ったら…………。」
「聞いていた。覚えているとも。悪かった。
だから今の事は聞かなかった事に、いや無かった事にしてくれ。」
「またそんな事を言ったら、そうですね、差し当って絶交でもしましょうか。」
多分絶交と言ってもちょっとの間、数十分、いや、数分の間かもしれないけど、その事は言わないでおきます。
見ると、アダム様の顔が、困り切った表情をしています。
僕だって、言う時は言うんですからね。
「明日は、マティアス様の顔を見るだけでもいいんです。自分の心に区切りを着けたいだけですから。」
「分った。だが、マシューの出方はマシューに任せる。
もし以前の話をするとしても、お前が決めたことだ。俺はお前の出方に従う。」
「そんな、アダム様が僕に従うなんてダメです。
僕はアダム様の考え通りにしますから、何でも言って下さい。」
「マシュー、冷たい言い方に聞こえるかもしれないが、これはお前とワロキエ氏の話だ。
お前が彼に会い、決着を付けると言った以上、自分の考え通りに進めてごらん。
俺は決してお前を突き放すつもりで言っている訳では無い。
何が有ろうと、お前の傍にいて、手助けをしてやる。
だから安心しておいで。」
「ありがとうございます。そうですね…僕もう一度考えてみます。」
「分った。今夜一晩、ゆっくり考えてみてごらん。」
「ありがとうございます。……ふふ、アダム様、今夜は僕に考える時間をくださるんですね。」
「そ…、そうだな。」
アダム様は今、自分の言った言葉に、少し後悔しているのでしょ?
そして次の日、マティアス様は時間通り僕たちの泊まるホテルに現れた。
一人の少年を伴って。
切ない、もどかしい。
自分の感情にやりきれなくなった僕は、
助けを求めるようにアダム様に縋りついた。
どうして僕は、ノルディスカスのお母様の事を忘れてしまったのだろう。
自分を生んでくれた母親なのに、名前すら思い出せなかったなんて。
お母様はとても優しい人で、僕の事を気にかけてくれているとお姉さまが言っていた。
そんな人を僕は忘れてしまうなんて、なんて薄情な息子なんだろう。
もしかして、他にもまだ思い出せないことが沢山あるのかもしれない。
人だけではなく、約束や仕事など僕の成さなくてはならない事がまだ有るのかもしれない。
「アダム様、僕は…。」
「いっそのこと、俺の事以外全部忘れてしまえばいいのに。」
「はい?」
「そうすれば、マシューは余計な事に悩まなくて済む。
俺の事しか考えなくなるだろ?
万々歳じゃないか。」
「そんな、乱暴な…。
でもそうだったら本当に楽だったかも知れませんね。
だけどそうなると、僕はアダム様だけの人形になってしまいます。
ただの人形なんてつまらないでしょう?」
アダム様は微笑みながら僕を見つめている。
「そうか…、人間って、人形じゃないんですもの。
色々なことが有って当然なんですね。」
「そうだな。切っ掛けはいくらでも有る。
いずれ母親の事を思い出せるかもしれない。
そう悩んでばかりいると疲れてしまうよ、もっと気長に構えた方がいい。」
「そうします。ありがとうございますアダム様。」
やはり気にはなるけれど、忘れている物を気付く度に、
こんなことを繰り返していては、アダム様に心配をかけてしまう。
アダム様の言う通り、もっとゆったりと余裕を持たなければ。
「ありがとうございます。大好きです、アダム様。」
「俺も愛しているよ。だが、さっきの事は少し本音が入っているんだがな。」
「それって、アダム様の人形…の事ですか?
えっと、たしかに僕はアダム様のものだからそれもいいかなって思いますが、
やっぱりジーク兄様や、お父様やお母様や、優しくしてくれた人の事は、忘れたくない…と思います。」
するとアダム様は、分かっているよと笑いながら抱きしめてくれる。
僕は今、ちゃんと生きている。
だからこんなに幸せな事も辛い事も有るんだ。
でもそれが生きている事の証だから。
もしあの時、僕の命が尽きていたら、僕はアダム様に会えなかったのだから。
「マシュー。」
「はい。」
「実は明日、人に会う約束が有るんだ。
だが、もしマシューが気が進まないようだったらお前は会わなくてもいい。」
「僕も一緒に会う予定だったのですか?」
「ああ、だがそれはマシューが記憶を取り戻す前の予定で進めていた事だ。
今はもう、反って会わない方がいいかも知れない。」
「どなた…ですか?」
「こちらの大手の企業で、以前から我が家の会社と提携してもらえないかと申し込まれていた会社の代表だ。
つい最近、と言っても数か月前だが、やはり運命の番を得たと聞いている。」
「運命の番…、それはもしかして……。」
「マシュー、奴に会う約束をしたのは、お前の記憶が戻る前の話だ。
奴と会って、お前がどう反応をするかを確認したかったのだ。
だが記憶が戻った今となっては、その必要は無くなった。
俺も、もう会う必要も無いかと思っているが、
ただ、それでも会う約束をそのままにしていたのは、
奴がマシューの事をどう思っているのかを知りたいだけなんだ。
だがそれは俺の考えであって、お前はその事を気にしなくていい。
お前の気が進まないのであれば会う必要は無い。いや、会わない方がいいだろう。」
「いえ、会います。会わせて下さい。ご迷惑はおかけしませんから。」
「何故…と聞いてもいいか?」
「僕が愛しているのはアダム様ただ一人です。
でも、あの時の気持ちが…、
それを引きずったままではいけないと思うんです。
僕の中で決着を付けたいんです。」
「そうか…、えらいなマシューは。」
そう言ってアダム様は僕の頭を撫でる。
アダム様って、よく僕の頭を撫でますけど、
僕はそうされると、アダム様が僕を子供扱いしているような気持になります。
でも、僕の事を子供だと思っていたら、きっとあんな事するはずないし、
好きだと何度も言ってくれる。
だからこれは、アダム様の愛情表現なんだろうな。
まっ、いいか。
嬉しいから。
「マシュー、もしお前が昔の名を名乗りたいのであれば俺は反対はしない。
だが、マシューは俺の唯一だ。それだけは忘れないでくれ。」
それを聞いた僕は、ちょっと腹が立ったんですけど。
「アダム様。」
「ん…?」
「僕言いましたよね。」
「……。」
「僕の記憶が戻った時、はっきりと言いました。
僕の名前はマシュー・ギランだと、あなたの妻だと言いました。
まさか聞いていなかったなんて言わないで下さいね。
もし聞いていなかったなんて言ったら…………。」
「聞いていた。覚えているとも。悪かった。
だから今の事は聞かなかった事に、いや無かった事にしてくれ。」
「またそんな事を言ったら、そうですね、差し当って絶交でもしましょうか。」
多分絶交と言ってもちょっとの間、数十分、いや、数分の間かもしれないけど、その事は言わないでおきます。
見ると、アダム様の顔が、困り切った表情をしています。
僕だって、言う時は言うんですからね。
「明日は、マティアス様の顔を見るだけでもいいんです。自分の心に区切りを着けたいだけですから。」
「分った。だが、マシューの出方はマシューに任せる。
もし以前の話をするとしても、お前が決めたことだ。俺はお前の出方に従う。」
「そんな、アダム様が僕に従うなんてダメです。
僕はアダム様の考え通りにしますから、何でも言って下さい。」
「マシュー、冷たい言い方に聞こえるかもしれないが、これはお前とワロキエ氏の話だ。
お前が彼に会い、決着を付けると言った以上、自分の考え通りに進めてごらん。
俺は決してお前を突き放すつもりで言っている訳では無い。
何が有ろうと、お前の傍にいて、手助けをしてやる。
だから安心しておいで。」
「ありがとうございます。そうですね…僕もう一度考えてみます。」
「分った。今夜一晩、ゆっくり考えてみてごらん。」
「ありがとうございます。……ふふ、アダム様、今夜は僕に考える時間をくださるんですね。」
「そ…、そうだな。」
アダム様は今、自分の言った言葉に、少し後悔しているのでしょ?
そして次の日、マティアス様は時間通り僕たちの泊まるホテルに現れた。
一人の少年を伴って。
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